第13話:近づく影 ― 優しさのすれ違い ―
翌朝。
小屋の窓から差し込む光が、柔らかく床を照らしていた。
レイは上体を起こし、包帯を軽く押さえながら深く息をついた。
「……思ったより動けるな」
リアは慌てて近づき、手を伸ばす。
「まだ無理しちゃだめです!」
「平気だ。昨日よりずっとマシだ」
「でも――」
その瞬間、レイがリアの肩を軽く押さえた。
「……心配すんな。お前の看病、効いたんだろ」
わずかに笑うその表情に、リアの胸が熱くなる。
「……そんなことないです。私、何もできてなくて」
「いや。お前が傍にいたから、眠れた」
リアの頬がふっと赤く染まる。
言葉が出てこない。
レイは何でもないように立ち上がり、包帯の上から肩を回す。
その時、扉が開いた。
「おはようございます」
静かな声。ガイが朝食を運んで入ってきた。
手際よく皿を並べると、わずかにリアを見て微笑む。
「リア、ずっと付き添ってくれていたんですね。……ありがとう」
「い、いえ……」
柔らかな言葉に、リアの心が少し落ち着く。
だが、レイの視線がわずかに鋭くなる。
「おい、ガイ。そんなに気を使うな」
「気を使っているわけじゃありません」
「なら、言い方を変えろ。……まるで、俺が何もしてないみたいだ」
静かだった空気が、少しだけ張り詰める。
リアは慌てて二人の間に入った。
「ま、待ってください! 二人ともそんな言い方しないで!」
レイは舌打ちして視線を外し、ガイは小さくため息をついた。
「……兄さん、怒りすぎです」
「お前が余計なこと言うからだ」
「余計じゃありません。リアがどれだけ心配してたか、兄さんも――」
「分かってる!」
その声が、小屋に響いた。
リアは目を見開き、思わず口をつぐむ。
レイも気づいたように顔をそらした。
「……悪い。朝から怒鳴るつもりじゃなかった」
沈黙が落ちる。
ガイが静かに片付けを始め、リアは何も言えないまま二人を見つめた。
レイの強さと、ガイの静けさ。
その間で、自分の心がどちらへ向いているのか――わからなくなる。
外では鳥が鳴き、木漏れ日が差し込んでいた。
平和な朝のはずなのに、胸の奥は少し痛い。
レイが小さく息を吐き、リアの方へ向き直る。
「……悪かったな、リア」
「だ、大丈夫です」
「……もう少ししたら、散歩に付き合え。外の空気が吸いてぇ」
「……はい」
その言葉がなぜか嬉しくて、リアは微笑んだ。
でもその笑顔を、ガイは静かに見つめていた。
彼の胸の奥で、微かに焦げつくような痛みが広がっていく。
「兄さんばかりずるいですよ」
その小さな呟きは、誰にも届かなかった。




