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終焉剪定  作者: 鮫爆弾
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第一章 覚悟の目覚め

人は皆、自分が正しいと思い込む。何が正しい?何が間違い?それは誰にも決めることはできない。


運命は一つじゃない。無数に枝分かれし、些細なことで運命は動く。


だが人々は考えなかった。その中には勿論、最悪の未来が起きる可能性も含まれていることを……


ヨーロッパには、地図に載っていない国が存在する。ノルウェーとデンマークの間に位置する島国だ。


その国名は『ユグレイン』。天候の影響で、常に上空から島を確認することはできない。


しかし、ヨーロッパに住む人々には、知る人ぞ知る伝説がある。あの『北欧神話』に記されていない出来事や事実は、どこかに隠されている。


そう、ユグレイン国家は、この事実を誰にも見つからないこの島に隠しているのだ。

 

ユグレインの唯一の街がある『ユグドラシル断根域』のとある街角で、一人の青年がゴミ拾いをしていた。


道を行く人々は不思議そうな目で彼を横目で見ていたが、そんなのお構いなしだった。


「シットだぜ。この神聖な街にゴミを捨てるなんて、どうかしてるんじゃねえか?若人」


彼の名はエイル。エイル・ヴァルドだ。

学生時代は『清掃員』などというあだ名がつくほど、彼は正義感の強い少年だった。

喧嘩やいじめはもってのほか、悪ふざけをする者は誰もかも彼の屈強な腕に弾き飛ば

された。


ある晩、彼がゴミ処理場から帰路に着く途中、当然大気が静まり返った。

その不穏な空気を感じ取ったエイルは、大声で「伏せろ!」と叫んだ。


間に合わなかった。


突如として大きな揺れに大地は襲われ、ブロック塀やベンチなどが崩れ落ち、人々はパニックに陥った。

彼はそんな中でも至って冷静であり、人々を落ち着かせようと避難誘導していた。


その時、地割れで吹っ飛ばされた大型トラックが飛来してきた。それはエイルの真上から死神のように彼に迫った。そんなものを避ける間もなく、彼は頭上のトラックを目視し呆然とした。


確実に死んだ。俺は今日、ここでトラックに潰され死ぬのだ。

いざ死の間際に経つと時間は遅くなるというが、これは本当だった。

俺の背後には大型トラック、俺の周りには誰もいない。

人々を助けられてよかった。

悔いの無い人生だったぜ…


そう思うもつかの間、突如幻覚のようなものに襲われ、意識を失った。



目の前には、奈落の底へと崩れ落ちる大地があり、周りの人々は泣き叫び、逃げ回り、神に祈りを捧げていた。

中には諦めて奈落へと身を投げるものや、崩れゆく大地に足を救われ真っ逆さまに落ちてゆく者もいた。


これは一体なんなのだ…彼は目の前に起きている出来事に驚きではなく、激しい怒りや憤懣、悔恨に心を引き裂かれ、彼はひきつった顔で天を見上げ、唖然として声も出なかった。


 なんだ、この景色は…まるで "最悪" じゃないか…


その時、どこからか声が聞こえた。


「見ているのか、貴様。耐えることができたのか、この未来に」


「はい、見えていますけど…酷い有様だ。こんな事になるなんて…自分が情けない。どうにか出来たんじゃないかという後悔に襲わています、どうすれば良いのでしょうか?それに…未来だと?」


エイルは何者かと心で会話をしていた。以心伝心というやつだ。心と心が繋がっていた。


「これは未来だ。今貴様に起こりうる、最も最悪の未来だ。それをどうにかしたいと思ったのか…相応しい。貴様はワシの能力を継承する者に適している。この能力を使って、この世界の終わりを決めるのだ。

貴様が、この世界の終焉ラグナロクを変えることができる」


そう言われた次の瞬間、突然視界が狭まり、彼の意識は現実へと引き戻されていった…。



目が覚めると、頭上にトラックは居なかった。

「…!死んでいない?一体今どうなっ…なっ、なんだこの血は?どこから来ている!」


その時、彼は右目を触った。ここだ、ここから血が来ている。

そして先程から視界が狭い…まさか失明?

そんなはずない…何がどうなろうと失明などするはずがない!


突然、悲鳴が聞こえた。

「こ、このひと右目を失っている!」


そう、エイルの右目は既に失われていた。

声の主の能力とやらを継承する代償として、右目が奪われたのだった。


「半強制的に継承させられたのに…てか、トラックは?」

その時、目に衝撃的なものが飛び込んできた。


数十メートル離れた地点の路上に、先程のトラックが酷い外傷を受けて横転していた。しかもその横っ面には、鋭い槍が突き刺さっていた。


「な、何が起きたんだ…今…」


またもやその時、トラックの上に一頭の動物が飛び乗った。

「は、八本足の馬だと!馬鹿な、これは夢だ!」

一人の少年が口を開いた。


「僕、知ってる。この馬と槍、北欧神話に出てきたよ。それでこのお兄さん、オーディンっていう、この神話の最高神である全能の神だ」


少年が抱えている1冊の本の挿絵を見た途端、エイルは絶句した。

この金髪や潰れた右目など、向かいの店の窓ガラスに映る自分の姿とこの老人は酷似していたのだ。

老いぼれた姿にはなっていないが。


その時、彼の脳裏に突如風景が浮かんだ。

怪しげに光る、巨大な木の根だ。

「ユグドラシル断根域!ここじゃないか!すぐ側に似たような巨大樹の根があるぞ!」


そう、この地球には巨大樹という、巨大な木ではないが、未来・現在・過去を管理する構造そのものが存在する!

そしてこの大地震やエイルがオーディンとやらの能力(?)を発現したのも、全てこの巨大樹による影響だったのだ。


脳裏に浮かんだ場所へたどり着いたエイルは、驚愕した。

なんと、あの挿絵で見たオーディン本人がそこには立っていた。巨大な根の上へ堂々と立つ姿は、神そのものだった。

「よく来た、青年。すっかりワシと同じ姿じゃあないか」

微笑んだもつかの間、彼は淡々と説明を始めた。


「この世界は、未来・現在・過去を管理する構造そのものである巨大樹と呼ばれるもので成り立っているんだ。勘違いするな、木ではない。概念だ。未来はひとつでは無い。まだ決まってはいないのだ。その未来は、ほんの些細な出来事や行動で変わる。今君がワシをオーディンと信じるか信じないかの判断でも変わる。未来は無数に枝分かれしているのだ。木のようにな。その中には、勿論だが最悪の未来というものも存在する。君がトラックに衝突しそうになる前に見た、あの幻覚だ。あれが、君に訪れる可能性のある最悪の未来だ。北欧神話の考えだが、この世界は終焉を必ず迎える。その後また世界は作り直され、また、終焉を迎える。現在に至るまで、何度も終焉を迎えてきた。君は、あの最悪の未来を迎えたいか?」


「そんなの絶対に嫌だ!」

興奮気味に答えたエイルは、我に返り少し静かになった。


「ならば、君が今持っているワシの能力『未来を見ることができる力』を使って、終焉を剪定しろ」

突然の訳がわからない指令に、エイルは口をぽかんと開いた。


「言い方が悪かったな。さっき、この世界は必ず終焉を迎える、と言った。そしてまた、未来は一つではなく、無数に分岐している、とも言った。つまり、何が言いたいか分かるか?」


「その…つまり、能力を使って無数に分岐する未来の中から最悪の未来を削り取れ、ということ?」


「恐ろしいほど察しがいいな。そういう事だ。今から君には、最悪の未来を剪定…つまり削り取ってもらう。よりマシな終焉を迎えたいとは思わんか?…あ、言い忘れてたが、この能力は万能ではない。何度も使うと、存在を消耗して、いずれは自分が滅んでしまう。そして、何でも未来を見れるわけではない。限られているんだ。それでもできるか?」


「情報量が多すぎましたけど、理解できました。俺には滅んででも、あの未来を絶対に消し去る覚悟があります。貴方に出会えたお陰で波乱万丈な人生になってしまいましたよ」


「早速未来を見たのか?素晴らしい。よし、その地へ行って剪定をして来い。ちなみに、このワシは幻だ。お前なんぞの前にノコノコと現れる訳が無いだろう?」


そう言い残し、オーディンは風になるように消えた。


「最後の一言が余計だぜ、オーディン」


彼は先程のトラック現場に行き、立ち入り禁止ロープをくぐってトラックに近づいた。


「な、何をしている!ここは立ち入り禁止だ!」

警察が彼の侵入に気づくも、お構い無しに彼は突き進んでいった。


 槍を引き抜き、観衆に取り囲まれている八本足の馬に跨ると、槍を高く掲げて

「シット!…だが俺は終焉を剪定して、未来を決めてやる。


  Ek vel (エック・ヴェル)

      …決定権はこの俺だ!」

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