第21話:触れられない距離 ― 熱の行方 ―
午後の光が差し込む訓練場。
リアは剣の柄を握りしめ、真剣な表情で構えていた。
相手はレイ。
無駄のない動きで、彼女の一撃を軽く受け流す。
「腕は上がったな」
「本当ですか?」
「……ああ。だけど――」
レイは素早く踏み込み、リアの背後に回り込む。
そのまま手首を掴み、静かに囁いた。
「力を入れすぎだ」
リアの体がびくりと震える。
背中越しに感じる、レイの体温。
息が、頬にかかる。
「……こ、こうですか?」
「違う。肩の力を抜け」
レイが彼女の手を包み込み、ゆっくりと動かす。
その手のひらから伝わる熱に、リアの心臓が早鐘を打つ。
(どうして、こんなに……)
動きが止まり、静寂が降りた。
レイの指先が、ほんの一瞬だけリアの髪に触れる。
「……最近、お前、落ち着かねぇな」
「そ、そんなこと……」
「ガイと何かあったのか?」
リアは一瞬、言葉を失う。
レイの声は穏やかだったが、その奥に隠れた棘を感じた。
「……昨日、少し話しました」
「そうか」
それだけ言って、レイはリアから手を離す。
(……冷たい)
胸の奥が少し痛む。
けれどその時、レイはぽつりと呟いた。
「ガイには気をつけろ」
「え?」
「アイツは……一度決めたら、何があっても引かない」
その声には、兄としての警告と、男としての嫉妬が混ざっていた。
リアは小さく頷き、視線を落とす。
「レイさんは……どうなんですか?」
レイが眉をひそめる。
「俺?」
「“引かない”って、そういう想い……レイさんには、ないんですか?」
その問いに、レイは沈黙した。
長い沈黙のあと、彼は低く答える。
「……ある。けど、俺はそれを抑えてる」
「どうして?」
「――壊したくないからだ」
短くそう言って、レイは背を向けた。
陽光が差し込み、彼の影が長く伸びる。
リアはその背中を見つめながら、指先に残る温もりを確かめる。
(抑えてる……? どうして、そんな顔で言うの……)
視線の先、レイの拳がわずかに震えていた。
その光景を、廊下の陰から見つめる影が一つ。
――ガイ。
彼は無言で拳を握り締めた。
「兄さん……やっぱり、気づいてるんだな」
声にはかすかな怒りと、悲しみが滲んでいた。
風が吹き抜け、三人の心の温度をかき乱す。




