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3位:筧 透真
4位:三葉 俊幸
これは廊下の掲示エリアに貼り出された中間テスト結果の順位である。
進学したばかりの中間なのでテストと言っても学力確認の意味合いの方がでかいかも知れないが、それでもクラスメイト達が思い思いの愚痴をテスト前に言い合っているのを見かけた。貼り出されてからもう数時間は経っており、結果が気になる生徒達はあらかた確認し終わったのだろう、廊下は人がまばらで目的の掲示を特に苦労せず確認することができた。
「筧やっぱり成績良いんじゃん」
「…」
だから何故黙る。嫌がる筧を引っ張って連れてきのが悪かったのだろうか、目は合うのに返事がない。いや、返事がないのは今までもあるのだけどこれはそれじゃない。時々見せる、言いたいことがあるのに言わない顔だ。
もしかして、もしかしてだけども、俺より成績が良いことを気にしている?仮にそうだとして、それならば、成績について筧が黙秘するのは確か初めからだ。つまり、初めっからテスト順位は自分のほうが上だと思っていた?…なんだそれ、少しむかつく。
「ね筧、期末はテスト勉強一緒にしようよ」
こうなったら知識を盗んでやろうと勉強に誘ってみた。またしても返事はないが、嫌なことに関してはしっかり拒否してくれるからそれがないということは多分大丈夫なのだろうと軽い気持ちで筧を見上げたら、真っ暗な目が俺を見ていた。これは、初めて見る表情だ。
「ごめん」
「…別にいい」
その"いい"は謝罪とテスト勉強、どちらに対してのいいなのだろうか。聞きたいのに声が出ない。
話しやすいからつい忘れていたが、筧と出会ってからまだ2ヶ月程しか経っていない。さっきまで返事があろうがなかろうがお構いなしにぺらぺら喋ってたというのに、何故だか突然なんて喋ればいいのか分からなくなった。今までの俺はどうやって筧と会話していただろうか。
「テスト勉強」
それはテスト勉強がいいということ?
「…ありがと」
そう予想してお礼を言い、あの目を避けるように教室に向かって歩き出すが、当たり前のように後ろから筧がついてくる。向かう教室が同じなのだから当然だ。でも今は少しでもいいからその目から逃げたくて委員会と嘘をついて無理矢理筧を教室に1人帰した。
※
「最低だ」
自分が。
あんなに一緒に過ごしたい(意訳)と伝えていたくせに、あの一件以来俺は筧を避けてしまっている。避けるといっても委員会メンバーだけの話し合いだからと嘘をついて美化委員室に逃げ込むだけで、無口な筧との会話は俺から話しかけなければ悲しいかな一気に減った。
避難所にしてしまっている美化委員室で、察しの良い筒見先輩に差し出されたどら焼きの外フィルムをペリペリ剥がす音を響かせながら、何度目か分からないため息が口から漏れた。
「喧嘩でもした?」
「…ではないです」
そう、これは喧嘩などではない。一方的に俺が気まずくなって避けているだけなのだ。その証拠に、筧から発せられる言葉の数は減っていないし、それに対する俺の返しだって何も変わっていないはず。ただ、いざ話しかけようとすると、あの時の筧の目がどうしてか頭にチラついて足踏みしてしまう。
今までどうでもいいことで話しかけ過ぎていたんじゃないかとか、同室という手前気を使ってくれていたんじゃないかとか、とどのつまりくだらない話のしかたが分からなくなってしまった訳なのだが、所詮くだらない話。このまま分からないままのほうが良いんじゃないか、とか、友達がいなかったという経験値の無さがここにきて活きてしまっている。
「うーん?まあ、こういうのは外野がとやかく言うべきじゃないしねえ…そうだ、体育祭の種目はもう決まった?」
「それならちょうど今日決まりましたよ。妨害玉入れと借り人競争になりました」
体育祭の競技は全員参加種目を除いて最低2種目、希望があれば3種目まで選んで出場可能だ。因みに筧は2種目ともリレー系であるが本人の希望ではなく、先日の体育で測定された100m走で好成績を収めてしまっていた為リレー出場候補としてホワイトボードに名前が挙げられ、本人が無関心に校庭を眺めてる隙にそのまま出場選手として決定していた。
本当は同じ種目に、と考えていたのだけども、俺はリレーに自信がないし、そもそもそんなこと言える状況ではなくなってしまっているから諦めるしかなかった。
「お、一緒だ」
「借り人ですか?」
「うんそう。よく分かったね?」
「玉入れしてる先輩があまり…想像つかないので」
「そうかな?俺は何でも良かったから余った種目でって伝えてたんだけど、提出してもらった結果見たら借り人だったんだよね。人気種目なのに」
「あ、やっぱり人気なんだ」
「うん、お題の紙に茶髪な人とか身長が高い人とか書かれてるんだけど、毎年何枚か好きな人とかそういう系の紙が入ってて皆盛り上がってるよ」
クラスの大半が借り人を希望した結果種目未決定の人全員参加のジャンケン大会に発展し、よく分からないままその大会に参加し勝ち残ってしまった事が今更ながら申し訳なくなってきた。人気な理由は比較的楽だからだと思っていたけどもどうやらそうではないらしい。
そもそも、男子校でその恋愛ネタはウケるのか?いや、ウケてるから人気なのだろうが。でも確かに共学だとネタとして笑えない場面も出てくるかもしれないから、こういうのは同性同士のほうが確かに盛り上がりが良いのかもしれない。
「あれ、そもそも先輩紅白どっちなんですか?」
「白。これも三葉と同じだよ。ま、殆ど運営本部に居るからあんまりチームとしての参加はできないけどね」
少し寂しそうに言う先輩に対し、逆に俺は適度にやれれば良いタイプなのでいっそ代わってあげられればいいのにと思うが、まあこの学園の美化委員長ともなれば、そう簡単にいかないのだろう。どら焼きをぱくりと食べると予想外の味が口の中に広がった。決して美味しくないわけではないのだが、断面からのぞく餡の色は緑なのに、抹茶などの簡単に名前が分かるような味じゃない。
「他人事みたいな顔してるところ悪いんだけど、三葉も基本本部だよ」
「えっ」
「基本は俺が居るつもりなんだけど、俺が本部から離れる時の代わりに誰か1人、美化として周りに目配ってて欲しいんだ」
「それは…代わりに居れるのは俺だけですね」
「うん…」
でも突然の事態にもすぐ対応できるように、参加種目が無い時もできれば本部に居て欲しい。と、申し訳無さそうにもう一言加えられた。
「前にも伝えた通り、体育祭中に三葉にしてもらう仕事って言う仕事はないんだけどね。拘束時間が長いというか…」
申し訳なさそうにしてるところ申し訳ないけども、こちらとしては今現在筧と気まずい状況にあるので正当な理由をもって本部に居れることはむしろありがたい。快く了承すれば、さながら近所で良くしてくれていたお婆ちゃんの様に良い子だねえと言いながら飲みかけのコップにグレープフルーツジュースが追加された。




