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第4話 電波系の友達(仮)

電波系ヒロインを書いてみたかったのですが、書くの難しい、、

 夏は暑い。

 そんな当たり前のことを思いながら、俺は日陰のベンチでアイスキャンディーを舐めていた。赤堂さんはというと、ショーが終わってからはその場にいた何人かの子ども達と一緒にヒーローごっこをして遊んでいた。

 俺はそれを見ながら、元気だなぁと思う。ショーが終わり、赤堂さんとヒーローとの3人での写真撮影が終わった後、俺は思い出したかのように疲れがどっと出て来てしまっていた。ここ1週間の疲れがまだ抜けきっていないのだと思われる。

 流石にこのまま遊びに参加するのは難しいと、赤堂さんに断りをいれてここで休んでいる訳だ。流石の赤堂さんも、しんどそうな俺を遊びに巻き込むようなことはしなかった。

 そうして俺は、暫くの間ここで呆然と赤堂さん達を眺めていた。


「偶然、ね」

 そんな最中、背後から掛けられた声に背中がぞっとした。夏の暑さには丁度良い涼み芝居でも観たような気分にさせられる。

 声は女のもので、静かで落ち着いたものだった。俺は振り返り、その顔を確認する。


「橘さん」

 そいつは、うちの学校では“放課後の屋上少女”なんて呼ばれる人間であった。いつも放課後の屋上で黄昏れていて、声を掛ければ変な探し物の話をされる。そんな、一種の怪談みたいな噂話が出回ってしまっている少女だ。

 その噂は本当だった訳だが、何故そんなことをしているのかは今も謎だ。俺と赤堂さんもそれに一度挑戦はしたが、何も分からなかった。


 そんな彼女が俺に話し掛けて来たのは、まあ一応は友達だからだろう。どういう訳か、俺は濡れ衣を着せられた件の後に、篠崎先生から彼女を押し付けられた。いや、それは言い方に悪意があるか。正確には紹介された、だ。

 理由を知りたくはないが、何故か彼女は俺と友達になりたがっているらしい。


 そんな、友達(仮)みたいな状況であるから、俺は気まずさを感じていた。


「意外だな、橘さんがヒーローショーに興味があるなんて思わなかったよ」

「ヒーローに、興味はあったの」

 そうなのかと思う。他人の趣味にとやかくいうつもりはないから口にはしないが、やっぱり意外だ。

「隣、いい?」

 橘さんは、俺の隣を見る。本音を言ってしまえば気まずいから嫌だ。だが、そういう訳にもいかず、俺は素直に許可を出す。

 橘さんは俺の隣に座ると、一緒になってヒーローごっこをして楽しそうに遊ぶ赤堂さんの方を見る。

「一緒に遊ばなくて、よかった、の?」

「暑さで疲れててな、熱中症にやられる前に休ませて貰っている」

「そ。それはよかった」

 よかった?それは一体、どういう意味なのだろうか。俺には、それは(都合が)よかった。に聞こえてしまう。まったくもって、彼女を警戒し過ぎだ。

 それから暫く、橘さんは何も言わなかった。俺は気まずく思ってはいたが、だからといって何か持ち出す話題がある訳でもなく、ただ一緒になって目の前の風景を眺めていた。このアイスを食べきったら、ゴミ箱にゴミを捨てに行くと言ってこの場を立ち去ろうと、その決意だけをして。


 そんな無言の空間を過ごしながら、もしかしたらこれから、こういったことが増えるのかもしれないな。なんてことを考えていた。

 今はまだそうではないが、この先、本当に橘さんと友達になった時、その時もこうして、赤堂さんのやることを2人で眺めているんじゃないか、なんて。そんなことだ。

 橘さんが赤堂さんのように無邪気にはしゃぎ回るようなところは想像出来ないし、なるならそういう未来だろう。


 そんな適当なことを考えて、食べたアイスが半分を切った時、橘さんは唐突に口を開いた。


「ねぇ、尾緒神くん。何かおかしいとは、思わないの」

「そりゃお前、思ってはいるよ。まさか、放課後の屋上少女とこうして休日を共にすることになるなんてな」

「そうじゃないの」

 そうじゃない?そうじゃないって何だ。他に、何かおかしなところなんてあっただろうか。


「もっと、状況をよく見て?」

 状況?そんなことを言われても、目の前では無邪気には遊ぶ赤堂さん達と、それを見守る親達の姿。一個、気になることがあるとすれば。


「あそこにいる小汚いおっさんには違和感があるな。見たところ、子連れって訳でも無さそうだし、何かを探っているような目線が気にはなる」

 無精髭でやつれたおっさんは見た目だけで言えば完全に不審者である。だが、だから何だとも思っている。ただ単に展望台からの景色が目的で訪れた方かもしれないだろう。ここに来る人が、ヒーローショー目的の人だけとは限らないのだから。

「そうね。でも違う」

 俺の答えは否定される。だが、正直俺にはもうそれ以外におかしいと思うようなことはなかった。


「そう、分からないのね」

 呟いて、ものはずれな顔をした彼女を見て、少しだけ思案する。もしかして、何か試されていたのだろうか。期待に応えられなくて申し訳ないと思うも、どうしようもない。

 俺が舐めているアイスは、残り4分の1を切っていた。どうせ暇だからと、少しだけ真剣に考えてみることにする。見て分かるものを口にするのではなく、だ。


 今日起きている変なこと。朝起きてから赤堂さんに会うまでのことは、橘さんの知るところではない。となれば、その間のことは違うだろう。ここで起きている特別なことと言えば、ヒーローショーくらいなものだが。


「もしかして、3()()()に放映されたヒーローのヒーローショーをここでしていることを言っているのか」

 そう口にしてみれば、橘さんは少しだけ頬を緩めた。つまりは

「当たり」

 彼女は、嬉しそうに微笑む。


 ヒーロー仮面のシリーズは、1年に1回世代交代をする人気シリーズである。その物語は、秋に始まって、夏に終わる。そして次のヒーローの物語へと意志が引き継がれていくのだ。

 赤堂さんが学校に持ち込んでいる“漢のホビー魂”という雑誌の告知欄によく載っている情報ではあるのだが、確かに各地で行われているヒーローショーは、基本的には今の代、つまりは今放映されているヒーローのものが行われている。

 夏と秋、世代後退の時期には新旧ヒーローが入り交じることもあるが、それも基本的にはその時期に交代するヒーローだけであり、直接関係の無いヒーローは登場しない。


 だが、ここで行われたヒーローショーは3()()()に放映されたヒーローのものであり、今代のヒーローは全く登場しなかった。

 橘さんは、それをおかしいと表現した訳だ。


「俺はそこまで詳しい訳じゃないが、3年前のヒーローのヒーローショーはそこまでおかしなことなのか」

「普通は、今のヒーローのヒーローショーが行われるのが一般的なの。その方が販促効果も見込めるから」

「物販コーナーならあるぞ」

「でも、変身アイテムとか、お菓子とか、人形とか。今おもちゃ屋さんやスーパーで売っている商品とは関係がないでしょ」

 それは、そうだ。今売っている商品は、やっぱり今代のヒーローがメインである。7月である今、映画の公開や物語の結末に向けて怒濤の商品展開が行われているのは事実だろう。そんな時に、わざわざ3年も前のヒーローのヒーローショーを行う理由はない。

 そう考えてみれば、たしかにここで、3年も前のヒーローのショーをしているのはおかしなことなのかもしれない。

 いや

「ガゲン仮面は、特に人気のシリーズだったんじゃないか」

「そうかもしれない。でもだとしたら、こんな田舎の、こんな場所じゃなくて、ちゃんとコアなファンに向けて、特別なステージで、特別なヒーローショーを行うと思うものなの」

 それは、そうかもしれない。そうした方が記念グッズももっと売れるだろうし、特別なヒーローショー用のチケットも売れるだろう。というか、なんかこいつ妙に詳しくないか。

 でもそうか、3年も前のヒーローの宣伝をする理由がないから、無料観覧のヒーローショーを行う理由はないのか。


「ねぇ、尾緒神くん。どうして、3年も前のヒーローのショーが行われたと、思う?」

「知らん」

「気には、ならない?」

「ならない。まあ、強いて言えば予算とかそういうのじゃないか?このイベントは、生徒会主催の、あくまでも学生行事みたいだし」

 適当に返事をする俺に、橘さんは薄気味の悪い笑みを返していた。

 アイスを食べきった俺は、それを理由にこの場を立ち去ろうと思った。このまま話を続けると、何だか面倒なことに巻き込まれてしまうような。そんな予感がしていた。


「でも、そうは言ってられないよ?」

 立ち上がろうとした俺の裾を、橘さんが掴む。俺は面倒に思いながら彼女の方を見る。


「だって、今日ここで。人が死んじゃうんだもの」

 蝉の声が煩く鳴り響く中、そんな突拍子もないことを言われた。

 見ると、彼女の瞳の中は、あの日のように黒く渦巻いていて。俺はそれに引き込まれていってしまいそうな錯覚をする。それを振り払うように、俺は馬鹿げた調子で否定の色を孕んだ一言を口にする。

 そんなこと、唐突に言われても信じられる訳がない。


「はぁ?」

 しかし、そんな抵抗は無視される。

「あなたは事件の目撃者になる。そして、引き返せなくなるの」

「なんでだよ」

「だって。それが、あなたの習性だから」

 何もかもを見透かしたような目が、俺を捉えて離さない。

 俺の中にいる醜い自分が、それに呼応して動き出しそうな、嫌な感覚。


「そうとは、限らないだろ」

「そう?でも、もし貴方がそうならなければ、沢山の人が死ぬ事になる」

「なんでそんなことが言えるんだよ。俺なんかが関わったところで、何かが変わる訳がない」

「中学の夏、沢山の人の夢を踏みにじった、貴方の言うことじゃない、ね」

「部活動の話か?それなら、俺がやらなくても、誰かがやっていた。どこかで誰かに負けていたさ」

「優勝した人間が、言うことじゃない、ね。誰にも負けなかった称号は、その年に1人しか与えられないよ」

「……。そんなに沢山は優勝してないさ。そんな簡単なことじゃ、ないんだよ」

 橘は、意地悪な笑顔を浮かべている。

「それに、人の生き死にと、部活とではやっぱり違う」

「そんなことないよ。だって貴方はあの島で、死に打ち勝ったんだもの」

 俺は目を見開いた。

「お前、何を、どこまで知っている」

 彼女は俺の疑問に、薄い笑みだけを返した。


 悪い感情が混み上がってくる。俺はそれを押さえ込む為に自らの胸を押さえ付けた。

「くそ。で、誰がここで死ぬっていうんだよ」

「知らない」

「は?」

「そこまでは、私も知らないの」

 何だこいつ。

「じゃあ、一体どんな根拠があって、今日ここで人が死ぬ。なんてことを言ったんだ」

「それはね?お兄ちゃんが、教えてくれたの」

「お兄ちゃん?」

「うん。お兄ちゃんは、何でも知っているの。何でも、教えてくれるの」

「じゃあ、お兄ちゃんに誰が死ぬのか聞いてくれ」

「それは、出来ないの」

「は?なんでだよ」

「お兄ちゃんの言葉は、一方的にしか受け取れないの」

 一体コイツは、何を言っているんだろうか。

「そんな筈ないだろ」

「そんな筈あるの。だって、お兄ちゃんには」

 ミーン。ミーン。と、蝉の声が頭にまで入って来そうだった。夏の暑さが滲んで、世界が歪んでしまうような、そんな気がしてしまう。


「実体が、ないもの」

 橘さんが軽く微笑む。

 その言葉がどんな意味を孕んでいるのか、俺は考えようとも思わなかった。考えてしまえば、彼女の世界に引き摺り込まれてしまう。そんな気がした。

 彼女の目は完全に正気を失っていて。俺を摘まんだ服の裾から冷気を感じてしまうような、そんな違和感が襲ってくる。


「何を、言って」

「お兄ちゃんは、人間の体から解放されたの」

 ズキリと頭が痛んだ。記憶の奥底に沈めた、嫌な記憶が蘇って来る。

「尾緒神も、知っているでしょ?」

 そう言って、橘は自分の腕に、体に目をやった。

「こんなものに、意味はない。こんなものに捕らわれているから、こんな世界(かたち)の箱に居る事になるんだよ」

 頭の中で、同じ様なことを言っていた誰かがいた。トモダチ、だった、誰か

 そいつは輪っかの前で、体を捨てる前に、俺にこういったのだ。


 尾緒神も一緒に行こうよ。きっと、キミも気に入ると思うよ


 頭を抑えていた。トモダチじゃないあいつの笑い声と、誰とも知らない少女の笑い声が頭の中で共振する。

 そのうちに、ぷつんと、何かが切り替わるような音がして。

 そして俺は、平常に戻るのだ。


「だったら。橘は、どうしてまだそれを捨てないんだ?」

「私にはまだ、ここでやらないといけないことがあるの」

「そうか。で、それに俺を巻き込みたいと」

 橘は、それには答えなかった。それが一層不気味だった。


「ここで人が死ぬのなら、警察にでも相談すればいいんじゃないか」

「もう、相談した」

 警察には相談済みなら、俺がやるべきところは……。

「でも、信じて貰えなかった」

「そうか」

「証拠がないの。ただ、お兄ちゃんがそう言っているだけ。そんなこと、警察は信じてくれない。ただの妄想だって、撥ね除けちゃうの」

 証拠はない。根拠は、お兄ちゃんがそう言ったから。それでは確かに、警察は動いてくれそうにない。

「それにね、私は常習犯だから尚更なの」

 そうして橘さんは、あの小汚いおじさんを指差す。

「あの人は、唯一私の言葉を信じてくれる警察官。でも使えない人。何の役にも立てないかわいそうな人なの。だから、窓際刑事になっちゃった」

 そんな妄想かもしれない言葉を、俺は軽く聞き流す。

「事件が起きるかもしれないという手掛かりは、何もない訳だ。だったら、悪いが俺もその言葉を信じることは出来ない」

 根拠がないのなら、その話はどうしたって妄想の域を出ない。こいつの妄言に付き合って無駄に必死こくようなことを、俺はしない。

「信じて、くれないの?」

「残念だが、俺はまだそっち側じゃない」

「……。そう。でもいいの。だって、ただ後になるか先になるかだけの違いだもの」

 橘さんは、柔らかな笑みを浮かべる。

 瞳の黒い渦が、どうしてか信憑性の欠片もない彼女の意見を、まるで真実味のあることのように思わせてくる。本当にそうだったらと、俺を不安にさせる。


「ねぇ、尾緒神くんはこのこと、知らなかったの?」

「知らなかったし、知ろうとも思わない」

「ふふ。そう。お兄ちゃん、尾緒神くんには言わなかったんだ」

「悪いが、俺にはお前のお兄ちゃんみたいな、実体のない人間の言葉を受け取るような機能はない」

「ふふ、嘘」

 彼女は、俺をじっと見つめた。


「だって、尾緒神くんは、お兄ちゃんの言葉を受け取ったことがある、でしょ?」

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