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東京に住む龍  作者: 江戸紫公子
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第八話 白龍 その二

『これは白龍の物語だ』


 そう心の中で呟くと、青龍こと辰麿は口中の唾を飲み込んだ。


 御簾内の半分は寝所で半分はリビングルームだ。それぞれ几帳で囲まれている。寝所は白の練り絹の几帳で、リビングは青系統の様々な色の使われた、華やかな几帳に囲まれていた。中は精巧な彫刻の付いた、一畳ほどの大きさの茶卓の周りに、有職模様の絹の分厚い座布団が置かれていた。


 辰麿は置かれているあの世と現世のテレビを見る訳でも無く、茶卓の上の小型パソコンを開く訳でも無く、目を半分閉じて座布団の上に坐っていた。室内は現世のLED照明で明るい。


『これは白龍の物語であり、五柱しかいない龍の問題で、白龍の敵討ちだ。この困難は、龍だけが回避できる事なのだ。


 全ては龍の本能が解決する。


 僕は波に乗ってまかせるままなのだ』


 辰麿は白龍に逢いたくなった。思念で飛ぶことにした。今日は夕飯前に龍の体になって天空を飛んだ。小手毬の和琴を聞きながら、太平洋上空を飛ぶのは、大変気持ちが良かった。小手毬のご機嫌がいいと嬉しくなる。今度、小手毬を龍珠に入れて、天空に行こう。篳篥を演奏してもらったら、最高だな。


 辰麿は深く目を閉じると、思念で龍になった。青龍は龍御殿から東京上空に昇っていく、東京は人の明かりがさんざめいていた。その白い光の束を下にして上空に飛ぶ。


 他の龍に悟られぬように、白龍だけにわかるように微細な音波を発した。暗い闇が覆う大陸の西は橙色の夕日だ。


 北へ飛び、西へ飛ぶ青龍の前に、他の妖にも察知されない龍の巣から飛んできた、白龍が現れた。視界の端から直線で青龍に逢いに来たのだ。


 鹿のように枝分かれした角、楕円の球のような頭には目と口があるだけで、顔の趣が青龍とは違う。白龍は穏やか顔をしていて、青龍を安心させた。


 白龍と青龍はその長い肢体を、ねじり合わせ螺旋にした。DNAのねじりの様に。


「白龍は、元気だった。何か変わったことはなかった」


「急かすな急かすな。変わったことはなかった。僕は相変わらず。龍の巣から天空に飛んで、龍のお役目をしているし、僕の空の下の王朝に遊びに行く。安心しただろう」


「順調で良かった、白龍」


「青龍、まさか龍珠のお嬢さんと上手くいってないんじゃないのか、青龍は夢中だものな」


「僕にとって小手毬は一番なのに、小手毬の一番じゃない。僕を置いてけ堀にしているんだ」


 青龍は白龍に、一生懸命小手毬の話をしたのだった。


 大学で古くからの音楽で現世でもあの世でも奏される音楽を学んでいること。大学の授業にはきちんと出席し、目白の元宮内庁楽士の個人レッスンも休まずに出かけていた。友人と出歩くこともあるが、帰りは地下鉄の駅の商店街で買い物をして、神社に戻って来る。それから自分の部屋で何時間も楽器の練習をする。練習中に青龍とおやつや夕飯を食べるのだが、話している時は不機嫌そうに黙って、時に睨むのだ。喧嘩はしないんだけど、それだけに心苦しいこと。寝るときは僕の隣で寝るんだけど、好き勝手な時間に寝所に来ることを話した。


 白龍と青龍は体を離し平行に並びながら飛ぶ。


「僕は言い訳をして、小手毬に術をかけたんだ。これからある大事の前に龍珠が欲しかった。小手毬は結婚を拒絶されたくなくて、言葉を封じた。僕はずるい。最低だ。


 白龍、僕の龍珠は失敗したのかな」


「人間は色々あるからな。


 青龍は嫌われてないよ。逃げ出さずに学校から戻ってきて、一緒に食事をして、青龍の隣で寝るなんて、彼女に嫌われてないよ」


「そうかな」


「龍珠となっても、龍の感覚を持てないんだ。妖精や私たちと違う神獣もそうだ。一番近い神獣だって麒麟や鳳凰とでは生き方も心情も違うだろう、増してや人間のお嬢さんは、龍に共感出来なくて当然だよ」


「人間のことは、現世の地上でずーと暮らしてきたので、今時の女の子の気持ちも分からない訳じゃない。はたちで結婚なんて早いことも、恋愛感情がないのに生贄で結婚させられるのは、今の日本では有り得ない事何だ」


「好きという気持ちをぶつけるてみるんだ。龍珠にしたのは、青龍の本能だろう。きっと彼女は青龍のことは嫌いじゃないだろう」


 青龍は慰めてもらい心が軽くなった。


『術を解いても良いのかな』


 その思いつきに青龍は少し驚いた。


 二柱の龍は宇宙空間を飛びながら話合った。二人は地球の方を向く。この龍達は地球で生まれ、地球を拠り所にしている。白龍の顔を見て地球に固執しているなと青龍は思った。


「白龍、白龍は地球と月以外の星に行ったことがあるのかい。


 僕は行こうとも思ったことがないのだけれど」


「私もないさ、君のお父上と兄上が屠った龍の中には、銀河系の向こうの星から来た龍もいたさ。そういえば昔の仲間に太陽系の土星だか木星に食い物を探しに行った龍もいたけれど、諦めて帰って来た」


「少しは古い龍も生かしておけば良かったのに、全部食べちゃうなんて、天文学部出身者としては、残念だよ」


「おいおい。人間は発達していないから。あの世の科学より現世の科学はずーと遅れているんだ。先輩龍の話を現世の人間に話しても。混乱させるだけだぞ」


「僕は現世日本の、中学・高校・理系大学と通って知ったんだけど、あの世の科学と人間の科学は、目指していることが違うんだな。僕は、そこは認めたいと感じているよ」


「日本の地獄はスパコンを買ったんだって、僕の方の朝鮮天国も満州天国も天文台の改修工事をはじめたし、シベリア天国に神の父が来訪してきて会ったよ」


「あれに他の者達を巻き込んでいいのかな」


「人間も神も引き込んでいいものか。


 龍の邪魔は今の科学ではできない。あの世のスーパー発達した科学でも、日本のは地獄の鬼神が始めたから、特にグロいけれどさ、あれをどうにかできる程あの世の科学も進歩していないよ」


「確かに野守さんは地獄の住人の犯罪者に懲役刑でなくて、脳内改造をしてるし、治療法が確立してないので失敗も多々あるんだって」


「そういえばこの件について東洋の仏教系の冥界だけが動いているのに、パニクったラテン天国も動いていたって知ってる」


「知らない。ラテン天国から、フォワグラの詰め合わせとか高級ワインを、贈られてきていないよー」


「はは、どうこうするより私たちのご機嫌を取ってくれた方が賢いのにな。


 詳しいことは分からないのだけど、お見合い大会を開いているんだって」


「意味不明―」


「そうだな」


 白龍と青龍は地球を見ながら飛び続け、地球に近づくと、人には感知されない透明の体で、わざと国際ステーションの周りを飛び東京の幽世と北アジア上空の龍の巣に、誰にも気付かれず帰ったのだった。


 小手毬は和琴の練習を終えると、通学用の使い込んでくたっとなったデニムのトートに、明日いる教科書とノートの中身を確認して入れた。次いで大学でレッスンのある篳篥と目白の老先生に習いに行く龍笛も入れた。


「疲れた風呂に入りたいな」


 独り言を言うと、辰麿のお着替えの間に行く。男は持っている衣装が少ないせいか小手毬のそれより狭い畳敷の部屋で、着ていた洋服を勢いよく脱ぐと、引っ掛けている手拭いを持って浴室に入った。湯船には白い人間の身体に背中に一本線の黒々とした毛が生えた辰麿が先に入っていた。


 何かを言いたそうな辰麿を無視して、湯を身体にかけると、構わず辰麿の入っている大きな檜風呂の湯に身を沈めた。


 小手毬にはエロいとかの感情は全く無かった。練習と学業優先。今日は練習が終わったので就寝前に風呂に入っただけで、そこにたまたま辰麿が居ただけだった。辰麿は話しかけてきたが、面倒なんで放っておいた、後でお前の隣で寝るから放っておいてくれ。


「小手毬、何か話してよ」


「忙しいのよ、すぐ寝るんだから」


二の句が継げない辰麿は、さっさと 体を洗い浴室を出て行った小手毬を見送ったのであった。辰麿が寝所に行くと小手毬は既に寝息を立てていた。



龍なのに科学が好き?白龍が主役?不穏な動き?龍なのにフォアグラでワインを嗜むのか?唐揚げにビールが好きな夫婦だったりして。

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