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星屑の魔法ときみの名前  作者: 星恋 hosiko


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星屑の魔法ときみの名前6

近い、と感じることが増えた。


 でもそれは、ただ距離が縮まったという意味じゃない。


 近さに慣れるほど、

 その“さらに先”を意識してしまう。


 触れるだけで終わらない関係が、

 少しずつ形を持ち始めていく。


 これは、星屑の魔法の中で、

 「もう戻れない距離」に気づいてしまったふたりの話。

あの日から。


レイナの「続きはまた今度」が、ずっと頭から離れない。


授業中も。


寮に戻る途中も。


星屑を見るたびに、思い出してしまう。


額に触れた熱。


絡んだ指。


近すぎた呼吸。


……そして。


『もっと近いかもね』


あの言葉。


 


「ユイ、聞いてる?」


「へ!?」


びくっと顔を上げる。


教室中の視線が集まっていた。


「あんた今日ぼーっとしすぎ」


「……ごめんなさい」


先生が呆れたようにため息をつく。


でも。


原因なんて、自分でもわかってる。


ちら、と窓際を見る。


そこには、頬杖をついたレイナ。


目が合った瞬間。


くすっと笑われた。


絶対わかってる。


全部。


 


放課後。


逃げるみたいに教室を出たのに。


「どこ行くの」


捕まった。


「っ……!」


壁際。


いつの間にか、レイナが立っている。


「なんで逃げるの」


「逃げてない!」


「じゃあ、なんで目合わせないの?」


図星だった。


「……だって」


「だって?」


距離が縮まる。


一歩。


また一歩。


「レイナが変なこと言うから」


「変なこと?」


「……“続き”とか」


言った瞬間、


レイナの目が細くなる。


楽しそうに。


「気にしてたんだ」


「そりゃするでしょ!」


「ふふ」


笑ってる。


完全に遊ばれてる。


悔しいのに、心臓がうるさい。


 


「じゃあ、する?」


「……え?」


「続き」


さらっと言う。


でも、その声は少し低い。


「い、今!?」


「今じゃだめ?」


だめって言える空気じゃない。


というか。


たぶん、言えても困る。


 


レイナが、そっと手を伸ばす。


今度は迷わない。


自然に、私の指を絡め取る。


「……手、冷たい」


「ユイが熱いの」


「そんなことない」


「ある」


断言。


しかも近い。


壁とレイナに挟まれて、逃げ場がない。


 


「ねえ」


「な、なに」


「この前、最後に何してたか覚えてる?」


「……額」


「そう」


レイナの指が、そっと頬に触れる。


熱い。


たぶん、一瞬でバレるくらい。


「じゃあ、その次は?」


息が止まりそうになる。


聞き方がずるい。


わざとだ。


絶対。


「……知らない」


「ほんとに?」


顔が近づく。


ゆっくり。


逃げる時間を与えるみたいに。


でも――


逃げたくない。


 


「ユイ」


「……なに」


「目、閉じて」


 


心臓が、跳ねる。


 


閉じたら、どうなるのか。


わかってる。


わかってるのに。


 


ゆっくり、目を閉じる。


 


静か。


聞こえるのは、自分の鼓動だけ。


 


そして。


 


柔らかいものが、


そっと額に触れた。


 


「……え?」


反射的に目を開ける。


そこには、すぐ近くで笑うレイナ。


 


「な、なんでまた額!?」


「キスだと思った?」


「っ〜〜〜!!」


顔が熱い。


絶対真っ赤。


レイナは肩を揺らして笑っている。


「かわいい」


「うるさい!」


「そんな顔するんだ」


「レイナのせいでしょ!」


 


悔しくて、勢いのままレイナの制服を掴む。


すると。


一瞬だけ。


レイナの笑顔が止まった。


 


「……ユイ」


声が変わる。


少し低くて、熱っぽい。


 


「そういう顔、危ないからやめて」


「え?」


「煽ってる自覚ないでしょ」


距離が、一気に縮まる。


さっきより近い。


本当に、あと少し。


 


「……今度こそ、止まれないかも」


 


空気が変わる。


冗談じゃない。


本気の声。


 


どくん、と心臓が跳ねる。


でも――


怖くない。


 


むしろ。


 


「……止まらなくても、いいよ」


 


気づけば、そう言っていた。


 


一瞬。


レイナの目が見開かれる。


 


その次の瞬間。


 


ぎゅっと、抱きしめられた。


 


「っ……!」


 


強い。


でも、優しい。


 


「……それ、反則」


肩に顔を埋めたまま、くぐもった声。


 


「レイナ?」


「……今の顔でそんなこと言われたら、無理」


 


耳まで熱くなる。


でも。


 


離れたくない。


 


そっと背中に手を回すと、


レイナが小さく息を呑んだ。


 


「……ユイ」


「なに」


「ほんとに、覚悟して」


 


囁き声。


近すぎる熱。


 


そして。


 


抱きしめられたまま、


星屑が静かに舞い上がる。


 


ふたりを囲むみたいに。


 


まるで、


この距離を祝福するみたいに。


 


もう。


手を繋ぐだけじゃ、足りなかった。

ここまで読んでくれてありがとう。


 今回の話は、「関係が言葉になる前の限界距離」を描いています。


 手を繋ぐのはもう普通で、

 抱きしめることすら特別じゃなくなりかけている。


 でも、その“慣れ”の中にある小さな揺れこそが、この物語の核心です。


 ユイはまだ自分の感情を「恋」としてはっきり認識できていません。

 ただ、「離れたくない」という気持ちだけが確実に育っている状態です。


 レイナはそれより少し先にいて、

 でもあえて一気に踏み込まず、距離を調整しながら近づいている。


 だからこのふたりは、進んでいるようで、同時に止まっている瞬間もある。


 今回の「抱きしめ」は、その停滞を一気に壊しかける危険な一歩でした。


 星屑はただの魔法ではなく、

 ふたりの感情に反応する“距離の可視化”のようになってきています。


 つまりこの関係はもう、外側の問題ではなく内側の問題です。


 次に何が起きるか。


 それはたぶん、「逃げられない自覚」が生まれる瞬間です。


 もう少しだけ、この距離の行方を見てもらえたら嬉しいです。

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