第9話:揺れる心 ― 月の下で ―
夜の静寂に包まれた森。
小屋の外では、満月が雲の隙間から淡い光をこぼしていた。リアは眠れず、静かに外に出て月を見上げていた。
昼間のこと――
レイに支えられた瞬間の温もりが、まだ胸の奥に残っている。
「…あの時、どうして…」
呟いた声が夜風にさらわれる。
その時、背後から足音がした。
「こんな時間に外か」
低く落ち着いた声。レイだった。
「す、すみません…眠れなくて」
「ふん、寝つき悪いのか。あれだけ働いたのに」
不器用な言葉に、リアは少し笑ってしまう。
「…レイさんって、いつもそう言いますね」
「何がだ」
「優しいのに、口が悪いです」
レイが目を細め、わずかに口元を歪めた。
「…お前、だんだん言うようになってきたな」
その声が妙に低く、リアの心臓が跳ねる。
「…ごめんなさい、つい…」
「謝るな」
レイが一歩近づく。月明かりが彼の横顔を照らし、静かな金の瞳がリアを映す。
「…お前のそういうところ、嫌いじゃない」
一瞬、時が止まったように感じた。胸が熱くなり、息が詰まる。リアは視線をそらすことができずにいた。
その時、木陰から別の影が現れた。
「兄さん、リアを困らせるな」
静かな声。ガイだった。
「困らせてねぇよ」
「そう見える」
二人の視線がぶつかり、空気が少し張り詰める。
リアは慌てて間に立つ。
「や、やめてください。二人とも…」
レイは鼻で笑い、肩をすくめて歩き出す。
「ふん。俺はもう寝る。お前も早く入れ」
残されたリアとガイ。
「兄は…悪気はないんです。ただ、不器用で」
「それは、分かってます」リアは微笑む。
「…でも、少しだけドキッとしました」
ガイの目が一瞬だけ揺れた。
「…リア、それは…」
言葉の続きを飲み込み、ガイはただ月を見上げる。
三人の距離は近づき、しかし同時に複雑に絡み始めていた。
夜空に浮かぶ月は、そんな彼らを優しく見守っている。
その光の下で、リアの心は静かに、しかし確かに揺れていた――。




