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「なあ」
筧は第一印象で感じた通りあまり話をするタイプじゃない。だからリビングに一緒に居たって殆ど会話はないが、出会ってそんなに経ってないというのに不思議とそこに気まずさや居心地の悪さは感じない。すっかり当たり前になった筧の手料理晩ご飯を食べている時にそんな筧から珍しく話しかけられた。
「なに?」
「美化に入ったって本当か」
「うん」
たまに保健室に行く位で筧は相変わらず不登校だ。そんな筧にまで俺が美化に入ったことが広まってるって事はやはり美化委員会はそれなりの知名度があるようだ。悪名という名称の方が合っているかもしれないけど。
「なんで」
「え…特に理由はないかな、先輩に誘われたから」
「あの美化委員長が簡単に誘うわけない」
「そんなこと俺に言われても」
「それだけのメリットがあるはず」
「…?」
「お前に」
どうやら俺に話しかけているのははじめだけで後半は自問自答だったようだ。その証拠にこちらから相槌をやめたら筧は口に出さず考え込みだした。途中で会話が終わってしまい少しもやるが、美化に入った理由はあまり言いたい内容でもないからちょうど良いと止めていた箸を動かしてゴボウとレンコンのきんぴらを摘んだ。
美化委員会に入ってから1週間程経った。
と言っても新人の俺がやったことは筒見先輩と一緒に散歩という名の放課後の構内見回りをした位だ。他にも仕事はあるらしいがそれは他の美化委員だったり、美化委員長の仕事なのだとか。
一番驚いたのは筒見先輩以外にも美化委員メンバーが所属していたこと。正直他の人達を全く見かけないから委員長一人しか所属していないのだと思っていたと、そのまま先輩に伝えたら少し笑って基本皆美化委員として表に立つ仕事はNGなのだと教えてくれた。そしてその後にごめんねとまた謝りだしたから先輩の脇腹を少し小突いてやった。
肝心の小さな不幸についてはというと、先輩の宣言通り美化に入った翌日にはもう変化が起きた。まず、授業中に突然業者の人達が教室にやってきて俺の机を新品に代えた。先輩には多少汚れは落ちきってないがまだ使えるのにと抗議したところ、まだ学園には入れてない最新の机なのだと回答があった。その机交換事件のおかげで俺が苛めに対して何か対策をし始めたのだと気付いたのだろう、ここで一気に被害件数が減った。残りの数件に関しても俺が美化に入ったと広まるにつれて減っていき、今では被害件数0を記録している。
「だから朝戻ったのか」
何かに納得したらしい筧の箸もようやく動き出した。もやもやするからこういう時ぐらいは脳内完結しないで口に出してほしいところだが筧にそのつもりは無いらしく、その後はいつも通りに一日が終わった。そして翌日。いつもの様に朝の支度を済ませてリビングに向かったところ、いつもとは明らかに様子の違う筧が朝食の準備をしていた。
「え、どうしたの」
「いつも通りの朝飯だけど」
「お前わざと言ってるだろ」
せせら笑いながらテーブルに朝食を用意する筧は多少着崩してはいるが、どこからどう見ても俺と同じ制服を着ている。これだけ聞けば至って普通の学生の朝なのだけども相手は不登校児。今まで目撃してきた彼の服は9割が着古された部屋着だ。たまに行く保健室にだってこんな朝から準備して行ったりしていない。
「学校、行くの?」
「まあ」
「授業受ける?」
「…受ける」
「もしかしてこれからも?」
返事が面倒になったのか頷きの返事に変わった。これまたどういう心境の変化だろうか。聞いてみたいが突然姿を現してくれた時同様素直に回答が返ってくるとは思えない。もそもそ、あまり踏み込みすぎるのも悪いと思ってなぜ不登校なのかも聞いたことがない。気兼ねのない友人ではあるが未だに筧は謎だらけなのである。
「何ニヤケてんの」
「いや、ほら、筧って同じクラスだろ」
「ああ」
「だから一緒に学校行ったりとかできるなって思って」
お昼を一緒に食べたり、一緒に教室移動したり、他にも他にも同級生とやってみたかった事が沢山ある。筧には悪いが拒否されない程度に一緒にやってくれないかさり気なくアプローチをかけていこうと既に俺は脳内で計画を練り始めた。
「バカじゃねえの」
そんな俺を一蹴して席に着き先に一人で食事を始められてしまい俺も慌てて席に着いてパンに手を付け始める。
制服姿の筧にどうしたのと聞いてはみたが、なんとなく察しがつく。前回の筧はおそらく、俺が倒れたと聞いて姿を現し世話を焼いてくれるようになった。それと昨夜の会話を踏まえて今の筧の行動を改めて考えると、多分今回も心配されているのだと思う。
「筧、美化入った理由のやつ、もう大丈夫だよ?」
「知ってる」
「…知ってるのに登校してくれるの?」
ジャムを付けながら聞けばパンを口に運びながら無視された。知ってるってことはやっぱり心配されてたってことだよな。今回は流石に俺だけの為にとは思わないけれど、理由は知らないが1ヶ月以上もずっと登校拒否してたのに、そんな筧を動かすきっかけの一つになってしまった。
「もしかして筧って、結構俺のこと好き?」
「殴るぞ」




