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別れ

「パパ!ママ!」


「キドラ!」


地下牢に閉じ込められていた冠を被ったツウラ人はそれぞれ

濃い赤と薄い赤だった。


「お待ち下さい。いま開錠致します。」


スチャンは近くにあった鍵の束を持ってくる。


「おう私の可愛いキドラ、無事だったか。」


「キドラ、良かった。」


「うん。」


キドラは2人に抱きつかれていて、

今まで以上に尻尾を振って嬉しそうだ。


「ジニア、お主のおかげだ。」


「所でこちらのお方は?」


お妃様、であろう方がオレに問いかけてきた。


「初めまして、王様、お妃様、地球人のミノルです。」


「落ちた先の星だ。ミノルはそこで、俺達が大変世話になった人の一人だ。」


「これはこれは娘と私の国の宝がお世話になりました。」


「いえいえ、こちらこそ貴重な体験をさせて頂き、ありがとうございます。」


王様、であろう方が深々とお辞儀をされたので、

オレも深々とお辞儀を返す。


「ジニア、今回の件は表彰に値する。褒美を与えよう。ついてまいれ。」


「ありがとうございます。」


宝物庫は地下牢のすぐ傍にあった。

お城の宝物庫、入るのは当然初めてだ。

金銀財宝がたくさんあり輝いている。


「この中から好きなだけとっていい。ほら、遠慮するな。」


「では…これだけ頂きます。」


ジニアは6個の宝石を拾い上げた。

赤と青の縞模様で、宝石には詳しくないが、地球には無い色だろう。


「なんだ、それだけで良いのか?」


王様はもっと取るものと思っていたらしい。


「ところでジニア、地球はどんな星だった?」


「はい、重力はここの半分ほど、食事は美味しく過ごしやすいです。しかし…。」


前半はハキハキした表情で報告していたジニアも後半では言葉に詰まる。


「しかし?」


「異星人には好意的とは言えません。」


「そうか。」


その言葉を聞いて、王様はそれ以上は何も聞いてこなかった。


「で、でもミノルは優しいよ!」


キドラが慌てて早口で言い、王様の沈黙を破ろうとした。


「キドラ…。」


それを聞いて王様は困った表情に成る。


「私また地球に行きたい!」


「可愛い娘の頼みだ、私も行って良い、と言ってやりたいが…。」


王様がさっきジニアがしたのと同じような困り顔になった。


「解ってます、王様。この国のものを動かすのも国民の税金で成り立ってる。高そうな機械を娘のためだけで何回も動かす訳にはいかない、というわけですよね?」


そこから先はおおよその検討がつく。


「すまない、ミノル君。キドラ。私が許容できるのはあと1回だけだ。ミノル君の帰りの分。」


「でもパパ!ジニアは地球でお世話になった人にお返しがしたいって…。」


キドラはさっき以上にとても早口だ。


「時にミノル君。」


王様はこちらを冷静な表情で見つめてくる。


「はい。」


「ジニアの世話になった人に心当たりは?」


「あります。」


転送装置はあと1回だけ、想定されていた展開の1つだ。


「でも!ミノルは私とジニアにとっても…。」


「キドラよ。それとこれとは話が別だ。公私混同になってしまう、解るね?」


「…うん。」


キドラは先程王様とお妃様に合う前までにしたような暗い顔に戻った。


「そういう訳で、ジニア。お礼とやらは考えておるのか?」


「はい。裸ですまないが…。」


ジニアはさっき王様に貰った褒美の宝石をそのままオレに手渡した。


「いいって、ラッピングぐらいはするよ。」


「渡したいのは…。」


「コウデラ氏、オレの兄貴、母さん、父さん、ストウさん…そしてオレ。だから6個取ったんでしょ?」


6個、の意味を考えたけど、それしか思い当たるフシはなかった。


「…そうだ。」


ジニアは観念したような表情に成る。


「王様、1つだけわがままを言わせてください。」


ジニアは指を1本立てて、神妙な面持ちで聞く。


「申し上げてみよ。」


「復元装置を使わせてください。」


「復元装置か…。あのくらいなら私のポケットマネーで国庫に補っておこう。褒美も少なめに取ったことだしこれでプラスマイナスゼロじゃ。」


王様は乾いた笑顔でそういう。


「ありがとうございます。」


「復元装置もジニアの部屋?」


あの部屋はとてもごちゃごちゃしていて何がなんだか解らなかった。


「そうだ。」


「ではその後、すぐ帰ります。」


「見送りぐらいはしよう。」


王様はそのまま先頭を歩きながら、ジニアの部屋へと向かう。


「…。」


キドラは暗い顔をしたままだ。


ジニア達と一緒にジニアの部屋に戻る。


ジニアはまっすぐと、ボタンが1つだけの、

透明なガラスのようなもので作られた箱に近づく。

展示ケースのようにも見えるが、これが復元装置だろう。


ジニアは宇宙船からバラバラになったフィギアを持ってくると、

その機械の正面を開けて中に入れ、ボタンを押した。


バラバラだったフィギアがどんどんと組み上がっていく。

逆再生でも見ているかのようだ。


「ミノル、これ遅れたが…。」


完全に組み終わると、ジニアはそのままフィギアを取り出し、

オレに差し出す。


「ありがとう。でも、ジニアとキドラにあげる。記念に取っといて欲しいんだ。」


「しかし…。」


ジニアは約束を守りたがるだろうし、受け取るのを渋るだろうとは思っていたけど、

もう受け取る気分には成れない。


「やった、ミノルに貰っちゃった!」


ジニアが受け取るのを渋っていると、

横からキドラが奪いとった。


「うん、あげるよ。」


「よし、じゃぁ転送装置を始動しよう。」


「あ、待って。最後に皆で写真と動画撮らせて。」


オレはポケットからスマホを取り出す。

ジニアはそのまま国王のほうへ向いた。


「いいとも。」


王様はゆっくりと頷いて、

皆と一緒に一列に並んだが、

スチャンは自然に列から外れようとした。


「ほらほら、スチャンも入って。」


「よ、宜しいのですか?」


「いいから、入って入って。」


オレはスチャンを背中から押して、

やや強引に列に加える。


「撮るよー。」


オレはスマホのセルフタイマーを

オンにして、窓枠に立てかけた。


「はい、チーズ。」


鳴り響くシャッター音。

なんとなく、いつもより無機質な感じがした。


「あっ!もうこんな時間。私、テレビ見なくちゃ。」


それを合図とするかのように、

キドラはジニアの部屋を走って出て行く。


「キドラ!」


ジニアが止めようと声を掛けたが、キドラは走っていく。


「いそげー!」


廊下を走っているキドラの声がここまで聞こえてくる。


「…すまんミノル。キドラを追いかけてくれ。隣の部屋だ。俺はその間にセットアップしとく。」


「…うん、解った。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 トントン


「キドラ、居るんでしょ?」


「ミノルー?開いてるよー。」


扉越しに薄っすらとキドラの声が聞こえてきた。


「開けるよ?」


キドラの部屋のカーテンは締め切られており、薄暗い。

お風呂に入ってそのままなんだろうか。散らかっている。


「なに?ミノル?」


何度か聞いたキドラのとぼけた声だ。


「キドラ、オレ行かなくちゃ。」


「うん、バイバイ。」


キドラは画面から目を離さずに、

淡々と言った。


「キドラ、最後くらいこっちを見て…。」


オレはそんなキドラの横側に回りこむ。

キドラの瞳は今にも涙が零れそうだ。


「ミノルぅ。」


「行っちゃやだよ。」


「ずっとここに居てよ。」


「一緒にテレビ見よう?」


かすれた声で少しずつ絞りだしているようだ。


「うん、良いよ!」


オレは気安く返事をする。


「…ミノルは優しいね。」


でも、キドラもそんな事長くは続かないことが解っているようだ。


「キドラ?」


キドラはそのままオレに抱きついて来た。


「ずっとずっと忘れないでね。」


「忘れないよ。」


オレはキドラの頭を撫でながら答える。


「早く…行ってよ。泣いちゃうでしょ。」


「キドラ…。」


まっすぐ見つめた瞳からは今にも涙が零れそうだ。


「また、会おうね。」


「また?」


「うん、私頑張る。だって将来は王女様だもん。だから、ミノルも頑張って。頑張って地球が他の星と交流出来る星にして。」


そっか。一人娘だもんね。


「うん、解った。約束。」


オレは大きく頷いた。


「指切り。」


キドラは小指を出してきた。


「指切りげんまん、嘘付いたら針千本飲ーます!」


そのままオレは指切りをする。


「指切った!」


「ミノル知ってる?これって一万発も殴ったあと、針も千本飲ませて、小指切っちゃうぞ、って意味なんだよ?」


「え、そうなの!?ただの決まり文句みたいなものだと思ってた。」


指切りって恐ろしいな。


「へへーん、地球人なのに知らなかったの?ネットで知ったんだ。」


「へ、へぇ。」


キドラやジニアの吸収力の速さには目を見張るものがある。


「…約束だよ。」


「うん、約束。」


「ミノル、行っていいよ。」


キドラが顔を背けた。


「うん。」


そのままオレはそっとキドラの部屋を出て行って、

元のジニアの部屋に戻る。


「お待たせ。」


「ミノル、また会おう。」


また会おう、出来そうもないことを口にするなんて。


「ジニアらしく無いね。」


「…。」


ジニアはそのまま何も言わなかった。


「見てくれ。最初と同じミノルの部屋だ。」


オレは転送装置に近づきオレの部屋かを確認する。


「じゃぁな、ミノル。」


しかし、ジニアはそのままオレを輪の中に突き飛ばした。

オレはベッドの上に落ちた。

ジニアが少し調整してくれたんだろう。


しばし、呆然とするが、数日前の母親の言葉がふと頭をよぎった。

スマホでメールをする。


「母さん、オレ戻ったよ。」


一言だけそう送った。


腹減ったな。

そういえば、朝飯も昼飯も食べて無かった。

早いけど夕飯作るか。


皿を3枚…。

…そっか1枚でいいんだよ。何やってんだオレ。


冷凍してあった残り物でチャーハンを作った。


1口食べる。

味も素っ気もない。

ルグジャ星の食べ物のほうがマシだった。

と思ったら少しだけ笑ってすぐに悲しくなった。


ごちそうさま。


片付けは…後でいいや。


そのまま何となくテレビを見る。

キドラも今はこうしてるんだろうか。

丁度そらまほが始まっていた所だった。


たった2週間…か。


「キドラ…ジニア…。」


こんな濃い2週間はもう過ごせそうに無いや。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ミノル、こんな所で寝たら風邪引くわよ?」


「あ、母さん。変な夢見たんだ。ドラゴンが…。」


「ドラゴンってキドラちゃんとジニアちゃんのこと?」


「え…そっか。」


夢じゃなかった…いや、夢だと思い込もうとしてただけ、か。

スマホのカレンダーを見る。丸1日もソファで寝ていたらしい。


「ミノル、おかえりなさい。お疲れ様。」


「ただいま。そうだ、これ。ジニアから。父さんにも渡しといて。」


「キレーイ。ジニアちゃんの星の石なのね。本当に行ってきたんだね。」


「うん。そうだ、母さん手紙書きたいんだけど紙ある?」


「もちろんあるわよ。」


ちゃんと、最後までやらなくちゃ。

今までの事を全て書いて。


「時間がある時で良いから母さんにも詳しく向こうの話してね。」


「うん。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


手紙を書いた後は、ふらふらした足取りで京北工業大学に行った。


「ミノルくん!」


研究室には2人だけ人がいた。入ると、女性がすごい勢いで近づいてくる。やけにご立腹だ。


「す、ストウさん!?」


「あなたね!出かけられない友達、って宇宙人だったのね!」


「え?」


ストウさんの後ろから兄貴が申し訳なさそうな顔でこっちを見ながら、手で謝っている。


「いや、すまんミノル!。この間のUFO騒ぎの時に、つい口を滑らせた。」


「すいません、上手く説明できる自信が無かったんです。」


「でも私も父さんの事隠してたし、おあいこね。」


ストウさんは少し呆れた顔をしていたが、やや諦めたような顔になった。


「宇宙人ほどの秘密じゃねーだろ。」


兄貴はすかさずツッコミを入れる。


「その宇宙人はどうしたの?」


「実は…。」


オレは今までの事を全て話した。


「そう、残念ね。私も会いたかったわ。」


「そうだ、これ。ジニアから2人に。」


「おーたっかそー。」


「キレイね。地球上には無い宝石の色をしてるわ。」


「じゃ、オレはこれで…。」


これでやることは、終わった。


「ミノル!」


そんなオレを兄貴が呼び止める。


「何?」


「お疲れ。」


「うん。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「コウデラさん。小包が届いてます。」


「私に?」


コウデラさん。

大変お世話になりました。

オチアイ ミノルです。

…。


「なるほど…。もう会えないのか。惜しい事をした。」


「電話…いやメールだな。」


ミノル君。写真と動画があったら貰えないかね?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ミノル、おかえり。」


「ただいま。」


「ごはん作る?」


「うん。」


母さんと一緒にご飯を食べた。

何を食べたか覚えてない。


そのままテレビを見て、風呂に入った。”いつも通り”に。


寝る前にスマホで撮った写真と動画を見る。


…。


”指切り。”


”また、会おう。”


さよなら、って言わなかった。


オレはそのまま机の前に向かって勉強を開始した。


これがオレの高校2年生の夏休み最初の2週間。


また、会えるその日まで。


頑張ろう。

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