王宮精霊士試験への招待状
前回から大変間が空いてしまい申し訳ありません…!
本日より連載を再開させていただきます。
全48話の予定ですが、手元で完結済みです。
毎日更新していきます。
ラスターが掴んだ幸せをご覧いただければ幸いです…!
(……百合の香り)
王族や高位の貴族にしか纏うことを許されない香り。ラスターと出会ったきっかけとなる指令書を思い出した。
ペーパーナイフを使い、中身を取り出す。
そこには予想通り、王宮精霊士への試験を受けるようにとの命令が神官長と筆頭精霊士長の名前で書かれていた。
「そんなもの行かなくていい」
「いいえ、行くわ」
眉を寄せて険しい顔をするラスターに、リディアが柔らかく微笑む。
「ここで断っても、どうせ神官長はまた次の策を考えると思うの。それなら今ここで誘いに乗った方がいい」
「何を考えて……」
「だって私はラスターとずっと一緒にいるんだから、ラスターのお荷物になんてなりたくないもの」
「……!」
目を見張るラスターにリディアが「大丈夫よ」と胸を張る。
(精霊士の能力の平均はわかった。私がその平均を越さないよう、力を調整すればいいでしょう?)
ロードリックに気づかれないようにそう思いながら目配せをすると、ラスターが苦い顔で逡巡したあと、頷く。
「……どうせ俺が何を言っても聞かないんだろうな」
「さすがラスター、私のことをよくわかってくれてる」
「お前のことなら、世界中の誰よりも知っている」
そうむくれながらラスターが、リディアの頬を撫でる。不意打ちにリディアが頬を赤くして戸惑うと、ラスターが困ったように微笑んだ。
「……試験の前に、俺と練習をしよう」
「……ええ!」
力の調整に付き合うことを仄めかされ、リディアが満面の笑みで頷く。その様子を見ながら、それまで黙っていたロードリックが「俺の存在、薄すぎ……!?」と小さく呟いた。
手紙が届き、承諾の返事をしてから一週間。ラスターの厳しすぎる鬼のような指導の元、リディアは精霊力の出力を最小限に抑える方法を学んでいた。
ラスターはまだまだ不安が残ると言っていたが、こうして試験に臨むのを承知したあたりまずまずの及第点を取れているのだろう。
(ラスターの傍にいると、不思議と精霊力が使いやすいのよね)
ラスターの心臓に埋め込まれている古龍の核と何か関係があるのだろうか。アレクサンドラにきいた過去の伝承を思い出しながら、リディアはふとそんなことを思う。
「リディア。何があっても、絶対に力を発揮するな」
「もちろんよ。ラスターったら心配性ね」
王宮についてからも、なお心配がぬぐい切れない様子のラスターに一笑する。
しかし、精霊士の試験は単純だ。神官が自らにつけた小さな傷をいかに早く治すかというものになる。力の強い精霊士は一瞬で治すというその傷を、リディアは怪しまれない程度にギリギリ落第の時間をかけて治そうと思っていた。
「大丈夫、心配しないで」
心配しているラスターを安心させるために微笑む。
「一番特等席で見ててちょうだい」
「……ああ、わかった」
リディアの手を、ラスターがとる。自分の手をすっぽり包む大きな手に心がざわめくのを感じながら、リディアとラスターは目的地となる王宮の精霊の間に急ぐのだった。
精霊の間に一歩入ると、そこにはそうそうたる重鎮が揃っていた。
(あの仮面……ミラー公爵)
臨時で王宮精霊士の試験が開かれる――それもその受験者は英雄であるラスター妻だ――ということからだろうか。ふだん王宮精霊士の試験には顔を出さないような重鎮――国王陛下を始め、仮面で顔を隠したミラー公爵も、それから王宮魔術師であるマクシミリアンもいる。
マクシミリアンと目が遭うと、彼は「また面倒に巻き込まれて」というような、呆れたような憐れむような顔をしている。周りに気づかれないようにごく僅かに肩をすくめると、彼が口だけで「頑張れよ」と動かした。
(きっと、いざという時はフォローしてくれる気ね)
約束を破ったお詫びもあるのだろうか。そこには物申したいという気持ちもありつつ、それでも心の中で感謝をしていると、横からぐいっと肩を抱かれた。
「ラ、ラスター……!?」
「再三断ったにも関わらず、執拗な申し出にこうして馳せ参じました。妻との時間は有限のため、どうか手早い試験を」
何かに見せつけるように、ラスターがリディアの肩を抱く。その視線は冷ややかを超えて獰猛で、まるで威嚇のようだった。
「な……なるべく、なるべく善処しよう」
ラスターの脅迫のような視線に怯えながらもそう言ったのは、以前夜会でラスターが手酷く痛めつけた神官長だった。ラスターに視線を向けられた瞬間、蛇に睨まれた蛙のように小さくなったが、すぐに小さく咳ばらいをする。
「ラスター殿の連れということで噂がより一人歩きしたのだとは思うが……実際に病が治った重病人がいた以上、あなたには試験を受けていただく」
「ご希望に添えないかとは思いますが、精一杯臨ませていただきますわ」
リディアが堂々とそう言い放つと、神官長は少々意外そうに眼を瞬かせる。
(王様や高位貴族が醸し出すこの重圧で、堂々とするのは平民らしくないかもしれないけれど……でもラスターの隣に立つなら、恥をかかせないように胸を張らなきゃ)
凛と前を向くリディアに視線が集中する。その視線を受け止めるように微笑むと、その場の全員が息を呑む気配がした。
「よ、よかろう……」
神官長が気を取り直すように咳ばらいをする。それから居丈高に胸を張ると、厳かな口調でそう言い放った。
「王宮精霊士の試験は神官が行う。今その者を――」
「その前に」
神官長の言葉を遮るように、ミラー公爵が手を挙げる。
「今日、我が領地で痛ましい事故があった。精霊士によって治癒を行っていたがもう手の施しようがない。――報告にあったようにもしあなたが王宮精霊士に見放された重病人をも治したというのなら、彼女たちを救ってくれないだろうか」
ミラー公爵が指を鳴らすと同時に扉が開け放たれ、兵士たちが怪我をしたという二人の重症人を連れてくる。
見るからにひどい怪我だった。呼吸は浅く、包帯を巻かれ手当をされた箇所からは血が滲んでいる。
一目で先が長くないとわかる患者から目を離せず、患者の顔に目を移したリディアは――声を失った。
「……!」
(お母さん……!?)
想像の中よりずっと老けているけれど、見間違えるはずがない。
その人は、確かにディアナの母だった。
こちらの作品、コミカライズがスタートします!
漫画:東里桐子先生
構成:桐原のん先生
漫画家の先生方により大変素敵なコミカライズにしていただきました。7月24日よりピッコマさんにて先行配信が始まります。どうぞご覧ください…!




