第22話. 荘園の授与
マルタンは公爵との話を終え、宿へ戻ってきた。
疲れも知らないのか、相変わらず口へ何かを放り込み続けているピエールとジャックの姿。
「領主様、どうなりましたか?」
マルタンは答えず、二人を見つめた。
二人を見ているうちに、叙任式へ出席しても問題ない方法を思いついた。
「ここでの生活に不満はないか?」
ピエールとジャックはきょとんとした表情を浮かべた。
「まあ……私たちは満足しています。」
「ええ、食事もちゃんと出してくれますし。」
マルタンは頷いた。
「それはよかった。これから四日間は外へ出るな。」
「……え?」
叙任式への出席が強制なら、出席しても誰だか分からないようにすればいい。
すでに顔を合わせた者が何人かいるとはいえ、それくらいは問題なかった。
できる限り顔を隠し、隅で静かに叙任式を見届けて立ち去る。
複雑なガスコーニュの政治に関わらないための最善策だった。
***
四日。
宿での時間はあっという間に過ぎた。
叙任式当日の朝。
ピエールが何やら悩み込んだような表情でマルタンを呼んだ。
「領主様?」
マルタンは顔を向けた。
「ここ数日ずっと考えていたのですが。」
ピエールは恐る恐る尋ねた。
「私とジャックは、外へ出てもよかったのではありませんか?」
マルタンは何も答えなかった。
「……領主様?」
マルタンは立ち上がった。
「もうすぐ叙任式だ。出る準備をしよう。」
四日間の待機。
それを終わらせる時が来た。
***
コンコン――
扉を叩く音。
やがて、見知らぬ男が一人部屋へ入ってきた。
ほどよく痩せた体格で、どこか人当たりの良さそうな印象を持つ男だった。
彼はマルタンへ顔を向けた。
「あなたがマルタン殿ですね。」
「誰だ?」
男は近づき、挨拶した。
「ベルトランと申します。父がガスコーニュの侍従長を務めています。」
マルタンは頷き、尋ねた。
「何の用だ?」
「メドックで最も多くの荘園を持つことになる領主が気になりまして。」
彼は微笑みながら続けた。
「幼いアイマル様の代理として、しばらくの間は私がレスパールを治めることになりましたので。」
幼い城主の代理。
侍従長の息子というだけあって、公爵からかなり信頼されているようだった。
「そうか。よろしく。」
「こちらこそ。詳しい話は道すがらいたしましょう。」
マルタンは眉をひそめた。
「……まさか叙任式へ一緒に行くために来たのか?」
「はい。」
ただの参列者ではない。
城主代理ともなれば、叙任式の中心人物だ。
「できれば別々に行きたいのだが。」
ベルトランは表情を引き締め、ゆっくり頷いた。
「ある程度は予想していましたが……この状況はあまり歓迎されていないようですね。」
彼は少し考え込んでから続けた。
「アイマル様がお気に召さないのですか? それともガスコーニュの政治へ関わるのがお嫌なのですか?」
マルタンは、より気に入らない方を選んだ。
「後者だ。」
ベルトランは頷いて尋ねた。
「ですが、すでにそのど真ん中へ飛び込んでしまったことはご存じでしょう?」
マルタンは淡々と答えた。
「領地へ戻ればましになるだろう。サンチョも公爵もここにいるのだから。」
「さて、どうでしょう。」
その場に立ったまま長く考え込むベルトラン。
やがて彼は口を開いた。
「サンチョ公と公爵様の仲はどうだと思われますか?」
マルタンは即答した。
「最悪だろう。」
ベルトランは予想通りだと言わんばかりに頷いた。
「皆そう思っています。ですが実際には、お二人の仲はそれほど悪くありません。」
「……そんなことがあり得るのか?」
マルタンの問いに、ベルトランは付け加えた。
「もちろん、それはアイマル様を除いた場合の話です。アイマル様に関しては、この数年間ずっと対立が続いています。」
意図の読めない話だった。
マルタンは率直に尋ねた。
「結論は?」
「サンチョ公の狙いは、公爵様ではなくアイマル様だということです。」
マルタンはしばらく考え込んだ。
「暗殺を企てているということか?」
「その可能性も否定はできませんが……サンチョ公が狙っているのは別のことです。」
ベルトランは再びマルタンへ尋ねた。
「公爵様がアイマル様をレスパール城主に任命しようとしている理由は何だと思われますか?」
「メドックへの影響力だろう。」
ベルトランは頷いた。
「その通りです。アイマル様には、まともな支持勢力がまったくありませんから。」
彼は落ち着いた声で続けた。
「メドックの中心であるレスパールを手に入れた以上、本来なら領主たちの忠誠を得ることなど難しくなかったはずです。」
マルタンは不思議そうに尋ねた。
「今は違うということか?」
「ええ。すでにサンチョ公の配下が、メドックの荘園領主たちを取り込むために動き始めています。」
ベルトランはさらに続けた。
「どうしてもマルタン殿がやってしまったことがありますから……こちらよりもサンチョ公につこうとする者が多いでしょう。」
「私がやってしまったこと、か……。」
マルタンが考え込んでいる間に、ベルトランは話を締めくくった。
「叙任式は始まりにすぎません。メドックへ戻ったら、まず領主たちの支持を確保しなければなりません。」
レスパールの宴会場から逃げ出した領主たち。
そして死者の跡を継ぎ、新たに領主となった者たち。
彼らだけでは新しい城主へ逆らおうとはしないだろう。
だが、サンチョが焚きつければ話は別だった。
『……それはまずい。』
彼らが城主へ逆らうこと自体は構わない。
問題は、他の荘園領主たちが一つの勢力としてまとまることだった。
恨みを抱く者たちが集まるのは危険だった。
考えをまとめたマルタンはベルトランを見た。
「具体的に、私に何をしてほしい?」
「一緒に荘園を回って領主たちを説得していただきたいのです。アイマル様が主催する忠誠宣誓式へ出席すると約束させるのです。」
マルタンは尋ねた。
「断る者がいたら?」
ベルトランはゆっくりと微笑んだ。
「……その時は、私がうまく処理いたします。」
物事を手際よく片づける者の笑み。
それを見たマルタンは無言で頷いた。
***
ボルドー大聖堂。
重厚な石壁で造られた巨大な建物。
マルタンはその隅であくびをしながら、ミサが始まるのを待っていた。
『遅いな。』
叙任式はミサの終わり際に始まるため、ミサへの参加は避けられなかった。
急な叙任式だったためか、それとも叙任式へ反対する者たちが欠席したためか、大聖堂の内部はかなり閑散として見えた。
ゴーン――
ゴーン――
ゴーン――
ミサの始まりを告げる鐘の音。
ほどなくして姿を現した司祭団は、香炉を持つ侍者を先頭に祭壇へ向かって歩いていった。
「In nómine Patris, et Fílii, et Spíritus Sancti.」
「Amen.」
名も知らぬ大司教のラテン語とともに始まったミサ。
ラテン語で聖歌が歌われ、いつしか聖書が朗読され、その後はガスコーニュ語による説教が始まった。
聞きたくもない神の話。
マルタンは目を閉じ、そのすべてを聞き流した。
『……ん?』
マルタンが再び目を開けた時には、すでにミサは終わっていた。
大司教自らが司るミサの威力。
マルタンは感心しながら正面へ目を向けた。
『もう叙任式が始まっているのか。』
祭壇のすぐ下。
公爵の隣で誰かが羊皮紙を読み上げていた。
「聖にして不可分なる三位一体の御名において、神の恩寵を受けしギヨームの子ベルナール、ガスコーニュ公爵がここに宣言する。」
彼は長い間、レスパール領の範囲や封臣として守るべき契約内容を読み上げ、やがて締めくくりに入った。
「主の降誕より千九年、聖ディオニュシウス祭の日、ボルドー大聖堂にてこれを公に執り行った。我らはこの事が永く堅持されるよう契約書へ署印を施し、これを確かなものとした。」
長い朗読が終わると、アイマルが前へ進み出た。
彼は公爵の前で誓いを立て、その後ベルトランも前へ出て、代理人としての誓いを済ませた。
『もうすぐ終わりだな。』
あとは有力者たちが前へ出て契約の保証として署印を施せば終わりだった。
ボルドー大司教、ガスコーニュ公爵、そして数名の有力者たちが順に契約書へ署印を始めた。
署印を終え、後ろを振り返ったガスコーニュ公爵。
彼は誰かを探すように辺りを見回し、マルタンと目が合った。
『……?』
前へ出ろと言わんばかりに顎をしゃくる公爵。
マルタンはそれを無視した。
「マルタン殿。前へ。」
静まり返った大聖堂に響き渡る公爵の声。
公爵の視線を追った人々が、一斉にマルタンへ目を向け始めた。
メドックでアイマルを助けるのはともかく、わざわざボルドーでまで注目を集めるつもりはなかった。
コツ、コツ――
マルタンは顔をしかめながら前へ進み出た。
「何でしょうか?」
公爵は当然のように言った。
「署印を。」
「……?」
城主と公爵との契約書。
それを荘園領主が保証するなど聞いたこともなかった。
「なぜ私が署印するのですか?」
「まあ……叙任式を急いだものだから、こうなった。」
マルタンはしばらく公爵を睨み、それから書記のもとへ歩み寄った。
書記が差し出した契約書。
その下部には、ガスコーニュ公爵、ボルドー大司教をはじめとする有力者たちの身分と名前が記されていた。
そして、その最後に書かれていた名。
――マルタン、ポワイヤック領主。
名前が記されているということは、最初からこうするつもりだったということだ。
マルタンはしばらく考えた末、書記から羽ペンを受け取った。
さらさら――
自らの名前の前に十字の印を記す。
それで署印は完了した。




