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第8話 子を心配する母

 暑い山道。観光用に整備されたアスファルトは、空から受けた熱をもってその上の光景を漂わせる。視界が揺らめくものだから、俺は一瞬、熱さにやれたのかと思った。

 俺が登る道の先で、人影が揺らめいていた。近づいていけば、それはスカートを履いた女性だった。その女性はこの暑さをものともしないような、嘘みたいに綺麗な笑顔を貼り付けていた。


 彼女は右手を頬に置きながら、俺を見ると知り合いでも見かけたような表情を浮かべて近寄って来た。


「あの、うちの子を知らないでしょうか」

 何かと思えば、彼女の子どものことについて聞かれた。

 知るわけがない。こんな展望台に迷子センターがあるかは分からないけれど、取り敢えずはそちらの方を勧めておこう。

「えっと、すみません。俺には分からないので、そこのお店の人にでも」

「困ったわ、あなたの彼女さんと楽しそうに遊んでいたのだけれど」

 はぁ、と困惑混じりの声が出る。この人は一体、何を言っているのだろうか。

「すみません、俺に彼女はいないです」

「いいえ、あれは確かに貴方の彼女さんだったわ。ほら、ショーが終わった後、私の子どもと遊んでいたじゃない」

 ショーが終わって子どもと遊んでいた俺の彼女。まあ、考えなくとも赤堂さんのことを言っているのだろう。

「あー。彼女は友達ですよ」

「あら。そうだったの。それにしては、やけに親しげだったわね」

「そうですか?そうでもないと思うんですが」

 ぞくりと悪寒がした。嫌な視線、いや、敵意を向けられたような感覚。そんな筈はないと目の前の女の顔を見るも、そこには子どもを心配する母親の顔しかない。その顔は少しだけ面倒そうな面に変わり、気のせいか、脱力したように見えた。

「まあ、間柄なんてどうでもいいわ。それよりも私の子よ。その子、どこにいるの?」

「それが、俺も他の人と立ち話をしてしまっていまして、知らないんですよね」

「他の人?」

 女の人が、じっと黙って俺を見つめた。強迫感を覚える、探る目。俺はその目を見て確信する。先程感じたものも、きっと気のせいではない。この女、どこかおかしい。直感的に、そう感じた。

「ええ。今日あったヒーローショーに、うちの生徒会も絡んでいたようで。同じ学校の知り合いに出くわしていたんです。だから、申し訳ないですが」

「あなた、河原山高校の生徒なの?」

「いえ、大然高校の方です」

「……。そ。それなら、早く貴方の彼女に電話をしなさいな。連絡先、知っているのでしょう?」

 彼女じゃないって言ったはずだが。

「申し訳ないですが、」電話番号を知らないもので

 そう断って、適当にこの場を離れようとした矢先、スマホの着信が鳴ってしまう。

 相手は赤堂さんだ。

 目の前の女が俺のスマホを覗き込む。

「出て、いいわよ」

 俺は諦め混じりでその電話を取った。

「あ、尾緒神?私に用ってなんだ?」

 電話越しに聞こえた声に、おかしなことを言う奴だと思った。そっちから電話をかけて来たのに、要件はなんだと聞いてくるのだから。

「用はなんだと言われても、電話を掛けて来たのはそっちだろ」

「そうだけど。お前、橘に伝言を頼んだんじゃないのか」

「橘さんに?なんで?」

 女が微かに反応した気がした。

「いや、今丁度橘に会ってな、尾緒神くんが電話をして欲しいって言ってたよって教えてくれて」

 そんなこと、言った覚えはない。あいつ、まさか分かっていてこのタイミングで電話を掛けさせたんじゃないだろうな。いや、ただの偶然か。

「橘が言うにはな。尾緒神くん、また巻き込まれているよ。だってさ」

 それは、生徒会長に絡まれていたことを指しているのだろうか。それとも

「橘は、近くにいるのか?」

「え?ああ、勿論だ。あ、あれ」

「どうかしたのか」


「いなくなってる」


 奇妙な悪寒がした。

 本能が感じたままに振り返ると、俺に話し掛けていた母親もまた、いなくなっているのだ。


 頭が混乱する。

「おい」

 肩を掴まれて心臓が跳ねるような思いをした。

「あ?そんなに驚かなくてもいいじゃねぇか」

 振り向けば、髭面の男が立っていた。俺が警戒する様子を見せると、男は面倒臭そうに肩を落した。そしてポケットから手帳のようなものを取り出すと、それを俺に向けて開いて見せる。

「安心しろ。こう見えて、俺は警察だ」

 差し出された警察手帳をよく見てみる。確かにそれは、本物の警察手帳だった。昔、中学時代に何度か見ることになった警察手帳。それが本物かどうかを見分ける知識を、また使うことになるとは思わなかった。

「ごめん、赤堂さん。お(まわ)りさんが俺に用事があるみたいだから、電話切るな」

「え。お巡りさんって、警察か?何で」

 赤堂さんの疑問を最後まで聞くことなく、俺は電話を切る。

 警察がいるのなら話が早い。そう思ったが、よく考えてみれば、俺がただもやもやしているだけのことを、上手く人に伝えられる訳がなかった。

 かといって、國火下に命を狙われていることを伝え、保護して貰うことも、なんだか違う気がした。俺が何もしない、何も出来ないようになる選択肢を取ることは、沢山の人が死ぬ方の選択になりかねないからである。

 ああ、くそ。やっぱり、橘さんの妄言が俺の行動を縛っている。あれを無視出来ない俺が居てしまっている。

 とにかく、今の状況も踏まえて、ころころと何かが起きすぎている。


「警察が、俺に何の用ですか」

 警察を、無下にすることなんて出来ない。

「ちょっとさっきの不審者(お姉さん)の話をしたくてね。それと、お前のお友達についても」

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