対決
オレ達はジニアを先頭に廊下を柱の影に隠れながら、ゆっくりと玉座に近づいて行く。
玉座に座っているゾバスの姿がちらりと目に入る。
しかし次の瞬間、オレとスチャンとキドラとジニアが羽交い締めにされた。
「遅かったじゃないかジニアくん。待っていたよ。」
ゾバスはやはり全身がフードに覆われているが、ジニア達よりやや大きいくらいだろうか。ゾバスは玉座に肘を掛けながら、頬杖をついていた。
「待っていた?」
「そうだ、王としてね。君は王家の技師なのだろう?」
「俺の仕える王は今何処だ?」
オレもキドラもスチャンも今は2人の迫力に押されて、お互いのやり取りを固唾を呑んで見守っている。
「今は、僕が王だ。こうして玉座に座ってるだろう?」
「何を言ってるんだ?」
道理が全く通じず自分の世界に陶酔する人種。ジニアが一番苦手そうだ。
「君には僕の理想に協力して貰うよ。」
「は?」
ジニアも少し困惑しているらしく、珍しく一言で返した。
「平和な世界を作りたんだ。僕の崇高な発明でね。」
「何が言いたい?」
発言もいちいち遠回しで勿体ぶっている。
「まず、世界中に僕の発明を送り込む。僕の平和を乱す頭の悪い奴らはどんどん消す。そうすれば、宇宙中が平和さ。」
「お前、おかしいのか?」
初めてジニアが呆れ顔になった。
「なんだ、君も僕の言う事を理解出来ないのかい?がっかりだよ。
もっとも、君には僕に従う以外の選択肢は無い。前王とその家族がどうなるかは、君にかかっているのだからね。
僕は紳士として振る舞うことを望んでいる。
君が僕に従うのなら、前王たちは辺境の地で僕の部下に見守られながら静かに余生を送ることが出来るだろうね。」
「理想の為に俺にどうしろと言うんだ?」
ジニアは苦渋の表情で聞き返す。
「察しが良いな。実に賢い選択だ。僕の理想の為に君の転送装置が欲しいんだ。」
「発明家なのだろう?。自分で作ればいいではないか。」
「自分で一から考えるなんて馬鹿馬鹿しいだろう?技術はもちろん他の星の発明家のものを盗んだよ。」
自分ではほとんど何も出来ないって事か。
「それでよく自分のものだ、と言えたものだ。」
「僕みたいな腕のいい天才に盗んで貰えるなんて発明家も喜んでると思うよ?」
ジニアが作りが雑、と言っていた事からも考えて、腕が良いとはとてもじゃないが思えない。
「虫がいいな。だが俺の転送装置は高い技術がないと使いこなせないぞ。宝の持ち腐れになる。」
「何だ、残念だよ。じゃぁ壊そう。」
ゾバスは玉座から立ち上がった。
「何だって?」
「今までの発明は皆発明家の留守中を狙って盗ってたけど、あの発明品は君しか動かせないように設計されていた。だから、壊すしかない。」
駄々をこねる子どものようだ。
「発明品を壊すのか?」
「あはは!君も意外に馬鹿だね。君の大切な物だよ。」
「まさか王様と…。」
さっきの発言から考えても、その為に人質に取っていたと考えるのが普通だろう。
「違う。全てだよ。」
しかし、こいつはそうは考えてはいなかったらしい。
「全て?」
「この星はもちろん、ジヴェル星、コロイ星、ワーワラ星、トリッサ星、ルグジャ星…君の知る全てを、だよ。」
どうして今まで通ったルートを知ってるんだろう。
「脅迫するつもりか?」
「脅迫じゃない、取引だよ。この機械でね。」
画面が6枚と、大きなボタンが1つとそれを守るカバー、そしてそこからは無数のケーブルが伸びている。
簡単な発信命令をする機械だろうか。
「そうそう、当然ミノル君の星、sCBZ3On-tcqa8t…地球もだよ。」
「え!?」
オレも思わず声を上げる。
「外野は黙っててくれ。」
ゾバスは鬼気迫る表情で、ボタンに指を置いた。
オレもその気迫に押されて、再び押し黙った。
「どうしてお前がミノルの名前を知っている?」
「さー何ででしょうね?」
ゾバスはわざとらしく、両手の手のひらを上に上げる。
「スチャンとの通信には何重にもプロテクトをかけていた、簡単には傍受出来ないはずだ。」
「もっと簡単にスマートにやらなくちゃね?そうでしょ?スチャン?」
「はい?」
スチャンは予想外の問いかけに、あっけに取られている。
「優秀なスパイのお陰で、実に簡単だったよ。侵入も容易だった。そもそも何で僕がこの国の言葉や地球の言葉を話せるか考えなかったのかい?」
「ジニア様、私めはそんな…。」
スチャンは必死な表情で、何か言いかけた。
「解ってる。こいつの言ってる事はさっきから嘘と妄想ばかりだ。」
「何?」
今までクールな表情だったゾバスが怒りの表情へと変化した。
「その機械も動くかどうか怪しいもんだ、町でお前の作った機械を分解したが、とてもチャチな作りだった。
その機械とやらもケーブルは剥き出しだしはっきり言ってお粗末だ。今にも壊れそうじゃないか。いや、壊れてるかもな?」
「口の聞き方には気を付けたほうがいい。王の言葉を理解出来ないとは。…もういい、よく解った。」
そいつはその機械のボタンのカバーを外した。
「キドラ!裏の裏は!?」
「表!」
キドラは袋の中にある機械を袋の上から押した。
次の瞬間、羽交い締めだったジニアの身体がロボット側に向く。
「何!?」
ジニアは敵が驚いていた一瞬の隙を突いて、袋に入っていた万能工具で、ロボットの腕のケーブルを切り裂く。
そしてそのまま敵の近くにある機械に近付いた。
しかし、手を触れた瞬間にキドラを抑えつけていたロボットがジニアを抑えつけた。
片手にはオレやキドラ、ジニアから没収した道具袋を手に持っている。
キドラとオレは今、1体のロボットで抑えられている。
「あー惜しいね!まさかこんな物を持ってたなんてね。でももう出来ないね?」
「ジニアっ!」
オレも必死な形相でジニアに助けを求める。
「やめろ!」
「もう、遅いよ。天才技師君。」
ゾバスがスイッチを押すと、
機械に付いていた画面に見覚えのある風景が映しだされた。
ゾバスが言っていた惑星だ。
映し出された画面の視点から考えて、ロボットにカメラが仕込まれているのだろう。
画面の左から見ていく。
あれは先程までオレ達がいたツウラ星の城外だ。
「宇宙船が動き出したぞ!?」
「城からロボットが続々出てくる!」
逃げ惑う人々の中には宇宙船から降りた時に出会ったツウラ人や、
万能工具を売ってくれたツウラ人も居た。
2枚目に写っている、機械だらけの星。
あれはジヴェル星だ。
「入星申請も無しか。これは忙しい一日になりそうだ。」
クーナルは手に持った工具で応戦しようとする構えを見せる。
「ロボット、沢山、ロボット、沢山。」
コロイ星のコロイはロボットを取り囲むように集合していく。
「なによあれー!?聞いてないわよ!」
アティンダは水面から顔を出し、ロボットの動向を伺う。
ロボットは水中にそのまま潜っていき、
アティンダのほうへまっすぐと泳いでいく。
「おいおい、埃を落としてから店に入ってくれてるんだろうな?」
光る石が特徴的なここはトリッサ星の地下。
テリドーザは細工をしていた手を止め、
最大限の嫌味を放つ。
「キドラ、ジニア、ミノル、無事で居てくれ。」
キャフツァはそう言い残しながら、
他のルグジャ人と同じように、自分の住処に引っ込んでいく。
そんな人々の様子をゾバスは満足そうに眺めている。
「いいねぇ。よく働いてくれてる。平和を乱す不良品を排除する、良いデモンストレーションにもなる。
各惑星の映像も良好だ。君の通信機の構造を真似さしてもらったよ?各ロボットが経由局代わりになってるんだ。」
「押してしまったか…。」
「ジニア!どうにか出来ないの?」
オレも慌てた表情に成る。
「無駄だよ。一度動かしたらこれは止められない。」
「そんな…。」
「そうだ、ミノル君とやら。地球はどうなってると思う?」
ゾバスは微笑みを浮かべながら画面に地球を映し出す。
画面の中で種子島宇宙センターのセンター長室の扉が開く。
「…。」
コウデラ氏はこちらの様子を冷静に見ている。
隣の画面では京北工業大学の研究室の扉が開いた。
「UFOの次はロボット!?自分の目が信じられない。」
「これは一大事ね。」
兄貴もストウさんも手近な工具を手にとった。
隣に緑が丘駅前の人々も目に入る。
「おい!何だよあれ!」
「UFO?」
「なんかの撮影?」
数日前の撮影のようだ。
しかし、現実では逃げようとした人は転び、
中には何かの宣伝だと思った人もいるようで、
行動はとてもバラバラだ。
「各惑星の皆さん。今から破壊を開始します。恨むなら協力しなかったツウラ星のジニア君を恨んでください。」
ゾバスが画面に向かって話しかけると、画面の中の皆が一斉にこちらを振り返る。
地球の人々は突拍子もない声明を聞いたからか、呆然としている。
「なんとか出来ないのか!?」
「無駄だ。さっきも言っただろ?」
ゾバスの笑顔はより大きくなった。
「見ててご覧。今僕のロボットがジニア君の大事なものを…おや?」
しかし、宇宙船から降りたばかりのロボットは、そのまま宇宙船の方へ戻っていった。
オレ達を抑えていたロボットも手を離し、城の外へと出て行った。
「おい!どうした!?」
ゾバスはその機械のボタンを連打する。
しかしロボットは、どんどんと宇宙船の中に戻っていく。
「なぜ僕の命令を聞けない!」
ゾバスがなんの手段も取れないまま、ロボットはそのまま宇宙船ごと近くの恒星や無人の惑星に突っ込み、自爆した。
「そんな…馬鹿な…。」
ゾバスの笑顔は消え、茫然自失といった体だ。
「ジニア、どうなってるの?」
オレはあまりの急展開にジニアに声をかける。
「ふふふ…。」
「ジニア?笑ってる?」
キドラがそう言った。
今はジニアの背中だけしか見ないけど、笑い声だけは聞こえてくる。
「まさかこんなに上手く行くとは思わなかったぜ。」
「いったいどういう事だ…?」
「さっきロボットのケーブルを切ったのは、万能工具と言って、持ち手の想像通りの工具になる。」
片側が丸いあの工具だ。
「だから何だ?」
「もう1つ俺の発明で万能ケーブルというのもある。どんな機械とでも接続出来る。」
前に聞いたが、見たことはない。
「何が言いたい?」
「ところで…お前地球の万能リモコン、って知ってるか?」
言うまでもなく、テレビを操作するときに使うやつだ。
「は?」
ゾバスはさっきジニアがしたような理解に苦しむといった顔をした。
「初めて名前を聞いた時は、地球にもこんなものがあるのか、と驚いたが、中身はただ単に複数の電波を記録しただけの代物だった。」
「それで?」
「やっぱり”万能”と言うからにはどんな機械でも操作できなきゃな?」
「…!」
ゾバスはさっきボタンを押した機械の反対側に回り込む。
よく見ると、ケーブルが1本増えている。
さっきジニアが部屋に居た時に入れていた、両端が球体のケーブルだ。
さっき機械に触った時に付けたのだろうか、全く気が付かなかった。
「まだこいつは未完成だ。単純な機械しか操作出来ないし、
どうしてもそのケーブルの先に付いているような受信部が必要になるのも欠点だな。
でもお前のお粗末なロボットだったらこの程度で十分だ。」
「そうか、お前が…お前のせえでぇええ!」
ゾバスは真っ直ぐジニアに突っ込んできたが、ジニアは敵の持っていた袋の上から万能工具を持って長く鋭く形を変え、手の辺りを切り裂いて、
袋を取り戻し、そのまま膝のケーブルも切り裂く。
そして、ゾバスは膝から崩れ落ちた。
「やっぱりな。」
「やっぱりって、どういう事?」
「ほら。」
ジニアは敵のフードを外す。
「ロボットっ!?」
「そう、こいつもロボットだったのさ。おそらくこいつはかなり昔に自分の体を機械化したんだろう。」
「そうなんだ…。」
「それならこいつの侵入方法も検討が付く。こいつは他の星の機械の積み荷に紛れて少しずつ自分の体を持ち込んだんだろう。
あのロボット兵たちは近くの無人の星にでも止めておけばいい。」
「少しずつ?」
誰が組み立てたんだろう?
「この機械は他と違って特別性だ。ブレーンの元に集まるようにプログラムされているらしい。まったく手間のかかる事をしたもんだ。」
「なるほど…でもどうやってUFOをドンピシャの位置に配置したんだろう?。」
「スチャンとはほぼ毎日通信していた。その内容でおおよその検討はつく。地球のことは玉座に置きっぱなしだっただろう資料を見て知ったのだろう。」
でも、通信はプロテクトが掛かっていたはずではないだろうか。
「それと、スチャン。」
「ジニア様、決して私めはあなたを裏切ってなど…。」
「解ってる。翻訳機を外してくれ。」
「え…あ、はい?」
スチャンは疑問を浮かべた顔をしながらも、翻訳機を外した。
「思った通り、単純な仕掛けだ。」
ジニアは米粒ほどの大きさの機械を取り外し、スチャンに渡す。スチャンは再び翻訳機を付けた。
「これは…盗聴器ですか?いつの間に。」
「そう。初めからこいつは俺達をスチャンに会わせるつもりだったのさ。だから城の中の警備もやけに手薄だった。仲間割れを狙ったんだろう。陳腐な作戦だな。」
「でも相手は日本語を話していたじゃない?」
「ミノルよ、ツウラ星の翻訳機にはもう日本語データが入ってるんだぞ?。おそらく敵は俺達が上陸したのにもすぐ気が付いたはずだ。
翻訳機は店にも並んでるんだ。それを入手するのはそう難しいことじゃない。」
敵は誇大妄想を抱いていたけど、そこまで愚かじゃなかったって事か。
「言われてみれば…。」
「そんな事よりパパとママ!」
キドラはもう気が気でないようだ。
「そうだな、多分地下牢だろう。急ごう。」
ジニア達といっしょに地下牢へと急ぐ。




