第15話. 武器を取れ
初めからロベールの話を持ち出すゴスルム。
マルタンは黙って彼を見つめるだけだった。
「そう見ることはない。」
ゴスルムは大したことではないというように薄く笑った。
「お前について初めて聞いた話が、その事件だっただけだ。あまりにも印象深い出来事だったので、口にしてみただけだよ。」
マルタンが答えた。
「はい。」
再び沈黙が続いた。
ゴスルムの顔から笑みが消えた。
「……まったく反応が面白くないな。」
彼は椅子の背にもたれ、マルタンへ尋ねた。
「イベリアで傭兵をしていたそうだな? その話でもしてみろ。」
マルタンはしばらく考え込んだ。
「……あまり面白くはないと思いますが?」
「戦場の話が興味深くないはずがない。ちょうどこちらにも、お前と同じくイベリアへ行った者がいる。」
ゴスルムは顔を向け、武官長を見た。
それに武官長は渋い表情を浮かべ、ゆっくり口を開いた。
「そう誇らしげに語れることではありません、城主様。」
「武官長、異教徒に立ち向かって戦ったこと自体が誇るべきことだ。お前は誰かのように金を受け取って戦ったわけでもないだろう?」
城主は再びマルタンへ顔を向けた。
「それで、イベリアはどうだった?」
マルタンは過去の記憶を思い返した。
イベリアで過ごした十年、コルドバを相手に一度の勝利すら得られなかった記憶。
マルタンはそれを初めから語り始めた。
「最初の戦争ではパンプローナの首都が焼かれ、数千人が奴隷として連れ去られました。次の戦争ではレオンとカスティーリャの貴族数百人が捕虜となり、その次にはバルセロナ近郊に住んでいた数千人が奴隷として連れ去られました。」
周囲の空気が冷え切った。
マルタンはそれを気にも留めず、さらに口を開いた。
「サモラは都市だけを残して荒れ果て、リバゴルサは人の住まない地域となりまし――」
ゴスルムは眉間に皺を寄せ、彼の言葉を遮った。
「いや、別の話をしてくれ。」
マルタンが尋ねた。
「どのような話をご所望ですか?」
ゴスルムは呆れた表情で答えた。
「戦場での武勲や、勝利した戦いの話だ。」
マルタンは頭の中にいくつかの記憶を浮かべたが、すぐにそれらを消し去った。
どうせ戦争の勝利はコルドバのものだったのだから。
「戦争に敗れたというのに、武勲や些細な戦いに何の意味がありますか。」
ゴスルムは頭が痛そうに額を押さえた。
「はあ……余計な話を持ち出したな。もう、持ってきた相続税を出せ。」
マルタンが革袋を取り出すと、侍従長が近づいてきて受け取った。
袋の中の金を一枚ずつ数えていた侍従長が、不思議そうな顔でマルタンへ尋ねた。
「……もしや、袋がもう一つあるのか?」
「それが全部だ。」
顔をしかめ、武官長を見る侍従長。
それにゴスルムが尋ねた。
「侍従長、どうした?」
「この者が持ってきた相続税は、領地の一年分の収入に近いように見えますが、武官長はきちんと話を伝えたのですか?」
武官長が困惑した表情を浮かべた。
「そんなはずはない。」
彼は壇上から下りると、侍従長から袋を受け取った。
袋の中の金額を確認すると、マルタンを殺さんばかりに睨みつけた。
「これはどういうつもりだ? ロベールの分まで持ってこいと、確かに言ったはずだが?」
マルタンは淡々とした顔で答えた。
「どうにも気が進まなかったので。」
「……私の人を見る目がなかったようだ。」
武官長は侍従長へ袋を渡すと、苛立たしげに背を向けた。
壇上へ戻った彼は、城主へ頭を下げた。
「申し訳ございません、城主様。」
「気にすることはない、武官長。お前の責任ではないだろう?」
どこか楽しそうな表情を浮かべるゴスルム。
彼は侍従長へ手招きした。
「持ってこい。いったい何をどれほど持ってきたのか、気になるな。」
侍従長から革袋を受け取ったゴスルム。
彼が袋を調べている間に、マルタンが口を開いた。
「交渉の余地はありませんか?」
ゴスルムの動きが止まった。
「……交渉?」
彼は顔を上げ、マルタンを見た。
そして、狂ったように笑い始めた。
「ははは―」
ひとしきり笑ったゴスルムの表情が、一瞬で冷え切った。
「はあ……本気で言っているのか?」
マルタンが頷くと、ゴスルムは鋭い口調で吐き捨てた。
「お前は私の封臣であるロベールを殺し、私が遣わした家臣二人とも揉め事を起こした。それでいて、交渉してほしいだと?」
マルタンは静かな声で答えた。
「交渉が必要な事柄であることは、間違いないのではありませんか?」
ゴスルムはしばらく言葉を止め、マルタンを睨みつけた。
「……そうかもしれんな。だが、だからといってお前に何ができる?」
彼は席から立ち上がり、冷たい眼差しでマルタンを見下ろした。
「私はレスパールの城主であり、メドック一帯を支配している。お前は? お前は何だ?」
何も答えないマルタンへ向け、ゴスルムはゆっくりと怒りを爆発させた。
「ここで生きていきたいのなら、私の命令に従うべきだった。」
「私の機嫌を取り! 私の家臣たちに逆らうべきではなかった!」
彼は真っ赤に火照った顔で怒鳴りつけた。
「そんな態度を見せておいて、私の前に立とうというのか? よくもまあ!」
ゴスルムの叫びにも、マルタンは依然として何も言わなかった。
沈黙の中で、どれほど時間が流れただろうか。
彼の足元へ、相続税の入った金袋が落ちた。
「……今すぐ私の前から消えろ。形だけとはいえ客だ。危害は加えない。」
マルタンはゆっくり腰を屈め、床へ落ちた金袋を拾い上げた。
しばらく何かを考えた後、ゴスルムへ尋ねた。
「ガスコーニュ公爵について、どうお考えですか?」
ゴスルムが鼻で笑った。
「馬鹿げた質問だな。あの男と何か繋がりでもあるのか?」
公爵を単に「あの男」と呼ぶゴスルム。
マルタンは、その発言が非常に気に入った。
「まさか。」
マルタンはゆっくり顔を巡らせ、宴会場を見渡した。
周囲の様子を目に焼きつけると、卓の間を横切り、宴会場を後にした。
宴会場から出たマルタンは、入口を守る兵士たちへ尋ねた。
「俺の剣は?」
兵士はしばらく彼を睨んだ後、剣を差し出しながら言った。
「とことん生意気な奴だな。城主様にあんな真似をしておいて、お前がメドックで生きていけると思っているのか?」
「放っておけ。すぐ死ぬ奴に、何をそんなに腹を立てる。」
まるで宴会場での会話を盗み聞きしていたかのような口調。
マルタンは好き勝手に喋る兵士たちを背に、宿へ向かった。
マルタンが宿の扉を開けて入るや否や、ピエールとジャックが近づいてきた。
「思ったより早く戻られましたね?」
「笑っておられるところを見ると、話はうまく進んだのですね?」
マルタンは二人を無視し、宿の隅に置いてあった荷袋を持ち上げた。
ガチャッ―
荷袋から綿入り鎧を取り出して着込み、その上から鎖帷子を装着した。
撒菱の入った袋を腰へ固定し、左手には短槍と盾を持った。
「なぜ……いえ、何をなさっているのですか?」
訳が分からないという表情のピエールとジャック。
ここで死んではならない者は、この二人だけだった。
「どこかに隠れていろ。隙を見てポワイヤックへ戻ってもいい。」
マルタンは返事を待たず、宿を出た。
木柵に沿って移動することで人目を避け、ほどなくして宴会場の建物の裏手へ辿り着いた。
宴会場の外壁に沿って進み、角から顔を出して、宴会場の扉を守る兵士二人を確認した。
『遠い奴から。』
投擲用の短槍を一本、右手へ持ち替えた。
シュウウウッ―グサッ―
兵士一人の首へ短槍が突き刺さると同時に、残る一人へ駆け寄った。
「何を……!」
相手がまともに言葉を発するより先に、その頭を盾で殴りつけた。
大きな音はしなかったが、宴会場の者たちが外の騒ぎに気づいた可能性はあった。
短槍を回収することもなく、すぐに新たな短槍を右手へ持ち替えた。
『この辺りだったか。』
扉の前に立ち、宴会場の内部を思い浮かべた。
狙いは、城主が座っているはずの上座。
扉を開けるや否や、全力で槍を投げ放った。
『よし。』
槍が指先から離れていく感覚と同時に、城主が上座へ座っていることを目で確認した。
ヒュアアアッ―キィン―
バチッ―
短槍の先端を掠める、何者かの剣。
軌道を逸らされた短槍は、城主の肩へ突き刺さった。
「ぐああああっ!」
狙いは外れたが、問題はなかった。
どうせ短槍は城主の肩を貫き、椅子の背もたれへ深く突き刺さっているはずだった。
今重要なのは、短槍を不完全ながらも弾いた者。
「マルタン―!!!」
城主の横で剣を持って立つ、武官長の姿が見えた。
『ただの噂ではなかったようだな。』
入口から上座までの距離は、およそ二十メートル。
不意に扉を開けて槍を投げたというのに、それへ反応したのはかなり驚くべきことだった。
「この気違いめ!」
卓に座っていた荘園領主の一人が、彼へ駆け寄った。
シュウウッ―ブスッ―
「ぐはっ……!」
マルタンは名も知らぬ領主へ、最後に残った短槍を放った。
腰から剣を抜き、宴会場にいる全員へ聞こえるように言った。
「不満のある者は武器を取れ。そうでない者は立ち去れ。」




