第17話:紅の瞳 ― 抑えきれないもの ―
森の外れ、訓練場。
剣がぶつかる音が静かな朝の空気を裂いていた。
レイの動きは荒々しく、普段の冷静さが微塵もない。
「兄さん、落ち着け!」
ガイの声が響くが、レイは応えない。
「何だよ……何でイライラするんだ……」
吐き捨てるように呟き、剣を地面に突き立てた。
額の汗をぬぐいながら、荒い息のまま空を見上げる。
(あいつが……ガイの手を取ってた)
その光景が、頭から離れなかった。
リアの笑顔。
それに向けたガイの穏やかな視線。
胸の奥が焼けるように熱くなって、
気づけば剣を振っていた。
昼。
リアは裏庭で洗濯をしていた。
袖をまくり上げ、真剣な表情で布を絞る姿。
そんな小さな仕草に、心がざわつく。
「……お前、またここか」
声に振り向くと、レイが立っていた。
いつもより少しだけ荒い息づかい。
「レイさん。訓練してたんですか?」
「ああ。少しやりすぎた」
リアは慌てて駆け寄り、彼の手を見る。
指に小さな傷ができていた。
「これ……!」
「放っとけ。大したことねぇ」
「そんなこと言って……!」
リアは持っていた布でそっと手を包む。
その手が触れた瞬間――レイの指がピクリと動いた。
「……っ」
彼の体がわずかに強張る。
「ほら、やっぱり痛いじゃないですか」
「……お前、ほんとに……」
レイは低く息を吐き、リアの手を掴んだ。
「そんな顔、誰にでもするな」
「え?」
「優しいのは悪くねぇけど、……誰かの手を握るたびに、
こうやって胸がざわつく」
リアは息を呑んだ。
レイの瞳が真っ直ぐに自分を射抜いてくる。
金色の瞳が、どこか赤く揺らいで見えた。
「レイさん……」
「……ガイに、触れられてたな」
「え……?」
「見た。……あいつ、お前の手を握ってた」
言葉が出ない。
どう答えればいいのか分からない。
「別に……嫌じゃなかったんだろ?」
レイの声が少し震えていた。
それが怒りなのか、哀しみなのかもわからない。
リアは、唇をかすかに噛みながら首を振った。
「ちがいます。……ガイさんは優しくしてくれただけで……」
「それでも、俺は気に入らねぇ」
レイの指がリアの手を包む。
強くも、乱暴でもなく、ただ――必死に。
「……俺、こういう気持ち、知らなかった」
小さく呟く声が、風に消える。
リアはその言葉に、心臓を掴まれたような感覚を覚えた。
「……レイさん」
「……離したくねぇ」
その一言に、リアの胸が熱くなる。
呼吸が浅くなって、何も言えない。
でも次の瞬間、レイははっと我に返り、手を放した。
「……悪い。俺、何してんだ」
背を向け、拳を強く握りしめる。
その背中が、いつもより小さく見えた。
リアは、胸に残る温もりを確かめるように手を見つめた。
「……レイさん……」
風が頬をなでる。
胸の奥で、何かが確かに芽生えていた。
夕暮れ。
ガイは廊下の影から、その二人の姿を見ていた。
レイの背中。リアの瞳。
何も言わず、ただ静かにその場を離れる。
(兄さん……本気、なんだな)
ガイの拳が、ゆっくりと震えた。




