66話:帰国(浅倉孝太郎)
空港に着いたのは予定よりも二時間遅れた、午後七時をまわった時であった。
ロビーは随分と慌ただしく、外国人も含めて人でごった返しており、荷物を受け取るのも一苦労だ。
自分が乗った次の東京行きの便は、欠航が確定していた。他にも海外線、国内線とも運休したことが重なり、半ばパニック状態になっていた。しかし、それは無理もない。
待合室にある巨大なモニターは、いつもならば退屈な天気予報を垂れ流し、誰も目に留めないその場所はアイドルの公演顔負けの人だかりが作られている。
「速報です。本日の午後六時ごろ、突如として神奈川県藤沢市、江ノ島の近海において正体不明の大型生物が現れました、政府と致しましては──」
群衆の頭越しに画面を見ると、女性アナウンサーは切迫した感情露わに状況を伝えていた。
すると画面が切り替わり、現場からの中継となった。
「こちら、現場の佐藤です。今、江ノ電江ノ島駅におります。すごい風です。台風の真ん中にいるかのように、立っているのも難しいほどの突風が押し寄せています。また、近隣では停電も起きているようで、辺りは真っ暗闇になっています。ですが、ご覧いただけますでしょうか!」
カメラマンはリポーターから画面を外し、空を写した。そこには、暗闇の中にうごめく巨大な一本の首があった。
「キリンのような長い首をもつ、巨大な生物が現れました! あちらを見てください。あそこにも首が」
そしてもう一本の首が伸びた。そして、画角を広げると巨大な手の平が江ノ島を包むように生物は姿を現した。だが、そのうちの一本は少し折れ曲がっているように見えた。右手の平でいう、親指の部分だ。
──やはり。
その場を後にして、クラクションが鳴り響く車停めに向かいながら、電話をかける。
「もしもし、僕だ。どこにいる?」
「三番出口のところで車を停めています。すぐに出られます」
「わかったありがとう」
慌ただしく往来する人の波をするすると抜け、車に乗り込んだ。
「いやあ。大変だね。これは大パニックだ」
「まさか社長の言う通りに本当になるとは。五頭龍の復活、読み通りですね」
「まあ、そうなってくれなきゃ無駄金にもなっちゃうからねえ。じゃ会社に向かってくれ」
秘書は頷くとアクセルを踏み込む。空港に無秩序に停車する車を避けつつ、江ノ島へと向かう。
「息子さん、大丈夫でしょうか。確か、鎌倉に一人で住まわれていると」
朝太郎。母に似た長いまつ毛を思い出す。
「あいつなら平気さ。きっと」
窓を見る。風が強まっている。




