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エロス研究会  作者: 木枯 桜
相原縁、襲撃編
9/10

ep.09 其の男、窮地



「おかえり~おにーちゃんっ」



何だこの生物は。



帰宅一秒で未確認生物を発見してしまった。



「……なんだ、その気色の悪い声は」



「えぇ~ひどいなぁ~。かわいい妹が愛しいお兄ちゃんの帰宅を待っていたっていうのに~」



生憎僕の中で【妹】という名詞と【かわいい】という修飾句は存在しない組み合わせなのだ。



「欲しい物でもあったのか?申し訳ないが今月は新書がたくさん出たから財布に余裕はないぞ」



「あ~!ひどいっ!どうしてそんなひどいこと言うのかな?」



「いや、もうその声でいい……」



今日はただでさえハードワークだったのだ。



これ以上無駄な労力は使いたくない。



学園指定のローファーを脱ぎ捨てて階段を昇る途中で、琴音の顔がチラリと見えたのだが非常に愉快そうだった。



実に不愉快だ。



「なんなんだ、今日のアイツは……」



自分の意識とは別に溜め息が一つ漏れてしまった。



今日の一場面だけを見れば単なるブラコンの妹に見えるかもしれないが、少なくとも僕の記憶上の琴音があそこまで余所行きの態度を僕に取ったのは初めてだ。



何を強請られるのか実に怖い。



思考が一区切りしたところでさっさとブレザーとスラックスを脱いでハンガーに掛ける。



ワイシャツは脱ぎ捨てて八分丈のカーゴパンツと敢えてワンサイズ上のシャツに着替える。



部屋着としては中々の重装備だがこれには明確な理由がある。



というのも僕に言わせると、琴音のような太もも丸出しのショートパンツに肩丸出しのキャミソールなどという服装は恥部を晒しているようにしか思えないのだ。



もちろん自宅なのだから気楽な服装でいいのだろうが、どうしても最低限の防御力がほしい。



階下のダイニングでは母さんが食器を並べて終えて盆を片付けるところだった。



僕が揃ったことで琴音と父さんが席につき、最後に母さんが座ったことで夕食が開始される。



琴音は未だにご機嫌な様子でトルティーヤを食べている。



それに倣って切り分けられたトルティーヤを口にする。



今日の具材はジャガイモ・ほうれん草・チーズ・豚肉のようだ。



うん、今日もおいしい。



母さんは非常に料理作りが好きらしく、多国籍の料理を日替わり定食のように出してくる。



スープはトマト・オリーブ・玉ねぎ・パプリカが入っているのでガスパチョかと思ったが、輪切りのゆで卵が入っているので恐らくサルモレッホを温製スープにしたのだろう。



別に我が家では食事中の会話が禁止されているというわけではない。



だが一月でほぼ料理が被らない我が家では料理に舌鼓してるので自然と口数が減るのだ。



なるほど美味しい料理というのは消費したMPを回復するのか。



つまりRPGの世界で多発する薬草を食べてMPが回復するというのもあながち間違いではないのかもしれない。



「そう言えばね~」



家族の中では比較的多く食事中に話す琴音がいつものように口を開く。



どうせいつもの取り留めもないことだろう。



「今日お兄ちゃんが学校でも人気のある綺麗な先輩に告白されて彼女ができたんだよ~」



「………………っ」



「あらあら~」



「………………」



琴音は天気の話題を告げるが如く事も無げに爆弾を投下した。



母さんは驚きと喜色を混ぜた表情でこちらを見つめる。



父さんは一瞬手を止めたが、すぐに食事を再開した。



僕は盛大に噎せて気管と食道の役割を戻すべく水を飲み干した。



「でね、その先輩っていうのが相原先輩っていう綺麗で賢くてお茶目なんだよ。お兄ちゃんと本の趣味も合うみたいでスッゴくお似合いなの~」



「そうなの?素敵なお嬢さんなのね~」



「……っ。ち、ちがっ!」



「そんなに照れなくてもいいのに~。中学校の時から数えて麻海先輩と、和紗ちゃんと、あの女だから四人目かな?」



「なんでお前が僕の男女交際歴を知ってるんだ!?和紗はお前の友人だから知ってるにしても!残りの一人はどこで知った!?」



思わず静止する。



両親の前で交際歴を言われるとかどんな拷問だ!



「なんでだろうね~?ふしぎだね~?」



何故今日こんなにも妹が上機嫌なのかやっと分かった。



琴音は全てを知っていたのだ。



何故かは分からないが、今日起きた出来事を事前に知っていたのだ。



「よかったね、お兄ちゃん?相原先輩ならお兄ちゃんがドーテーでも優しくしてくれるよ~」



「琴音」



「な~に、パパ?」



父さん!



親としての威厳を見せてもっとこのマシンガンみたいな駄妹の口を閉じてくれ!



「そういう言葉は食事が終わってからにしなさい」



「は~い」



父さん……。



唯一の同性である父さんにまで見捨てられてしまってはこの妹の攻撃を避けることができなではないか。



「静香」



「………………」



なんだよ。



「お前の勝てぬ戦に参加しない性格は美徳だが、避けられない負け戦があることも知りなさい」



もうお終いだ。



いや、まだ起死回生の一手はある!



「琴音、確かに相原先輩に告白されたのは事実だ。だが承諾した事実もない」



渾身の一手を放ち、この時の僕は勝利を確信していた。



「は?今何て言ったの、静香?ちょっと琴音ちゃんとお話しようか」



どうやら僕は途轍もない一手を放ってしまったらしい。





本日は夕方と20時に更新予定です。


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