Ⅴ
小さくも大きくもない、耳にちょうど良い大きさで規則的に鳴る電子音で目が覚める。
その電子音を出していた、黒色で長方形の目覚まし時計のスイッチを軽く押し込んだ。
時計の時刻はAM八時を示している。
今日、レストランの仕事はない。
まだ頭がぼんやりしている。
目覚しがてら、携帯を触りたい。
サイドテーブルに置いてある自身の携帯を寝そべったまま、腕を伸ばして掴み、携帯を手繰り寄せた。
ベットに仰向けに寝そべって、意味もなく、みんなの投稿を流しみる。
みんな活き活きとしていて、輝いてるなぁ。
飽きてきて、時間を確認すると三十分も経っていた。
しょうもな。
それに比べて自分は……。
夢中になって飽きて、気付いたら何十分も経っている。
別に自分の幸せが生まれたわけではない。
ため息つきたくなるように、なんか虚しくなって、起きたばかりなのに疲労感を感じて、急に自分の過ごした時間が勿体無かったように思えた。
起きるか。
俺はベットから起き上がり、ルームウェアに着替える。
今の俺はタンクトップにパンツ一丁だ。
まだサキが家に滞在しているので、灰色の上下スウェットをタンスの中から選んで、着込む。
サキはあれから一週間以上俺の家に滞在していた。
せいぜい、一日程度かと思っていたが、サキは自分の家に帰りたがらないようで、なんで家に帰らないのか、聞けてない上に、サキのお願いに負けてしまって、サキを家に泊めている。
サキは十九歳、俺の家から大学に通っているようで、歳は俺の三つ下だった。
サキと俺の間には何もやましい事は起こらず、サキは俺を良い友達と思っていると思う。
突然、寝室の扉が開く。
ラフな部屋着姿のサキが朝から明るい笑顔で部屋の中に入ってきた。
俺もサキの笑顔に釣られて、笑顔が自然に出てきた。
最近はサキと接するのに緊張が薄れてきて、俺も自然と笑えるようになった。
サキと生活していると、こっちもいくらか明るい気持ちになれた。
「トウマ、おはよう! 今日の調子はどう? 今時間大丈夫かな?」
「おはよう、サキ。調子は悪くないよ、ありがとう。サキは? 時間あるよ、今日は仕事休みだし」
サキは俺の事を名前で呼ぶようになった。
友達として距離が縮まった証拠だろう。
容姿端麗な女の子におにーさんと呼ばれることにはドキッとしていた。
ちょっと惜しい気もするけど。
「そうなんだね! よかった。元気だよ! 私も午前は時間があるんだ、トウマがいいなら一緒に外に散歩でも行きたいなって……」
「あ、うん、いいね。誘ってくれてありがとう。もちろん行くよ」
サキからのお誘いに心が弾む。
そして、朝の憂鬱な感情が一気に吹き飛んだ。
アメリカは多くの人が散歩をしている。
深い意味はないと思っても、サキと一緒に過ごせる時間が増えて嬉しい。
サキが嬉しそうに微笑みながら言った。
「じゃあ、軽く食べれる物用意するね! トウマはゆっくりしてて!」
サキはそう言って、軽やかな足取りで踵を返し、俺の寝室から出て行こうとする。
俺は慌ててサキを追いかけて、廊下に出て、下の階に下がろうとするサキの背に向かって言った。
「いやいや、俺も手伝うよ。一緒にやろう」
サキはちょくちょくご飯を用意してくれようとしたり、実際に作ってくれている。
でも、悪いので俺は、サキだけにさせないよう、心掛けていた。
「そっか、なら一緒にやろ!」
サキは俺に振り向いて、健康的な色の形が綺麗な小ぶりの唇を、綺麗な弧を描いて広げ、花が咲いたような、反則級のとびっきり可愛い笑顔を見せた。
俺は、サキの可愛い笑顔に心臓がギュッと締め付けられた。
俺たちはキッチンに立った。
サキが冷蔵庫を開け、簡単に食べれる物を選んで、出していく。
俺はサキが来てから、サキに食べたい物を選んでもらっている。
なんでもいいよと伝えているので、サキは適当に自分が食べたい物を出しているはずだ。
サキには、それを言った時、優しすぎと言われてしまった。
何が食べたい?とサキに、何回も聞かれたけど、俺はサキの食べたい物でいいよと返していたら、ため息を吐かれ、わかったと言われて終わった。
俺は優柔不断だった。
でも、本当になんでも良いから、相手に合わせることができる。
俺としては、相手に選んでもらう方が助かった。
サキが自分で集めた食材を見ながら、独り言のように呟いた。
「ソーセージとパンとトマトにチーズ、いいね。美味しそう」
「だね」
俺は朝のコーヒーの用意をしながら、サキの独り言のような呟きに軽く同意をした。
反応をするかどうか、迷った挙句、軽く返事をした。
無視するわけにもいかないしな。
コーヒーの機械をセットすると、やることが無くなって、サキをなんとなく見つめてしまった。
サキが栗色の髪を後ろに束ねて、一つ結びにしようとしている。
丁度、サキの細い首の白くて綺麗なうなじが見えて、驚いてしまった。
見てる方が驚くってどういうことだよ。
サキのうなじは綺麗で、そんなみては失礼なのに、目を離し難かった。
サキが俺の視線に気付いたのか、髪を束ねながら、俺を横目で見てきた。
その姿も妙に色っぽい。
俺はサキに気付かれて、とても恥ずかしくなり、自分の体の熱が上がったのを感じる。
「ん? トウマ、すること無くなったの?」
サキが優しげに微笑みながら、言った。
俺が見ていてもなお、気にも留めないサキの優しい雰囲気に、俺はなんだか自分が、より愚かなやましい人間だと感じて、体中の汗が噴き出てきた気がした。
「トウマ、私ソーセージ焼くから、トマトのスライスしてもらってもいいかな?」
「も、もちろん! 俺に任せて」
上擦った声を出しながら、トマトをひったくるように、サキの前から奪うと、自分の近くの台に置いて、トマトを切るために包丁とまな板を用意し始める。
サキがフライパンの上でソーセージを焼いている。
香ばしい匂いがあっという間に辺りに広がり、空腹を感じてきた。
「あ、トウマ。挟めるようにパンも切り込み入れて欲しいな」
後ろからサキの声が聞こえた。
「おっけー」
俺は作業に集中しながら、サキに気楽に返事をした。
何かすることがあった方が楽だ、コミュニケーションを気楽にできる気がする。
「ふふっ。なんか恋人みたい」
サキが笑い声を漏らしながら、また爆弾発言をした。
「え……あ、はは。そうかな」
俺は作業中に不意を突かれて、手元が狂い、危うくナイフで手を切るかと思った。
まぁ、この発言、今日が初めてではない。
ここ最近、サキがどんな気持ちで言ってるのか、わからないが、よくこんな事を口に出しているのだ。




