表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エノシマ・スペクタクル  作者: EDONNN
2章:秘密結社とCIAと江ノ島の謎
36/100

34話:新婚みたいじゃないか(浅倉朝太郎)

日が落ちるころに、家の前にたどり着く。


驚いたのは部屋の電気が付いていたことだった。はじめ、泥棒か何かが来たのではと、驚いた。しかし今は同居人がいるのだ。


ドアを開ける。明かりが灯る家に帰ったのは随分と久しぶりで、心に沁みた。


「柊木いるの?」

「あ。おかえり」

柊木は台所に立っていた。みずみずしい野菜たちが、まな板に並び、久しぶりの焼けた肉の匂いがする。

全く使われてなかったキッチンが息を吹き返した。


「もしかして、料理してるの?」

「もしかしなくても、料理してる。浅倉の分もあるから」

彼女はフライパンと睨めっこしながら返事をする。


「そ、そうなのか」

柊木が手料理を振る舞ってくれるというのか。脇に抱えた弁当を図らずも隠してしまう。


「バイト早く上がったの? 今日遅いって言っなかった?」

「あー。ほら、シフトは足りてそうだったから。店長から帰って良いって」


──若干話が違う気がする。


そんなことは思いつつ、素直に誰かの手料理をいただける状況に感謝した。と、いうよりも。

これってほんとに新婚じゃないか。二人だけの家に手料理って。


「そうなんだ。ありがとう。あ、おれ風呂洗っとく」

「ん」

ばたばたと逃げるように洗面所へ。鏡には若干頬を赤くし、狼狽している自分の姿が写った。

いつもの十倍の力量で浴槽を磨き、居間に戻ると、いつもは殺風景な机の上が色彩に溢れていた。


「あんたの家お米もなかったんだね。とりあえず買っておいた、これしかないけど」

電子レンジから、パックのご飯が湯気を立てながら運ばれる。


「ひ、柊木ありがとう。お金払うよ」

「いや、いいよ。ここに住まわせてもらってるから。それでチャラで良い」

「そうか、ありがとう。い、いただきます」

歯応えのあるサラダを食べながら、新鮮な野菜の旨さを改めて感じた。


「どう?」

「うまい。久しぶりに料理食べた」

「そ」 

黙々と箸を進める。なんと、まあ。幸せな時間だ。


誰かと食事をするということが、久しぶりだった。それも、好きな人と一緒なら尚更だ。


──あれ。好き?


俺は。俺は柊木のことが好きなのか?

まだ、再開してから一か月ほどしか経っていないにもかかわらず、自分は彼女に惹かれているということなのか。


そんな彼女と一つ屋根の下。意識してしまうのは無理もないのか。


「そういえばさ」

柊木は箸を止め話しかけてきた。思わずビクリと体が震えてしまった。


「な。なに!?」


「何ビビってんのよ。あー。ええと大したことないんだけど」

彼女は自分の反応を見て、くすりと笑う。


「浅倉は夏休み何してるの?」

「あ。うーんと、新聞をまた作らなきゃ行けないみたいなんだ。あ、柊木も新聞部だ。そういえば」

「まあ、ね。なんで、またそんなことしなきゃいけなくなったの?」

今日の経緯をかいつまんで話す。


「『登鯉会(とうりかい)』の謎、ね」

「柊木何か知ってるのか?」


「いや。神社の祭りの時に旗が立っているのはよく見たことあるけど」

「そうだよな。柊木ん家は、神社だったもんな」

柊木の実家は確か江ノ島神社だったはず。今、彼女とその父は違うところに住んでいるが。


「そういえば、わざわざ俺の家に来なくて、お父さんがいなくなるなら実家に行けばよかったんじゃないの?」

「実家って、あの屋敷のこと?」

「え。多分、その屋敷のことだと思う」

小学生の時遊んだ記憶を思い出す。たしか神社の脇に屋敷があったはず。


「今あそこの屋敷は誰も住んでいないから」

「そうなのか。じゃあ、あの辺でやっていた祭りは?」


自分が幼いころ、連れられて行ったあの祭りはどうなったのだろうか。

「あ」

柊木は素っ頓狂なら声をあげる。


「どうした?」

「そうだ。そのこと、入道さんと話しなきゃだったんだ」

「話?」

「うん。今年の祭りはどうするって話があって。お父さんに相談があったらしいんだよね。詳しくはしらないけど『問題ない』って返事してくれって」

「ふうん。そうだったのか」

確か入道さんといえば、この家を貸してくれた人でもあったはず。料亭を営んだり、ここいらでは名主なのだろう。


「思い出せてよかった。そういえば、入道さんも登鯉会だったはずだけど」

「そうだったのか」

思わぬ情報が入り助かった。大家さんということであれば、話も聞けるかもしれない。


「ご馳走さま。あ、浅倉も食べ終わったら流しつけといてくれれば良いから。私、先にお風呂入る」

そういうと、柊木は立ち上がる。


「あ。洗い物なら俺やっとくよ」

「そ。ありがと」

柊木は自室に戻る。自分は思うように箸が進んでいなかった。味が好みであったわけではない。緊張していたからだ。


程なくして、廊下にぱたぱたと歩く音が聞こえ、風呂のシャワーの音が聞こえ始める。


卑猥な妄想のせいで、さらに箸は進まなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ