Ⅵ
雲は少なく、日がたくさん地面を照らし、いい天気だ。
俺たちは、あてもなく、家の近くの自然が多めな市街地を選んで散歩をしていた。
家を出てから、何十分かの時間が過ぎた。
主にサキが話し、俺が聞く形で会話しながら、歩いている。
サキの好きなアーティストの昨日聴いたあの曲の感想はどうだったかとか、サキの学校生活の話、友達との面白いエピソードだったり、目に入った店に行ってみたいねだったり、あの噴水綺麗だね、花が綺麗とか、そんな話だ。
普通に横に並んで歩いていると、サキが突然、俺の左側に寄ってきた。
そして、腕をギュッと締め付けられた感覚に、とても柔らかい感触が左腕の一部分からする。
「わっ、サキっ、な、にしてんのっ?」
サキは俺の左腕に絡みついてきていた。
この左上に当たっている物は、サキの……。
俺は一気に頭が真っ白になって、言葉が途切れ途切れになり、少しそっけない言葉をサキに言ってしまった。
「えー? 寒いから、こうやって身を寄せ合った方があったかいかなって。結構、こんなふうに腕組んだりするよ?」
俺の腕に絡みつき、至近距離の斜め下にいるサキが、いつもと同じ様子で不思議そうに言った。
サキにとっては、ただの友達に対するスキンシップなのだろうか。
俺にとって、これは大したスキンシップだ。
恋人同士がするレベルのことだと思っている。
俺は緊張が最大限に達し、言葉が出せなくなった。
だが、この時間が長く続いて欲しいなと邪な気持ちで願ってしまった。
*
また一週間が経った。
サキはまだ俺の家に滞在している。
深夜、薄暗いリビングのソファでサキと映画を見ながら過ごしていた。
テレビの光と控えめにひかる間接証明だけが光源だった。
隣のサキは嬉しそうに目を輝かせて、ホラー映画を夢中で観ている。
あれからサキはより俺に気軽にボディタッチをしてくるようになった。
体の関係はない。
だが、遠慮が無くなってきて、今までは露出が少ない服を着ていたのに、今では肌が多く見える服を着て、家の中で過ごしている。
二人でソファに座っている今も、サキはヘソ出しのタンクトップに丈の短いショートパンツで無防備に過ごしている。
俺は変に反応しないように必死だった。
やはりサキはとてもスタイルがよく、肌もきめ細やかでその体は一つの傷もなく綺麗な体をしていた。
俺にとっては目に毒で、悶々としていた。
映画は丁度怖いシーンに突入していて、暗がりから飛び出してきた亡霊に、女主人公が捕えられてしまった。
「オーマイガー!」
映画に夢中なサキが両手で顔を覆いながら叫ぶ。
俺はどちらかといえば、サキに夢中で、そんなサキを見て、笑みが溢れた。
「面白くなかった?」
映画のエンドロールが流れる中、サキが俺に質問してくる。
「ううん、面白かったよ」
「ホントかなー?」
サキが訝しげに俺に顔を近づけながら、再度聞いてきた。
顔が近い近い。
栗色の髪がサラッと流れて、俺のすぐ近くに良い匂いが漂う。
綺麗な顔が間近にあった。
「っ、近いなっ、本当に面白かったよ」
俺はゆっくりサキから顔を遠ざけた。
「そっかぁ、あー疲れたね」
サキがそう言って、ソファの間を詰め、俺の側に一気に寄ってくると、体を密着させて、頭を俺の肩に乗せてきた。
やばいやばいやばい。
心の許容量を超える接触に頭も体もまともに動かなくなった。
体がガッチガチに固まり、動けない。
鼓動が速く脈打ち、全身の熱が上がってきた気がする。
耳がすごく熱い。
「トウマ、あったかいね。落ち着くなぁ。……こうしてるとトウマが彼氏みたいだね」
サキがリラックスしているように、ゆっくりとした口調で言った。
も、もうきつい。
嬉しいけど、ドキドキし過ぎてどうにかなりそうだ。
体が硬直して、腰やお尻が凝ってきた。
でも、サキが肩にいると思うと、何故か全く動けない。
俺はまた言葉もでなかった。
俺たちって、付き合えるのかな。
サキは俺のことをどう思っているんだろう。
それとも冗談を言って、軽く遊んでいるのだろうか。
こうやってサキは度々、恋人のようだとか、彼氏のようだとか口に出しているが、そういう話をはっきりさせようとはできなかった。
もし、そういう話を真剣にして、面と向かってそんな気ないと拒否されたら、気まずくなって、この関係が無くなってしまうことが怖い。
サキは綺麗で惹かれる部分しかない。
だが、こんな俺にサキは釣り合わないこともわかっている。
なら聞かないで、いっそのこと、こんな夢のような日々を楽しめるなら、楽しむだけ、楽しみたい。
この心地よい、うやむやな関係が、長く長く続いてくれればと思った。
サキが俺の肩から頭を退ける。
サキの柔らかい髪が俺の顔をくすぐりながら離れて、切ない気持ちになった。
でもやっと、息がしやすくなって、生きた心地がした。
「んー!」
サキが横で拳を突き上げ大きく背伸びをする。
それと同時に俺は、血流を良くする為に、固まっていた体勢から座り直した。
「寝よっか」
サキが呟く。
「うん」
お開きになり、二階に上がり、それぞれの寝室に別れた。
俺はベットに仰向けになり、腕に顔を埋める。
「くそっ」
今まで恋愛をした事が無く、女性耐性ゼロで、綺麗な女の子なら、もっと対応できない。
心の中で湧き上がってくる、頭が朦朧とする高揚感と甘ったらしい何かに気がどうにかなりそうだった。
下半身も気になってきている。
でも、サキは……。
鎮まれ。
寝るんだ。
俺は睡眠誘導の瞑想動画を開いて、それだけに意識を集中しながら、強く目を閉じた。




