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エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
3章:五頭龍と鉄巨人と此処に来た理由
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67話:スクランブル(聡美雄吾)

三沢基地。スクランブルが鳴ったのは、丁度、デカ盛りのカップラーメンにお湯を入れた時だった。


夜間勤務中に鳴ったのは人生で何度かある。いずれも()()国の領空侵犯のちょっかいが多いが、大抵間が悪い。まあ、スクランブルそれ事態、間が悪くなければいけないのかもしれないが。


だが、今日は少し空気が違った。雲の流れが異常に早い

聡美(さとみ)っち」

同じ階級、整備の服部(はっとり)はハシゴを駆け上る自分に声かける。


「どした。異常あり?」

「いや。今回のスクランブル。怪獣が出たらしいよ」

「は?」

それ以上の会話の時間はなく、メットを被る。


「──ブラボー。座標、35.18。139.28」

「コピー」

指示された場所。それは神奈川県。太平洋。江ノ島か。いつもの日本海側とは異なる。その時点で何かおかしい。米軍も動いているのか。


「オールグリーン。どうぞ」

スイッチを押し、エンジンが始動する。とてつもない振動を感じながら、踏み板を押す。


瞬く間に空へ急上昇し、指定されたポイントへ向かう。


「聡美。どうやら怪獣退治だそうだ」

二機編隊。親機に搭乗する北谷(きたたに)から更新が入った。


「なんか服部にも言われました。本当なんですか。それ」

「らしい。まさか、子供の頃の夢が叶うとはな」

夜空を掻き切るように飛ぶこと十数分。座標に近づき、降下を開始する。


神奈川の市街地はいつもならば、煌びやかなビルの灯火が見えるが、不気味なほど漆黒に満ちていた。


「──いた」


北谷が補足したらしい。肉眼で視認できる距離に既にいる。機体を斜めに向け、江ノ島を見た。

しかし、大きな岩山のようなものがあるだけで、それらしきものは見当たらなかった。しかし。


「うそだろ」


江ノ島と合体していたように見えてしまったらしい。しかし、まるで山が二つに分かれ、双子島が出来上がったかのように見えた時分かった。巨大な存在は移動している。動きはそこまで早くはない。だが、確実にそれは生きているのだ。


体長という表現が正しいのかわからないが五十メートルは下らないだろう。漂う船よりも数倍の大きさだ。


「聡美。本部からの指示を待つ。一旦、目標は補足した。太平洋まで出て、そこから再度旋回。再接近する」

「はい」


数秒という巨大生物の邂逅。すぐに視界は暗闇の海に満ちていく。


しかし。想定し得なかった「怪獣」をこの目で見たが、案外冷静である自分に驚いた。


映画で見たゴギラやらガメラスのように、火を吹き暴れ周り、街が荒れ果てている光景とは違った。海に厳かに存在する山、あくまで自然の一つのようなそんな感覚だ。


「反転する。攻撃指示は出ていない。あくまで様子見だ。いくぞ」

北谷からの交信が入る。機体を翻し、並走する形で高度を落とす。


再び、江ノ島を含む半島が視界に入りはじめた。怪獣は先ほどの場所から動いていないようだった。

そして、その全容がはっきりと見えた。


五本の首をもつ爬虫類に似た生命体。誰もが「龍」と言われれば、真っ先に思い浮かぶ顔。


その頭を通り過ぎたその時、機体が大きく揺れた。


「くそ」

攻撃を受けたと思い、計器類を見たが異常はない。突風を受けたのか。とてつもなく強い風だ。


「聡美。無事か」

「ええ。なんとか」


数秒で龍は視界から消える。


まさか初めての実戦が、ファンタジーの生命体だとは思いもしなかった。

緊張のためか実感は湧かない。


しかし、あの一瞬で感じたことは、この生き物は「敵」ではないということだった。

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