星屑の魔法ときみの名前23
恋人になったあと、
一番変わるのは“距離感”かもしれない。
触れることが自然になって。
名前を呼ぶだけで嬉しくなって。
嫉妬すら、
少し愛しく思えてしまう。
第23話は、
そんな“隠せなくなった恋”のお話です。
朝の登校。
周囲に広がる噂。
わかりやすすぎる嫉妬。
そして、
校舎裏で交わす甘いキス。
今までより少しだけ、
恋人としての空気が日常へ溶け込み始めた回になっています。
星屑みたいに溢れてしまうふたりの感情を、
楽しんでもらえたら嬉しいです!
翌朝。
私は人生で初めて、
“恋人の部屋から登校する”という状況に置かれていた。
……無理。
朝から心臓が死ぬ。
「ユイ、顔赤い」
「誰のせいだと思ってるの……!」
レイナは、
制服のリボンを整えながら楽しそうに笑っていた。
余裕そうに見えるのが悔しい。
でも。
よく見ると、
耳が少し赤い。
……ずるい。
「ほら」
レイナが、
自然に手を差し出してくる。
「行こ」
「……寮出た瞬間から繋ぐの?」
「嫌?」
「嫌じゃないけど!」
問題はそこじゃない。
絶対目立つ。
絶対噂になる。
でも。
差し出された手を、
結局断れなかった。
指が絡む。
あったかい。
それだけで、
昨夜のことを思い出してしまう。
「……っ」
「また思い出してる」
「うるさい……」
即バレする。
本当に敵わない。
寮を出る。
朝の光。
静かな廊下。
そして。
「……」
「……」
前方から来た女子生徒たちが、
二度見した。
終わった。
「え、え!?」
「ちょ、ほんとに付き合ってる!?」
「手繋いでる!!」
ざわつく空気。
無理。
穴があったら入りたい。
でも。
隣のレイナだけは、
平然としていた。
「見せつけてるみたい」
「事実だから問題ないでしょ」
「問題あるの私の心臓!」
くすっと笑われる。
悔しい。
そのまま歩いていると。
ふわっ、と。
星屑が私たちの周りへ集まり始めた。
「……また!?」
「最近ほんと素直ね」
「魔法まで煽ってくる!」
銀色の光が、
絡んだ指の周りで揺れる。
まるで、
私たちの感情に反応してるみたいに。
……いや、
実際そうなんだけど。
「ユイ先輩!」
突然、
後ろから声がした。
振り返ると、
この前の後輩だった。
「お、おはよう……」
「昨日レイナ先輩と一緒にいたの見ました!」
ぶふっ、と。
隣でレイナが吹き出した。
「れ、レイナ!?」
「ごめん、面白くて」
絶対楽しんでる。
「すごいです! ほんとに恋人なんですね!」
「そ、そうだけど……」
答えた瞬間。
ぎゅっ、と。
レイナが、
私の手を強く握った。
「……レイナ?」
「なんでもない」
嘘。
絶対なんかある。
後輩が去ったあと。
私はじっと隣を見る。
「……また嫉妬した?」
「してない」
「嘘」
「……少し」
素直。
最近ほんとわかりやすい。
「だってあの子、
ユイ見る目きらきらしてた」
「後輩だからでしょ」
「それでも嫌」
ぽつり。
小さい声。
でも、
ちゃんと本音だった。
胸の奥が、
きゅっと熱くなる。
「……レイナ」
「なに」
「こっち向いて」
言った瞬間。
レイナが、
少し驚いた顔をした。
珍しい。
「……?」
そのまま。
私は、
そっとレイナの頬へ触れた。
「ユイ」
「大丈夫だよ」
まっすぐ目を見る。
「私はレイナしか見てないから」
一瞬。
空気が止まる。
レイナの瞳が、
ゆっくり見開かれる。
「……それ、朝から言う?」
「え、だめだった?」
「だめ」
「えっ」
「理性なくなる」
危ない声。
次の瞬間。
ぐいっと腕を引かれた。
「わっ……!」
校舎裏。
誰もいない場所。
最近ここ来すぎな気がする。
「レイナ?」
「責任取って」
「何の!?」
「今の発言の」
近い。
近すぎる。
でも。
逃げたくない。
レイナが、
そっと私の頬を撫でる。
「……ほんと、ずるい」
「レイナにだけは言われたくない」
「うん、自覚ある」
即答。
悔しい。
そのまま、
静かに顔が近づく。
呼吸が重なる。
星屑が舞う。
「……キスしたい」
小さく囁かれる。
「……うん」
頷いた瞬間。
優しく唇が重なった。
朝なのに。
校舎裏なのに。
なのに全部、
どうでもよくなるくらい甘い。
「……好き」
唇が離れたあと。
レイナが、
額を寄せたまま呟く。
「好きすぎて困る」
その声が嬉しくて。
私は小さく笑った。
「私も困ってる」
「何が」
「レイナが毎日かわいい」
一瞬。
レイナが固まる。
「……ユイ」
「なに」
「ほんと最近、
無自覚で殺しに来る」
「そんなつもりないんだけど」
「余計だめ」
耳まで真っ赤なレイナ。
珍しい。
ちょっとかわいい。
星屑が降る。
朝の光に溶けるみたいに。
恋はもう、
隠せるものじゃなかった。
触れた指も。
重ねた唇も。
好きって気持ちも。
全部。
夜空みたいに、
眩しく光っていた。
第23話を読んでくださってありがとうございました。
今回はかなり、
“付き合った後の幸せな不器用さ”を意識して書きました。
特に今回のテーマは、
「隠せない」です。
最初の頃のふたりなら、
人前で手を繋ぐなんて絶対無理でした。
でも今は違う。
自然に手を伸ばして。
自然に指を絡めて。
そして、
周りに見られても離さない。
かなり大きな変化です。
もちろんユイは、
まだめちゃくちゃ照れてます。
でも、
もう“嫌だから隠したい”じゃない。
“恥ずかしいけど嬉しい”。
そこが大事なんです。
一方レイナは、
完全に独占欲が育ってます。
今回の後輩シーン、
かなりわかりやすかったですね。
本人は平静を装ってますが、
内心かなり揺れてます。
そして、
ユイの「私はレイナしか見てないから」。
これ。
レイナに対して効果抜群すぎました。
今まで散々ユイを振り回してきたレイナですが、
最近は逆にユイの無自覚な一言でダメージ受けまくってます。
かわいい。
あと今回、
個人的に好きなのは
「朝なのに。校舎裏なのに。なのに全部、どうでもよくなるくらい甘い。」
の部分です。
恋って、
時間とか場所とか、
そういう“普通”を簡単に壊してしまう。
本当なら恥ずかしいはずなのに。
見つかったら大変なはずなのに。
でも、
好きな人が近くにいるだけで、
全部どうでもよくなる瞬間がある。
今回は、
そんな“恋に溺れ始める感覚”を書きたかった回でした。
そして。
もうお気づきかもしれませんが、
ふたりの魔法は完全に感情と同期しています。
好きって言うたび。
触れるたび。
星屑が反応する。
つまり今のふたり、
恋をするだけで周囲に影響を与えてるんです。
かなり危険。
でも、
だからこそ綺麗。
この恋はもう、
ただの感情じゃなく、
夜空そのものを変え始めています。
次の夜は、
もっと近く。
もっと甘く。
そして、
もっと離れられなくなるかもしれません。
また星屑の下で、
ふたりの続きを見届けてもらえたら嬉しいです!




