学校へ行こう2
9月15日発売!
「転生幼女はあきらめない6巻」
記念ssです。
王都襲撃の後のお話です。
明日、もしかしたら明後日まで更新。
よかったらお楽しみください。
兄さまが週末を家で過ごすために寮から帰って来たのは、その日の夜である。この間までは休みの前の日には城に来てくれて、城から一緒に竜車で帰って来たというのに、寂しい話だ。
「リア、ただいま帰りました」
「にいしゃま、おかえりなしゃい」
またお父様がお仕事で出かけているので、兄さまだけが頼りだというのに。
「にいしゃま、いしょがちい?」
「いいえ」
兄さまは首を横に振った。忙しくないのならなぜお城に来てくれないのだろう。
「こないだの事件以来」
兄さまは私と目を合わせて、この話を思い出させてごめんねという顔をしたが、気にしなくても大丈夫なのに。
「学院の警備体制が問題になっていたのですが、結局のところ警備をどうするかではなく、生徒を引き締める方向に向かっていまして」
「ありゃ」
それは息苦しいことだろう。心配のあまりニコを囲い込んだ件もそうだが、引き締めすぎると委縮して、結局何もできなくなってしまう。
「城へ行く許可が、なかなか下りなくなってしまったのです。まして今お父様もいませんしね」
「たいへんでしゅね」
お父様がいればごり押しもできるのだが、たとえ四侯といえど子どもだけの主張では通らないということなのだろう。来週、学院に見学に行くということは兄さまにも内緒なので、私は深追いしないことにした。クリスにも、ギルに言わないよう言い含めてある。
「そろそろ、ごはんのじかんでしゅ」
この話題はおしまいにしよう。そしてその夜は城での出来事を面白おかしく兄さまに話し、お風呂に入り少しだけ魔力の訓練をするといういつも通りの時間を過ごした。
「ではにいしゃま、おやしゅみなしゃい」
「リア」
兄さまの低い声に私は思わずビクッとしてしまった。
「なにか隠していますね」
「か、かくちてない」
私は顔を合わせないようにして背を向けた。おかしい。完璧にいつも通りに振る舞っていたはずなのに。
「リアはいつもよりたくさんしゃべっていましたね。まるで何かをごまかすかのように」
「しゃ、しゃみちかったから」
「いいえ。寂しかった割には私のそばにはあまり来ませんでしたね。そう、まるで目を合わせたら何かがばれるのではないかと恐れているかのようでした」
「うう」
ナタリーがかすかに首を横に振った。あきらめた方がいいですよという顔だ。
「あ、あちた」
「明日?」
「はんすといっしょに、おはなちしゅる」
兄さまはしばらく目を合わせない私をじっと見つめると、ふうっと息を吐いた。
「いいでしょう。明日まで待つことにします」
私は急いでお布団に潜り込んだ。冷静な兄さま、ちょっと怖い。将来兄さまの部下になる人たちをちょっと気の毒に思うレベルだった。
怖いからといっておねしょなどしない私である。次の日も元気よく起きた私は朝からご機嫌だった。なにしろハンスに任せればいいわけだから、気が楽なのだ。
「あーあ、ばれちまいましたか。まあ、最初からルーク様には隠し通せるとは思ってませんでしたけどね」
「あい」
朝から護衛が失礼だが、私も悪気があったわけではない。内緒にして、兄さまをびっくりさせたかっただけなので、素直にしょんぼりすることにする。
「それで、いったい何を企んでいるのですか」
「はんす、よろちく」
「俺に丸投げですか。しょうがねえなあ」
ハンスは顎の無精ひげをぞりっとなでると、兄さまに簡単に説明してくれた。
「リア様とお子様たちが、学院に見学に行きたいんだそうです」
「お子様たちって、つまりニコラス殿下とクリスのことですよね」
「まあ、そうです。それとマーク様」
残りの二人はどうでもいいという雰囲気がぷんぷんする。そしてもう一人付け加えるのを忘れなくて偉いと思う。だが兄さまの顔は明るい。
「そんなことですか。それならリアが危なくないように根回しをして、それからどの授業を見せましょうか。かっこいいところが見たいのなら剣の授業などもいいですし、笑いたいなら魔力訓練の授業などもいいですよ。初心者すぎてかえって興味深いです。いや、待ってください」
兄さまはいぶかしげにハンスのほうを見た。
「今、マークと言いませんでしたか。誰かお付きの人のことでしょうか」
「いえ、モールゼイのマーク様です」
「聞きたくなかった。よく考えたら王家と四侯の視察ということじゃないですか。面倒な」
「それですがね、ルーク様」
ハンスが困った顔をしている。
「リア様はお忍びで行きたいんだと。ああ、違うな。抜き打ちで行きたい、そうなんです」
「抜き打ち」
立って話を聞いていた兄さまはよろよろとソファに座り込んだ。
「四侯と王家が揃って抜き打ち。お子様じゃない四侯も。うーん」
「にいしゃま、だいじょうぶ?」
私はソファによじ登って兄さまに寄り添った。もちろん、心を落ち着けるお手伝いのためだ。
「リア様は元凶でしょうが」
「ちがいましゅ。なにかちたいっていったのは、まーく」
単に行き先を提案しただけである。私は少し口を尖らせた。
「だからにいしゃまに、ないしょにちたのに」
「だからとは?」
「ちらなければ、こまらない」
「知らなければって、リア……」
あきれた声に兄さまは私のとがった口をきゅっとつまんだ。
「もが」
「リアは人を困らせてもかわいいですね」
とても心外である。誰も困らせてなどいない。
「でもそうですね。知らなければ困らない。うん。私は知らなかったことにします」
「まあ、対外的にはそれがいいと思いますぜ。ところでルーク様、ご相談が」
「ああ、わかっている」
それから兄さまとハンスは頭を突き合わせていろいろ話し始めた。「警備が」とか、「見学のコースはどこを通って」などと漏れ聞こえてくるのだが、私はちょっと飽きてきた。そこにドアがノックされたら、それはすぐに返事をしてしまうでしょ。
「どうじょ」
という私の声にドアが細く開き、いつもより控えめなジュードの声がした。
「ルーク様、リーリア様。あの、お客様が」
その控えめな扉がバーンと開けられた。
「聞いたかルーク! 討ち入りだ!」
「違うでしょう、ギル。抜き打ちですよ、まったく」
後ろからクリスがごめんねという顔をしてついてきている。
「くりしゅ! やっぱり、ばれた?」
「ええ。いつもとなにかがちがうって、みんながきくから、ついいっちゃったの」
「でしゅよね。りあも、だめだった」
二人で肩を落とすが、でもクリスは少し嬉しそうだ。いつもと違う自分に気が付いてくれる家族がいるというのはいいものなのだ。
「退屈な学院生活にこれで風穴が開く! 俺は全力で協力するぞ!」
「協力しないなんて言ってませんよ」
「おう!」
大きい人たちはそのまま何やら話し合いをしているが、クリスが来てくれたので私も退屈しないで済みそうだ。
「おしょとにいく?」
「おんしつがいいわ」
「さいよう!」
面倒なことは丸投げして、私達は部屋から走り出したのだった。
「転生幼女6巻」について、書影、特典情報等、活動報告に上げてあります。
下の作者マイページから飛べますので、よかったらどうぞ。
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