↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

付録 第10.5話(裏) キイロのセカイは偽って

おまけ話です。

輝かしい、あの日々の中にいた。

あの奇跡の様な泣き声から、この景色は始まる。


――薄暗い場所だった。

――泣き声には、煩いと思った。


黄色い産声。黄色い世界。

私と旦那がいて、私の胸中には小さな命があった。


――世界が白黒になっているように見えた。

――あの人はいない。代わりに、床にナニかがいる。


私達は彼に、光太と名付けた。

光太はわたしたちの愛に応えるように、すくすくと育っていった。

ヒーローに憧れる、可愛らしい子だった。

それは、とても素晴らしい、私の人生だった。


――私はそ(・)れ(・)に、彼の名前を付けた。

――1人になった私に、唯一残ったものだった。

――唯一、私が八つ当たりをしても赦されるモノだった。


ポツリと、私の頬に冷たい何かが落ちて来た。

視界を遮るノイズの先で、知らない少年が涙を流していた。

彼はなんとも言葉にしがたい顔をして、私に一言。


「ごめん」

と

呟いた


 一度、同じ様な光景を見たことがある。


――光太は、ヒーローに憧れていた。

――光太が倒したい悪の中に、私がいた。

――どうしてそう育ったのかは分からない。あの子の目が怖かった。


ざらざらと視界に砂塵が舞い散る。黄色い世界が、掠れて見えなくなっていく。

もういつかも忘れ去った日。

暗い夜。暗い家で、私の子は壊れていた。


「お母さんは、どうして僕を馬鹿にするの」

「煩い!その顔を見せないで!!」

「駄目なんかじゃないんだ。僕達にはもう、これしかない。これしか、ないんだ。お姉ちゃんだって、力で不良達を改心させてた。僕だって、僕の力で、お母さんを変えられる筈だ」

「あなたの力って何?あなたが、何も変えられる訳ないじゃない。いい?人間ってのはね!!」

「もういいよ。話し合いなんて、無理だよ。僕は、誰にも理解されない。多数決には勝てない、友達にも、先生にも、お母さんにも信じて貰えない。だから、こうするしかなかったんだ」

「はっ!分かってるじゃない!人生なんてそんなもんよ!特に、私達みたいな人間にはねぇ!」

「お母さんは、可哀想だね」

「は?」

「僕にはね、僕のことを理解してくれる人がいるんだよ」

「そんなこと」

「僕には分かるよ。お母さんも、寂しかったんだね」


私は親として、息子が違う道を歩いてしまうことが怖かった。私から離れていくような気がするのが嫌で、必死だった。


ポツリと、私の頬に冷たい何かが落ちて来た。

視界を遮るノイズの先で、私の子供が涙を流していた。

彼はなんとも言葉にしがたい顔をして、私に一言。


「ごめん」

と

呟いた

先程まで、嬉嬉迫る表情で私を馬乗りにして殴っていた、あの息子が。

私は、意識を失った。


目が覚めれば、許しを請わなければいけないと思った。

だが、そんな日は来なかった。


気が付けば、灰色の部屋に居た。


許しを求めた私に与えられたのは、息子の無惨な死体だった。

息子は十字架になっていた。

三本の糸で吊されていた。

腰から下が失われていた。

体には無数の暴行の後が残っていた。

首が真っ直ぐ立つように紐に絡めてねじ曲げられていた。

手首は……。

吐き出しそうな気持ちになった。これ以上は思い出せない。

記憶の想起に歯止めが掛かる。


結局、息子は私のところからいなくなった。


全てを洗い流すかのような、川の流れの音が聞こえている。

家から徐々に無くなっていった息子のヒーロー玩具が、その場所には沢山残されていた。


それが、最愛の息子の最後であった。

警察はその死は自殺だと言っていた。


でも私は知っている。その死は自殺なんかじゃない。

きっと、いじめである。私が虐待する時、私以外の人から付けられた傷があったことを、私は知っている。それが、昔自分が付けられた傷にもよく似ていて、掻き消すように上書きしていた。


学校は、本校でいじめはないと断言したらしい。

寧ろ、おかしくなった光太に迷惑していたと、そう言ったらしい。


息子はやっぱり、弱い境遇にいた。私の血筋らしいことである。



あるメールが届いた。

そのメールは、3年後の日付から送られた、不思議なメールだった。

宛名は、Shiori

件名は、真実


メール本分

お兄ちゃんが、光太くんの死の真相を見つけました。


添付された動画には、私の息子がいじめっ子達に殺される様子が映し出されていた。

彼らと戦い、自分の正当性を伝えようとする様子から

動かなくなって、吊されて

正義の心が折られるまでの

その

仮定が


私に、恐怖を思い返させた。

あいつらに抗おうとすると、こうなるのだ。

知らなかった。息子がやられる動画が、こんなにも、自分がいじめられているように見えるだなんて


何かが、壊れるような音がした。


光太が涙を流し

諦めながら最後に呟いた

私への謝罪


その顔が、私の目の前にあった。

手を伸ばす

夢から醒める


抗わなきゃ。

このままじゃ駄目だ。

このままじゃ、おかしくなる。

私には、もう何もない。


伸ばした手が、誰かに掴まれる。

違う。

彼は、わつぁしの子じゃない。


違う。違う。


殺さなきゃ。

光太と私をいじめる奴を。


私の未来を


息子の未来を


守らなきゃ


一人ぼっちにはなりたくない!


「辛かったね。ごめんね」

何十年かぶりに、母にあった。

何十年かぶりに、母に抱き絞められた。


私はやっと、幸せな日々に帰れるような、気がして


 ずるいよ。お母さん。自分だけ、愛されて


光太が、夢の中で私を睨んでいた。


あの動画に映った子の1人が、私の直ぐ近くにいる。

正さなきゃ

正さなきゃ


違う。違う。違う。違う。

私は悪くない。

私も、貴方を愛していた。


証明しなきゃ。

あの悪魔を殺して。

私が貴方を愛していたことを、証明しなきゃ。


貴方の間違いを、タダサナキャ


……。


目を、見開いた。

蛍の光が舞う中で、私の息子が目の前にいた。

大きくなった彼は、ヒーロースーツを着ていた。

今はその仮面を外して、私に顔を見せてくれていた。

息子の夢が叶ったのかもしれないと思って嬉しくなる。


「どうして、俺を庇った」

 違う。彼は、私の息子じゃない。

 それでも、良く似ている。

 こうして、見間違えてしまうほどに。私は


「お……え……ん……え?」

 最後に、息子の頬へと手を伸ばした。


 目の前の人が、力なく崩れ落ちる。

 もう、返事はない。


 尾緒神は――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。