表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘くとろけるキスをしたくて  作者: ちぃたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/24

第16話:届かない声 ― 優しさと痛みのあいだ ―



朝の光が差し込む屋敷の窓。

リアはベッドの上で、ぼんやりと指先を見つめていた。

あの夜、ガイが見せた笑顔。

それはいつもの穏やかさの中に、少しだけ切なさが混ざっていた気がした。


(ガイさん……何か、隠してる?)


廊下を歩くと、レイの声が聞こえた。

「おい、もう起きてんのか?」

振り返ると、いつものように無愛想な顔――けれど、どこか優しい目をしていた。


「おはようございます、レイさん」

「おう。朝食、まだだろ? 一緒に行くぞ」

「はい!」


リアがうなずくと、レイは少しだけ口元を緩めた。


(……やっぱり、この人の笑顔、ずるい)

その一瞬の変化だけで、胸が温かくなってしまう。


食堂では、ガイがすでにテーブルについていた。

「おはよう。今日は市場まで行くよ」

「市場ですか?」

「補給品の確認をしたいんだ。リアも一緒に来てくれる?」

「はい、ぜひ!」


レイが無言でガイを見る。

一瞬、兄弟の視線がぶつかった。

何かを測るように、静かに。


午前の市場は人で賑わっていた。

香辛料の香り、果実の甘い匂い、遠くで聞こえる楽器の音。

リアは初めて見る光景に目を輝かせていた。


「わぁ……すごい」

「ふふ、気に入った?」

「はい! 全部見たいです!」

「じゃあ、案内するよ」


ガイが自然にリアの手を取る。

温かくて、優しい掌。

その瞬間、リアの胸がドキリと鳴った。


(あ……)


けれど、手を引かれる方向の先――

人混みの向こうに、レイの姿が見えた。

彼は無表情のままこちらを見ていた。

目が合った瞬間、リアは息を詰めた。


ガイは気づかない。

けれど、レイの瞳の奥には、

ほんの一瞬だけ「何か」を押し殺すような影があった。


昼下がり。

帰り道の馬車の中、リアは窓の外を見つめていた。

「……楽しかった?」

ガイが穏やかに問いかける。

「はい。でも……レイさん、怒ってました?」

「兄さんが?」

ガイは苦笑して、視線を外す。


「兄さんは、感情を出すのが下手なんだ。

 でも、きっと……リアのこと、気にしてるよ」

「え?」

「……心配って意味でね」


その“間”がほんの少し長く感じた。


「ガイさんは、レイさんみたいに不器用じゃないんですね」

「……どうかな。俺のほうが、たちが悪いかも」


リアは首をかしげる。

けれど、ガイはそのまま微笑みを保った。

ただ、心の奥では――

(気づかないで。今はまだ)

そう祈るように。


夜。

リアは寝室の窓辺で月を見上げていた。

(どうしてだろう……)

レイの不器用な優しさも、ガイの穏やかな笑顔も、

どちらも心を揺らす。


けれどその揺れの先にある感情が、

“恋”なのか、それとも“憧れ”なのか、まだわからなかった。


風がカーテンを揺らす。

静寂の中で、リアは小さく呟いた。

「……誰のことを、見ているんだろう、私」


その夜、

三人の想いは同じ月を見上げながら、

それぞれ違う痛みを抱えていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ