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甘くとろけるキスをしたくて  作者: ちぃたろう


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23/24

第23話:戻る影 ― 兄弟の間に落ちるひずみ ―

翌朝。

まだ薄暗い空の下、屋敷の門が軋む音がした。


リアははっと顔を上げる。

玄関に駆け寄ると、そこに立っていたのは――


「……レイさん!」


「ただいま」


短く返す声。

レイは片肩に軽い傷を負っていたものの、表情はいつも通りで、どこか安心させる強さがあった。


リアは胸に手を当てた。

(よかった……無事で)


「怪我、してるじゃないですか……」


「大したことねぇよ。森で魔獣に絡まれただけだ」


レイはいつもの調子で答えるが、リアの心は落ち着かない。

傷の位置、乾いていない血、疲れた眼差し――

そのどれもが胸を締めつけた。


「手当てを――」


「リア!」


後方から声が飛ぶ。

ガイが駆け寄り、レイの傷を見て顔をしかめた。


「兄さん、これは“大したことない”傷じゃないだろ」


「放っとけ。すぐ治る」


「……そうやって、全部一人で済ませようとする癖、いい加減やめろよ」


ガイの冷静な声に、刺があった。


レイは舌打ちしてガイから視線を逸らす。

その一瞬の間に、リアは気づいてしまった。


――ガイが、昨夜と同じ目をしていたことに。

――そしてレイもまた、リアのそばにいるガイを気にしていることに。


「……リア」

レイが不意にリアへ向き直る。

「ガイ、何か言ってきたか?」


リアの呼吸が止まる。


ガイが表情を変えずに口を開いた。

「兄さん、リアを尋問するつもりか?」


「そんなつもりねぇよ。ただ――」


レイの視線がリアを捉える。

その瞳には、心配と、そして何か別の色が混じっていた。


リアはそっと首を振る。

「大丈夫です。ただ……少し話しただけです」


その言葉に、レイの肩がわずかに緩んだ。

心底ほっとしたように。


しかし、安堵の奥には――深い迷いが影を落としていた。


手当てを終え、レイが部屋に戻ろうとした時だった。

ガイが小さく問いかけた。


「兄さん。……リアのこと、どう思ってる?」


レイは足を止める。

振り返らずに答えた。


「お前には関係ない」


「関係ある。俺にとっては、すごく」


ガイの声が低くなる。

リアは二人の間に張りつめた空気を感じ、思わず息を呑んだ。


レイはしばし沈黙した後――

淡々と、けれどどこか苦しく答えた。


「……俺は、リアを大事にしたいだけだ」


「それが“男として”なのか、“兄のように”なのか……どっち?」


一瞬、空気が凍った。


レイの拳が、無意識に握られる。


リアは何も言えなかった。


ガイの追及。

レイの沈黙。


そして、レイの背中ににじむ――嫉妬にも似た色。


「……俺は、リアを傷つけたくねぇんだよ」


そう小さく呟いてから、レイは部屋へと歩き去った。


残されたガイは、静かに笑う。


「傷つけたくない……か。

 優しいようで、それが一番、残酷なんだよ、兄さん」


リアは胸元をぎゅっと掴んだ。


(どうして……こんなに苦しいの)


二人が自分のためにぶつかり合うのが、

嬉しいわけでも、悲しいだけでもない。


ただ――

“胸が痛い”。


この痛みの正体を、リアはまだ知らなかった。

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