表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京に住む龍  作者: 江戸紫公子
30/30

第十話 千客万来 その五

 連休最終日端午の節句は、良く晴れた穏やかな日だった。鯉のぼりを揚げると、からからといい音を出す金色のくす玉に矢車が回る、その下には五色の吹き流しと鯉の家族が泳いでいる。それを嬉しそうに辰麿が見ている。


 端午の節句の鯉のぼりは明治元年の創建時から、龍神社で揚げられていて、近所の名物になっている。鯉のぼりが揚がると散歩途中の人が龍神社に寄ったり、親子連れがわざわざ遊ばせに来た。


 参拝客が途切れたとき、鯉のぼりを見上げる辰麿に小手毬は声を掛けた。


「本当、龍君は鯉のぼりが好きだね」


「鯉幟は僕の幸せな記憶なんだ。前に話したけれど僕の父には、沢山の奥さんが居た。僕の母はその一人だった。僕たち家族に父が訪れるのは滅多になかった。でも父が来ると、皆で空を飛んだんだ。お父さんお母さんお姉ちゃん、そして僕。皆で並んで鯉のぼりのように空を飛んだ。大きな黒い真鯉はお父さん、緋鯉はお母さん、ピンクの小さい鯉はお姉ちゃん、青いちっこいのは僕。皆で海の上なんか飛んじゃって楽しかった」


 三柱の龍に風の精が並んで空を泳ぐのが、小手毬の目にも浮かんだ。彼の本当の家族の話は既に聞かされていた。紅粉龍というピンク色の龍が姉で、大龍と言うこの世を何億年も支配した龍が父であること。八千万年前その家族を失ったことを聞かされていた。憎しみも悲しみも恐怖も長い生を生きても、拭えないものだろう、楽しいこと幸せなことはしっかりと感じ堪能するのが、辰麿の感性の様だった。


 空は青く鯉のぼりがよく映えた、気持ちの良い青い空の下、辰麿は鯉のぼりを見上げていた。小手毬は口の中の唾液を飲み込込んでから話しはじめた。


「ねえ龍君、私ね不老不死となっても水神小手毬の一生をきちんと生きたいと思っているの」


「ふぁっ」


 辰麿が顔を向けた。


「私はこれからずーと龍君と生きていくのでしょう。これから何千年も何億も生きる。龍君のことだから人間の世界が好き、人間として生きることになりそうでしょう」


「そんな心配させちゃって、御免」


「そうじゃないわ、わくわくしてる。人間として何代も何代も生きるじゃない。色々な人生を生きれそう。今生は雅楽師だけど、次は薬剤師にする?OL?教師もいいな。水神小手毬として生きれるのは長くて百二十歳位まででしょう。


 それはそれ、水神小手毬として一生をきちんと生きたいの。私は一流の雅楽師に成りたい」


「どういう雅楽師に成りたいのかな、大好きな小手毬のことだから、僕、気になる」


「超の付くほど才能のある雅楽師を見てきたわ、これから私が幾ら練習しても超えれない天才。本当に身近、藝大には学部生にも院生にも、凄い才能のある天才がいるわ。きっとこの令和の時代の代表的な雅楽師に成ると思うわ。


 龍君、私ね何をやっても演奏が綺麗なんだって。力強い演奏はちょっと無理だけど、綺麗な演奏をするのが得意みたい。才能だって。何の楽器を演奏しても、歌を歌わせても、舞楽を舞っても綺麗にまとまっているってよく先生方に云われる。


 で、私考えたのよ、超一流の雅楽師にはなれないけれど、一流の雅楽師になりたい。それなら練習次第では手が届く。それと三管って知ってる」


「うん、篳篥、竜笛、笙のことだよね」


「そう、三管が演奏できる雅楽師は多くいるけれど、私は琵琶、琴に打ち物、これは太鼓とか鐘の打楽器。全ての楽器の一流の雅楽演奏家になるわ」


「うおー、流石僕のお嫁さん、小手毬、僕大賛成」


 雅楽師になることを決めた小手毬。ちょっと気が咎めたのは、龍君の潤沢な資金を使い、多額の稽古料と、高価な楽器を買うことだった。一流レベルの演奏者で、どんな楽器、舞楽が出来るのを目指す。オールラウンドプレヤーなることは、雅楽演奏団体に入団し易くなるし、三管以外の楽器を得意とすれば、演奏会に声を掛けられることも期待できる。プロの雅楽師になるための、小手毬なりの方策だった。


「小手毬がこの街に帰ってきて直ぐだったよね、僕が雅楽を勧めたら、舞を奉納したいって言ってなかった」


「ずーと思っていたわ、五節の舞を奉納するって。でもずーと先の事かと思っていたのよ」 


 そして二人のうちどちらか言い始めるともなく、五節の舞を奉納することに決めた。

 


 夜、AHK(あの世放送協会)で鬼のお笑い芸人の切れ切れの劇場中継を見ながら、二人で単衣と薄物に合わせた長襦袢に半襟を縫いつけていた。神主と巫女のお仕事用の襦袢ではなく、お出掛け用着物の半襟だった。カジュアル何で礼装用の白い絽ではなく、色柄物で小手毬はアンティークの刺繍半襟を、正絹のピンクの長襦袢に縫い付けている。


「男着物の今のトレンドは、パステルトーンの半襟を付けるのがマスト」


小手毬がふと辰麿の手許を見ると、武蔵野呉服店でこの夏用に買った、レモン色と淡いピンクの半襟を、自分の長襦袢に縫い付けていた。


「女物、付けるんかい」


あー言っていませんでしたけれど、青龍君は東京都出身です。東京ラーメンが好きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ