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第6話 炭酸を飲みながら

 何かを解すように、炭酸がシュワシュワと泡立ちながら喉を通っていく。いつもなら楽しむことが出来るその感触も、今日ばかりはもやもやとした感情が重なってあまり楽しめずにいた。俺は、この現状に何か引っかかりを覚えている。

 ここも、何かの分岐点のような気がしてならないでいた。


「何か言いたそうな顔をしているな、尾緒神」

「シュワシュワで、もやもや?」

「ふっ。なんだそれは」

 思ったことを適当に言えば、会長は軽く笑ってくれた。

「私も、変だとは思っていた」

「変って、何がですか」

「この企画だよ。話を持ちかけられた時、どうしようもない違和感があった。でも断ることは出来なかったんだ。丁度、あいつをなくした時でな。私は私で、頭を空っぽにしながら何かに没頭していたかった」

「結構長いのですか、この企画」

「それはもう、な。色んなところに許可を貰わないといけなかったし、IPをお借りする以上は適当なことは出来なかった。資料作りとか、特典イラストの発注とか、結構大変なこともあったよ。まあ無事に成功させられた今となってはいい思い出だけどな」

 瓶を持った方の手の小指を立てながら、会長はそんなことを教えてくれる。

「それは、良かったじゃないですか」

「ああ。大成功してよかったよ。お前にも、面白いと言ってもらえたしな」

 ただ、と会長は続ける。

「この企画の根幹には、弔いがあるんだ」

「……。弔い?」

 どうしてか、急にきな臭い話が持ち出されて来た。

「向こうの生徒会長の幼馴染みがな、3年前に亡くなっているんだ」

 彼女が幼馴染みと、生前に約束していたものが、このイベントらしい。来年になったらまたみんなで、そんな約束をしていたそうだ。だが、その機会は訪れなかった訳で。

 だからこそ、3年前のヒーローショーを、この場所で自分の力で再演させたかったのだとか。

 天国へといってしまった幼馴染みへの花向けとして、どうしても今回の企画をやりたいのだと、そう伝えられたことを、会長は俺に教えてくれた。


「これは、いい話のはずなんだ。だからな、尾緒神。私は、この企画を幸せな思い出として終わらせたい。この後にここで何か起きてしまうなんて、そんなことは嫌なんだ」

 そうして会長は、こんなことを俺に言うのか。まるで、この後に何か起きるとでも言うように。

「だから教えてくれ、放課後の屋上少女に、お前が何を言われたのか」

 俺は小さく息を吐いた。

「会長が心配なさるような話しはしていませんよ。ただ、妄言を聞かされただけです」

「妄言?」

「人間の体からの解放とか、そういった類いの危ない妄言です」

「……。」

 会長は、沈黙を置いた。

「嘘だな」

「嘘じゃないですよ」

「……。そうか、嘘じゃ、ないんだな」

「はい。全く、変な話を聞かされましたよ」

「……。祐策(ゆうさく)も、そうだった。お前も、嘘は付いていない。嘘は、な」

「会長の言っていた、いなくなった人の話ですか」

 その質問が、無神経である自覚はあった。会長は黙り込んでしまう。会長が俺と重ねていた誰かは、その祐策という人物なのだろう。

「どうしてお前達は、いつも微妙に焦点をずらすんだ」

 危ういと思ったからだ。橘さんの言葉は、信頼性のないものだ。それを、今の会長が聞いて真に受けてしまうとどうなることか。空回りをして、良い思い出を駄目にしてしまうことだってあり得なくもない。

 会長なら大丈夫と思えるほど、俺はまだ彼女のことを知らない。


「尾緒神。1つだけ、言ってもいいか?」

「なんですか」

「お前には、たしかにあいつに似ているところがある。でも、全く同じではないんだ」

「それはそうでしょう。俺と、会長の思い浮かべる誰かは、別人ですから」

「そうだな。それを聞けて、良かったと思う」

 会長の目には、俺ではない誰かの影が映し出されている。


 やっぱり彼女は何かを知っている。ここで、何かをしようとしている。

 だが、それが橘さんの言う殺人だとは思わない。

 であれば、彼女の目的は何か。

 単純に考えれば、犯人への復讐であろう。

 であるならば、ここで起きることは、会長が抱えている事件に関係のあることなのだろうか。


 だったら今こそが出番だぞ、副会長。なんて、俺は思った。

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