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決意

「好きにしてていいぞ。1人で大丈夫だ。」


この状態のジニアを手伝えるのは今の地球上には誰も居ないだろう。

ジニアは人間っぽい装甲を着たまま作業を続けている。数日前の事がトラウマになっているんだろうか。

格納庫には宇宙船をメンテナンスするための簡易的な装置があったが、

ジニアは見たこともない機械を使っているとは思えないほどの飲み込みの速さで、

使い方を覚えて、宇宙船を作り出した。


オレはキドラと一緒にスマホでテレビを見だした。

丁度、”そらまほ”の放送時間になったからだ。


思えば、この2人が来たのもそらまほを見ていた時だった。

あれから1週間しか経っていないのか。


 「え!?ソラ帰るって?」


幼なじみのハナジマ サオリも今は主人公のマコの秘密を知っている。

もちろん魔法少女だ。


 「そうなの、昨日急に荷物をまとめて”明日、実家に帰ります。”って」


 「でもソラって落ちこぼれで、人間界に修行に来てたんだよね?」


 「うん…。」


 「って言う事は…。」


 「もう、会えないと思う。」


もう、会えないのか?。

何となくは感じてはいた。

しかし、はっきりと確認したわけではない。

今、聞こう。


「ねえ、ジニア。」


「なんだ?」


ジニアは宇宙船を作成しながら、返事をした。


「もう地球には来ないんだよね?」


「まだお返しをしてない人が沢山いる。その人達にお返しをしに来るさ。もちろん、ミノルにも会いに来る。」


肝心の聞きたいことをジニアはわざと答えまいとしているように感じるのは、

考えすぎだろうか。


「…その後は?」


「もう、来ないだろう。」


あくまで手を動かしたままで、ジニアは答える。


「えー、また来たいよー。」


キドラはスマホの画面から目を離して、

やや大きめな声でジニアにそう言った。


「キドラ、そもそもあの転送装置は、他の星との交流の為に王様の命令で作ったんだ。

地球が異星人に好意的な星ではないと解った以上、むやみに使う訳にはいかない。

お世話になった人達にお返ししたいと王様を説得してもせいぜい1回が限度だろう。」


いつもは余計なことを話さないジニアが、必要以上に多くのことを話している。

その事でジニア達が遠ざかっているように感じてかえってオレを寂しくさせる。


「そうだったんだ。」


オレはそれ以上は何も言えなかった。


 「あなたねぇ!夏休みだから実家に顔を見せるだけならそう言いなさいよ!」


 「あれれ?私そう言いませんでしたっけ!?」


 「もー、心配して損したじゃない!」


 「あわわ…すいませーんマコさーん!」


アニメはあっという間に終わってしまった。


何となくだが、いつもおおげさなほどリアクションするキドラも今は静かだ。


そのうちお別れになるかもしれないけど、

今は二人と離れたくない。

でも…


”お前は行くの?宇宙。”


”まさか宇宙人のほうからやってくるなんてね。”


凄いよ。

オレは兄貴やコウデラ氏みたいになれない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ジニアが宇宙船作りに没頭している間にオレとキドラはご飯を頂く。


「2人で食べてこいよ。」


きっとジニアはこのまま食べないだろう。


ここはJASROの社員食堂だ。

この時間帯は社員しかいないが、今、社員証を付けているオレ達は紛れ込める。


食べたのは緑のプレートに乗り、銀の皿によそわれた、ごく普通のカツカレー。

黒い器の味噌汁付きで、どこの社員食堂にも有りそうなメニューだ。


「君、新人かい?見ない顔だね。」


JASROの男性社員が気さくに話しかけてきた。

胸元の名札には”柏木”と書いてあった。


「はい、大学を卒業したばかりです。今年の4月に入りました。」


いつもなら、慌てて対応しそうなものだが、至って冷静に対応出来た。


「そうなんだ。仕事は楽しい?」


その男性はカレーを食べながら、雑談をする。


「はい。柏木さんは楽しいですか?」


「もちろん。宇宙を探査するという任務に携われる、限られた人間だよ?。楽しくないわけ無いだろう。」


”限られた人間”か。

キドラとジニアと一緒に、宇宙に行けるのは、地球上でオレ1人。


「…そうですね。」


「じゃ、仕事頑張れよ。応援してるぜ。」


柏木という男性は兄貴と同じ様に食べるのが異様に早かった。


地球上でオレ1人。

一生に一度のチャンス。

行ってみようか。


でもその前にやりたい事がある。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


格納庫に戻ってもジニアはまだ作業をしていた。


「なぁ、ジニア。」


「なんだ?」


ジニアは宇宙船を物凄い早さで作っている。


「オレも宇宙に行っていい?」


「いいぞ。」


ずっと宇宙船の方を向いていたジニアだったが手を止めて、キッチリこっちを向いてそう答えた。


「ミノルも来るの?やったー!」


「でも、その前にやりたい事があるんだ。」


やっぱり、ちゃんとここまでの話をしたい。


「母上と父上の事だろうか?」


ジニアはもう薄々と気が付いていたようだ。


「…うん。」


「俺達の事を話したいんだろ?」


ジニアは相変わらずこちらを見たままで会話を続けている。


「良いのかい?」


「ミノルなら問題は無い。」


もうオレはそこまでジニアに信用されていたらしい。


「ありがとう、連絡してみる。」


今、何処にいるんだろう。

この間はハワイとタイだったけど、移動している可能性は高い。

時刻は現在8時、あまり時差の無い国だといいんだけど。


オレは、まず母さんに電話を掛けた。


「ミノル?どうしたの?」


思ったよりもあっさりと母さんは電話に出た。

いつもは電話なんてしないオレが急に電話をして来たからか、やや心配した口調だ。


「いや、あのさ…。」


何て話したら良いんだろう。

”オレ、宇宙行くんだ。”

急に言える訳がない。


「ミノル。」


キドラがそんなオレに声を掛けてきた。


「がーんばれ!」


笑顔でガッツポーズをする。


よし。

オレは一呼吸置くと、今まであった事をありのままに話した。


ジニアとキドラが部屋に落ちてきた事。

ジニアが物凄い発明家で今は宇宙船を作っているという事。

そして、宇宙に行きたいと言う事を。


母さんはずっと黙って聞いていた。


喋り終わったあとも何も言わなかった。


その時間はとても長く感じられた。


「どの位掛かるの?」


暫しの沈黙の後、母親は一言だけそう言った。


「1週間くらいだけど…」


ジニアは5泊6日と言っていた。


「いつ出発?」


ジニア達は急いでいるようだし、完成したらすぐ出発するイメージだったけど、そういえば、はっきりと確認してはいない。


「ジニア、出発はいつ?」


「今の所制作は至って順調だ。このままなら明日の夕方位には完成しているだろうが、

この宇宙船で夕方に出発するのは危険だし、出発は次の日の朝だ。」


「明後日の朝だって。」


地球にいれるのは、あと丸一日か。


「今どこ?」


「種子島宇宙センター…。」


ありったけ吐き出したオレは特に考えることもなく、母さんに質問されるがまま、答えている。


「間に合うわね、今から行くわ。父さんには連絡しておくから。」


母さんはまだ父さんには連絡していないと察したらしい。


「え、うん。」


「ミノル、最後に聞くわ。その話、本当よね?」


母さんはやや怒った口調で聞く。


「もちろん。」


オレは電話口ながらも落ち着いてはっきりそう答えた。


「そう。じゃ、待っててね。」


それだけ言うと、母親は電話を切った。


しばらく呆然としていたが、真っ先にキドラが心配そうな顔で、


「ミノル、上手に出来た?」


と言った。


「うん、まぁ。」


来る、らしいけど。


「何だって?」


ジニアも話は聞いているらしい。


「母さん、ここに来るって。」


聞いたら、ジニアはどんな顔をするだろう。


「そうか。」


しかし、オレの予想に反してジニアはあっさりと受け入れた。


「やったー!ミノルママに会える!」


キドラはいつも通りだけど、ジニアにどんな心境の変化があったんだろうか。


「あれ、ジニア、嫌がらないの?」


「今の状況は全て話したのだろう?じゃぁ止める理由もない。オレはミノルを信じる。」


「そ、そう。」


あまりにも呆気なく事が進んだので何となく腑に落ちない。


「そろそろ風呂の時間では無いか?入ってきていいぞ。」


もうこんな時間か。

ジニアはもうオレの生活習慣を把握している。一週間も一緒だったんだから、当然か。


しかし、あれだけ疑り深かったジニアがどうして急に。

オレはもやもやしたものを抱えながらも、キドラと一緒に風呂に行った。

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