第20話:揺らぐ心 ― 双子の影 ―
朝の光が差し込む屋敷の廊下。
リアは昨夜の出来事を思い返しながら歩いていた。
レイの言葉、あの表情、そして……月明かりの下で見た優しい瞳。
(……レイさん、あんな顔するんだ)
思い出すたび、胸があたたかくなる。
けれど、その心の奥で、
“誰かに見られていた”ような感覚が、かすかに残っていた。
「……リア」
呼び止められた声に振り向くと、ガイが立っていた。
どこか険しい表情。
「おはようございます、ガイさん」
「昨日の夜、外に出てたね?」
リアの心臓が跳ねた。
「え……どうして」
「気配でわかる。
……兄さんと、話してたろ」
リアは目を伏せる。
嘘はつけない。
「……はい。少しだけ、話を」
ガイは何も言わず、しばらく黙っていた。
そして、静かに言葉を落とす。
「……兄さん、あんたのこと、特別に見てる」
リアの胸がぎゅっと縮まった。
「そんなこと……」
「わかるんだよ、兄弟だから。
あの人が、誰かにあんな顔するの、見たの初めてだ」
声には、穏やかさと嫉妬が混じっていた。
リアは息を呑む。
「ガイさん……?」
「リア」
彼は一歩近づき、リアの肩に手を置いた。
「俺は、お前を“誰のものにもしたくない”と思ってる」
唐突な言葉に、リアは息を詰めた。
ガイの瞳は静かで、けれど燃えるような真剣さを帯びていた。
「でも、兄さんは違う。
お前を“守りたい”と思ってる」
「……どうして、それが違うんですか」
リアの声は震えていた。
「守るってのは、優しいだけだ。
けど俺は――欲しい」
その一言で、空気が変わった。
リアは何も言えず、ただ見つめ返す。
ガイは苦しげに微笑んだ。
「……ごめん。脅かすつもりじゃなかった」
「いえ……」
沈黙が流れる。
遠くで鳥の声が響く朝の庭が、妙に遠く感じた。
「兄さんがどう動くかはわからない。
でも――俺は引かない」
ガイは背を向け、廊下を歩き去った。
その背中に、リアは声をかけられなかった。
(ガイさんの“優しさ”の中に、こんな熱があったなんて……)
胸の奥が痛む。
けれど、その痛みの正体が何なのか、リアにはまだわからなかった。
廊下の窓から射し込む朝の光が、
彼女の影を二つに裂いて伸びていた。




