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転生の責任はとらせていただきます  作者: 宵紘


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3/3

転生の責任はとらせていただきます 3


「まぁいい。とにかく、婚約破棄はしないし、私の伴侶はチェリーナ、お前以外は有り得ないと肝に銘じろ。予定に変更はないが、しばらくの間はサーヤと親交を深めるといい。つもる話もあるだろうからな」


 アルバート様がそう言い残すと、男性陣は揃って我が家をあとにした。蝶の舞うのどかな庭に残されたのは、思考を停止したわたくし。心ここに在らずな様子を見かねて、自室に連れ帰ってくれたのはお姉ちゃんだった。


「イチカはさ、アルバート様のこと、どう思ってるの?」


「え!? アルバート様がなんて!?」


 動揺し過ぎて素っ頓狂な声を上げてしまった。お姉ちゃんからイチカと呼ばれたのもあって、ノリは完全に前世のそれだ。侍女を下がらせていて良かった。マナーがなってないとか、チェリーナらしくないとか色々言われるところだった。


「イチカがチェリーナとしてずっと頑張っていたのは、色んな人から聞いてるよ。でもそれはさ、アルバート様が好きだから? それとも家のために仕方なく?」


 お姉ちゃん……ド直球で聞いてくるわね。前世でも、恋バナと呼べるような話題なんて会話の引き出しになかったというのに。ちょ、そんな険しい顔して詰め寄らなくっても逃げないから!


「婚約したの、子供の頃なんでしょ? 初恋は別の人だったって聞いたし、イチカは他に好きな人とかいるんじゃないの?」


 眉を釣りあげ怒っているようにも見えるお姉ちゃんだけど、単純にアタシを心配して言ってくれているんだと分かる。真剣な気持ちにはこちらも真剣に返さなきゃいけないよね……。

 立ち話もなんだしと、ソファに揃って座ろうと提案したアタシは、先に腰をおろしてクッションを抱きしめ、ふうと小さく息をつく。


「……最初はね、ただの遊び友達だったの。小さい頃から上位貴族の子供たち皆で交流するっていうのを、何回か繰り返してたのを覚えてる」


 その頃はまだ、愛だの恋だの、ましてや国の事情だの知るよしもなかった。保護者や警備の騎士が見守るなか、お茶を飲みお菓子を食べ、植物を愛でたり習い事の話をする、そんな交流だった。

 素行調査の結果や教育の進度によって、徐々に人数は減ってゆき、最終的にはアルバート様とクリス様、レオンハルト様とわたくしという、今とそう変わらない顔ぶれが残った。


「その頃には多分、アルバート様の相手として親同士の間で決まってたんじゃないかな。家でやってる勉強を、王宮で一緒にやらないかって提案されたから」


 年齢的には小学校に上がるくらいで、座学やそれ以外のダンスとか楽器とか、そういうものも徐々に内容が難しくなってきていた。一人でやるには中々モチベが保てなくなってたから、誰かと一緒なら続けられるかもと、軽い気持ちで決めた気がする。


「それでまぁ、アルバート様との仲も良さそうだしってことで、そのまま婚約して、王子妃教育が始まったんだけど……」


「……けど?」


「それがさ、本当にもう……すっっっっごい大変でね!? こんなに勉強が増えるなんて聞いてない!! って親にも訴えたの! なのに仕方ないから頑張るしかないって苦笑いで返されてさ、もっとなんか他にフォローとかあるじゃん!?」


 いつの間にか、アタシは前世の自室でお姉ちゃんに愚痴ってた頃にすっかり戻っていた。

 侯爵家の部屋とは比べ物にならないくらい小さな日本のマンションの普通の部屋で、嫌味ったらしい数学教師からテストの点が悪すぎるってネチネチネチネチ言われて不満爆発してた時と同じテンションで、今までの苦労を話す。ポテトチップス食べたい! チョコ食べたい! コーラとかなんかジャンクな物を口にしないと、このイライラは収まらない!!


「アタシだって、必要な教育だって分かってる。分かってるけど、一気に頭ん中に詰め込めるかって言われたら別じゃん? 歴史とか苦手なこともいっぱいあったから、教育係にため息つかれようが無理なもんは無理なわけ。時間かけたら何とかなると思うから、もうちょい待ってってお願いしても、宿題として大量に課題出されてさ、それで何とかしろって言うだけの教育係って今考えても無能じゃない!? なんとかなったから良かったけど、受験勉強より酷かったんだよ!」


「なるほどね。それで、イチカが大変だった時、アルバート様はなにしてたの?」


「え……アルバート、様?」


 お姉ちゃんからの問いかけにきょとんとしてしまう。そういえば、アルバート様のことをどう思っているのかっていうのが、最初の質問だったなと思い出した。ただただ王子妃教育の大変さと、あの堅物教育係の顔だけが思い浮かんで、そればっかり愚痴ってしまっていたことに気づく。


「あ、そっか、アルバート様、アルバート様のことだよね。えーっと……アタシが愚痴った時は、うちの親と同じようなことは言ってたけど、それだけじゃなくて、アタシがつまずいてる部分を分かりやすく噛み砕いて教えてくれたり、息抜きにお茶に誘ってくれたりしてたよ。ずっとアタシの事を、気にはかけてくれてたかな」


 正直、アルバート様との婚約は子供の頃に決められたもので、王子妃教育の大変さ以外に思うところはなかった。本当に幼なじみのお兄ちゃんって感じ。レオンハルト様とも似たような距離感だったし、みんなイケメンだなぁとかそんな感じ。恋愛感情はあんまりなかったかも? と、素直にお姉ちゃんへ伝えた。


「ふぅん。じゃあ、他に好きな人とか気になってる人はいないの? それか、王太子妃になりたくないとか思ってる?」


「うーん……好きな人とかはいないかなぁ。さっき言ってた初恋って多分、お父様のことだし。長い間アルバート様の婚約者として知られてるから、今更他の人に乗り換えるのは無理なんじゃないかなぁ? 王子妃はめんどくさいなとは思うけど、なりたくないとは思ってない。せっかく勉強したんだし、活かせるならその方がいい。……あ、でも、お姉ちゃんが王太子妃になりたいなら全然譲るよ?」


 アタシの提案を聞いたお姉ちゃんは、今まで見たことのない苦い顔をしてから、いらないってキッパリ拒否した。そ、そんなに? アルバート様への恋心的なものは持ってないの知ってるけど、将来の王妃なんて、この国の女性なら一度は憧れるものなのに?


「あのね、私は確かに珍しい魔法が使えて、それが国のためになることは分かってる。でも、私の夢は私みたいな境遇の子供を減らすことなの。将来的にはそういう子をひとりも作らないようにしたい。その夢のためには、国全体を考えなきゃいけない王族よりも、教会に所属したほうが近道なの」


 あぁ、なるほど。確かにお姉ちゃんの言う通りだ。王族になれば法から変えることが出来るだろうけど、多分めちゃくちゃ時間がかかる。外交とか社交とか他の政務もあるし、なにより後継問題が重要になってくる。ぶっちゃけ、その問題だけ解決したいって言うなら、教会に所属したほうが都合がいい。聖職者になると結婚できないデメリットがあるけど、お姉ちゃんが気にならないなら別にいいし、なんなら特別に許可出るんじゃないかな。希少魔法の使い手が言えば、教会側も折れそう。


「私のことはいいの! 今はイチカの気持ちの話だよ。アルバート様のことが好きかどうかは置いといて、結婚してもいいとは思ってるってことであってる?」


「そう……だね。前世を思い出すまで、ずっと結婚するもんだと思ってたし、婚約破棄になったとして、その先のことは何にも考えてなかったから、このまま結婚するなら、まぁそれでいいかっていう感じ?」


 顎に指をあててうーんと唸ってから、思ってることをそのまま伝える。アルバート様はキャラの中では一番好きなビジュだったし、小さい頃から一緒にいて人となりも知っている。アタシの苦手なことも得意なことも知られてるから、結婚したとして、アタシが仕事を投げ出したくなっても、上手くコントロールしてくれそう。国政云々については、アルバート様がそもそも王族として優秀だし、未来の宰相予定のクリス様もいるから、そうそうヤバイことにはならなそうだしね。まぁカレカノみたいな雰囲気になれるかって言われるとちょっと想像できないけど。アタシ、夢女属性って持ってなかったんだよねぇ。

 それを聞いてお姉ちゃんが零した言葉は、ため息に紛れて聞こえなかった。なんて? 可哀想とか、前途多難って言った? アタシが王妃になるのが難しいって話?


「うん、イチカの考えてることは分かった! アルバート様の性格的に、いざとなったら私がイチカのことを守らなきゃダメかもって思って、国外に逃がす方法とか色々調べてたけど、イチカが気にしてないならもういいや。王太子妃になったら、私の夢、応援してね!」


「え!? お姉ちゃん、めっちゃ不穏なこと言ってない? もしかしてアタシが逃げなきゃいけないくらい、アルバート様怒ってる!?」


「違う違う、私の勘違いだったって話だから大丈夫! でも、イチカが少しでもアルバート様との結婚が嫌だなとかウザイなって思ったらお姉ちゃんに言うんだよ? 絶対に見つからない場所に逃がしてあげるから」


 心配ごとがなくなってスッキリしたのか、お姉ちゃんはググッと体を伸ばしてソファから立ち上がる。それを見あげるアタシはスッキリどころか余計に混乱してるんだけど……。


「えぇー……お姉ちゃんの気づかいは嬉しいけど、アタシが知らないナニカが、アルバート様にはあるってことぉ? ヤバイ性癖とかだったらどうしよう……」


「そうだねぇ。……ねぇ、イチカの苦手なキャラって、愛が重いタイプって言ってたなぁって思い出したんだけど、今もそう?」


「あぁ、言ったね。好きな作品には必ずひとりはいるんだけど、ビジュが好みでもセリフとか読むと鳥肌立っちゃうんだよね。今も変わらないんじゃない? こっちの世界にはそういう娯楽ないから全然触れてないけどさ」


「んー……作品と現実は違ってこと、イチカはもうちょい真剣に考えた方がいいかもね」


 お姉ちゃんの言いたいことがイマイチ分からなくて小首を傾げたら、ソレにつられてお姉ちゃんも傾げる。無意識につられてるお姉ちゃん可愛いな。

 お姉ちゃんの可愛さと疑問符で頭が埋め尽くされそうになっていたけれど、ドアをノックする音がそれにストップをかける。何かと思えば、予め出していた指示通り、メイドがお茶を持って戻ってきただけだった。夢中になっていて気づかなかったけれど、それなりの時間が経っていのね。

 その後はチェリーナとサーヤとしてお互いの知らない学園でのことや、将来のこと、他愛のないことを含め多岐に渡る話題はそれはもう本当に尽きることがなくて、サーヤ様が帰る頃には無二の親友に見えるほどの仲になっていた。

 前世での後悔はもう抱かない。今、わたくし達は姉妹ではなく友人として、なんの憂いもなく笑いあえている。そのことを大事にしなければいけないわ。いつまでも過去の傷を愛でていては、今目の前にいるサーヤ様を蔑ろにしているのと同義だもの。もう、アタシは大丈夫だよ、お姉ちゃん。今度こそ、おばあちゃんになるまで一緒だからね!


 ゲームのヒロインと悪役令嬢の辿ったエンディングとは大幅に違う未来に、わたくしたちはたどり着いた。

 サーヤ様は希望通り教会に所属し、なんと学園時代から両思いだった魔法薬学の先生と結婚したの! 攻略対象ではない人物が急に浮上してきて驚いたけど、中庭で聞いたあの甘い声の持ち主がその先生だったと知り、腑に落ちた。あの時、聞いたことがない声だと感じたのは、ゲームには出てこなかったからだったんだわ。とても優しい方で、お姉ちゃんの隣に立つ姿もしっくり来た。これがお姉ちゃんだけのハッピーエンドというわけね。

 わたくしも無事、アルバート様と婚姻し慌ただしい毎日を過ごしている。たまに泣き言を零すこともあるけれど、アルバート様が受け止めてくれるから大丈夫。本当に上手くわたくしをコントロールしてくれるのよ。大変だけど充実しているこの日々は、ありふれているかもしれないけれど、幸せそのものだわ。


 ……でもね、ひとつだけお姉ちゃんに文句があるの。それはね、アルバート様の本性、もっとハッキリ教えて欲しかったなぁ。

 ゲームの中にいたキラキラ王子様どこ行ったのよ! 結婚して蓋を開けてみれば、激重執着愛キャラとか聞いてないんだけど!? 愛されすぎて辛いって自分で言うことになるとは考えたこともなかったんだけど! ねぇ、お姉ちゃん! 笑ってないで助けてよー!!

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