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劣勢の戦場で敵将を討ち取った俺、気づけば公の右腕にされた件  作者: 塩野さち


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第111話 フェルグラント、大雪になる

『アヴァロン帝国暦2年 12月中旬 帝都フェルグラント グレン邸 朝 大雪』


【皇帝の右腕グレン視点】


 その朝、俺が目を覚まして窓を開けると、グレン邸の周囲は一面の銀世界となっていた。

 チラチラと舞う雪どころではない。視界を遮るほどの激しい雪が、現在進行形で降り続いている。


「おお、これはまた随分と降ったな」


 俺は窓の外の白銀を眺めながら、思わず感嘆の声を漏らした。

 横では、妻のエレーナが、まだ小さな息子カインを愛おしそうに抱きながら、目を細めていた。


「ええ、本当に。これでは、雪かきしないと外に出られませんわね……」


 エレーナの言葉通り、すでに外では、メイドのリタを筆頭に、屋敷の者たちが総出で雪かきを進められていた。

 俺は窓から離れると、エレーナに向き直った。


「エレーナ、ちょっと俺も行ってくる」


 そう言って、妻の柔らかな頬に、軽く触れる程度のキスをする。


「だぁ……」


 すると、エレーナの腕の中にいた息子のカインが、俺の頬を小さな手でペチペチと叩いた。


「ふふっ、行ってくるぞ」


 俺は息子の頭を軽く撫でると、素早く着替え、分厚い外套を羽織って外へ出た。


 外へ出て、改めて気が付いた。

 どうやら大雪に見舞われているのは、俺の屋敷の周囲だけではない。帝都フェルグラント全体が、深い雪の底に沈んでいるようだった。


「リタ、雪かきの進み具合はどうだ?」


 一生懸命に雪をかき分けているリタに声をかける。


「あ、旦那様! 朝食は、すみません。バタバタしておりまして……干し肉でもかじっていて下さい。奥様とカイン様には、きちんとパン粥を作らせておりますので!」


「まあ、俺は食えればなんでもいいさ。助かるよ」


 俺は素直に硬い干し肉をかじり、腹ごしらえを済ませてから、スコップを手に作業に参加した。


(これは、なかなか全身にくるな……)


 ずっしりと重い雪をすくい上げ、横へ投げる。

 剣や槍を振るのとは、また違った筋肉を使っている気がする。だが、これはこれで良い鍛練になるだろう。


 こうして、屋敷の者たちと汗を流しながら昼近くまで作業を続けると、ようやく表の大通りまで、除雪作業が進んだ。


「よし。とりあえず、皇宮まで、俺一人が通れる分の道を作るぞ」


 俺の号令と共に、今度は皇宮へ向けて雪の道を掘り進めた。

 真冬の寒さだというのに、いつの間にか体は汗でぐっしょりと濡れていた。


◇◆◇


 ようやく皇宮へとたどり着いた俺は、荒い息を吐きながら城内を見回した。


「陛下! 陛下はいずこにおわす!?」


 大声で呼んでみたが、返事はない。

 ふと見ると、大広間の暖炉の前で、一人でチーズを焼いている、フリッツ殿下(次期皇帝フリードリヒ)の姿を見つけた。


「フリッツ殿下、こんなところでチーズを焼いているのですか?」


「うん! グレン公、この雪の中をよく来たね。父上なら、北門へ向けて雪かきを進めているよ」


 フリッツ殿下は、とろりと溶けたチーズを嬉しそうに見つめながら教えてくれた。


「分かりました。俺も行ってきます」


 俺は北門へ向けて急いだ。雪で滑らないように、足元には十分に気を付けながら歩き始める。


 北門へと近づくと、城壁の外、雪の中に半分ほど埋まっている馬車が見えた。

 どうやら、昨晩の猛吹雪の中、門へ入り損ねた馬車のようだ。

 帝都フェルグラントの門は、防犯のために夕刻には固く閉められる。おそらく、到着が遅れた商人か何かだろう。


 その馬車へ向けて、カール皇帝陛下が、猛烈な勢いで雪かきをしていた。


「うおおおおおっ! ハッハー! 我に勝てたら、金貨をとらせようぞ!」


 陛下は、大雪などものともせず、豪快に笑いながら周りの兵たちと競争している。

 どうやら、誰が一番早く馬車にたどり着くか、賭け事をしているらしい。


「陛下! 俺も参加します!」


 俺が叫んで加わると、陛下はさらに嬉しそうに声を張り上げた。


「おお、グレンか! よいだろう! 競争だ!」


 皆が必死に雪をかき分けたおかげか、馬車までは思ったよりも早くたどり着くことができた。

 まあ、圧倒的な体力で一番に到着したのは、当然のごとくカール陛下だったのだが。


 それよりも、だ。

 雪に埋もれていた馬車の中から、商人を助け出すことに成功した。


「バルザフ! バルザフじゃないか! おい! 早く、バルザフを中へ運んで温めるんだ!」


 俺は、ぐったりとしている男の顔を見て驚愕した。

 オルデンブルクの御用商人、あのバルザフだったのだ。


 意識はないが、微かに息はある。

 体も、まだ温かい。

 彼が北方で買い付けたと思われる、分厚い毛皮の毛布に幾重にもくるまっていたおかげで、かろうじて凍死を免れたようだ。

 急いで処置をすれば、バルザフは恐らく助かるだろう。


(だが……それよりも)


 俺は、ストレッチャーで運ばれていくバルザフを見送る。

 彼がなぜ、こんな大雪の中を、はるか北の地から急いで帝都まで戻って来たのか?

 何か、重大な報せがあるに違いない。

 そのことの方が、今の俺にはひどく気がかりだった。


 外はまだ、雪が降り続いている。

 さすがに、こんな大雪の日だけは、最近のフェルグラント名物となっている『ホットミルク売り』の姿も、どこにも見当たらなかった。


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