第7話 弟子の初仕事
レイとの……関長らとの話を終えた後は、一旦、住まいの小屋へ帰された。
そこで、出発に必要そうなものの準備を整えること。そう言われた。
これからやることに関して聞かされた時は驚かされたし、戸惑いもあった。怒りも感じたし、何より、俺ごときをアテにするなという気持ちが強かった。
とは言え、他の誰でもない、ミラに行けと命令されたから、葉介は行くことにした。
ついでにお昼もご馳走されて、楽しみにしていたシカの肉は、レイに言われて、今朝話に出た屠殺場に預けた。
その際、綺麗に切り取った内臓や毛皮にも使い道があるから、同じことがあったら必ずココに持ってくるようにと、屠殺場で働く方々に、中々の圧で迫られたものの……
それらを思い出しつつ、すっかり愛用になったナイフを磨いて、革の鞘に納める。
後は、薪割りに使っている、両手持ちの斧を振り
回してみた。
「うん……そこまで重たくないし、これでいいや。てか、このマサカリしか使えそうなの無いし」
鉞ではなく、斧である。
「準備できた?」
小屋の前で、一通りの荷物を並べたタイミングで、その声が聞こえてきた。
「うん。とりあえずは。そっちは、作戦会議終わったの?」
「ん……それ、全部持ってくの?」
「多いかな? やっぱ……」
葉介の前に並べられた荷物を見ながら、そんな会話をする。
身に着けられるナイフはともかく、そんなナイフよりも強い武器として目を付けた斧。汗拭き用のタオル数枚に加えて、倉庫の奥から引っ張りだしてきた空き瓶五本に、川の水を満タンに入れている。
「遠くまで行くわけだし、作戦考えたら、飲み水は多いに越したことはないと思ったんやが……持ってくにも一本が限界か。マサカリも重たいし」
斧である。
「…………」
困っている葉介の手元に、ミラは何かを投げ渡した。
「なにこれ? 皮袋?」
「『魔法の革袋』。それの中に、全部入る」
「うそん?」
その革袋を、よくよく確かめてみるが、特に変わったところはない。口から伸びた開け閉めの紐は、肩に掛けられる長さがある。そこに掛かった茶色の革袋の大きさは、せいぜい人の手より多少大きい程度しかない。
そんな見た目を不信に思いつつ、ためしに、革袋より余裕でデカい瓶を入れてみ――
「入ったー!!」
入れた後で、革袋を持ち上げてみる。
「軽る……! てか、瓶の重さ感じない!」
「口の大きさに入れられるものなら、何でも入る……入れられる限度はあるけど、そのくらいなら、余裕で入る」
言われた通り、残り四本の瓶も入れてみた。
言われた通り、まだまだ入る余裕がある。
「中でぶつかって割れないかな?」
「大丈夫……どれだけ揺らしたり、振り回しても、よっぽど詰め込まない限り、ぶつからないし、割れない」
その答えに安心し、斧も手に取って見たが……
「革袋の口、広げて。見た目以上に広がるから……」
「そんな広がるコレ? めっちゃ広がるコレ!!?」
実家にあった、ちょっとしたゴミ袋くらいまで広がった革袋の口に、斧は問題なく納まった。
「ちょっとした傷とか、小さな穴や破れまでなら大丈夫。けど、引き裂いたり、大きな穴が空いたら、中身が散らかるから、気をつけて……」
「魔法って便利ね」
この世界に来てからここまで、化け物をぶっ飛ばしたり、空に浮かんだり、そんなすごい光景は見慣れたつもりでいた。
だが、それよりもこういう、自分の手にも取れるような、地味だが圧倒的に便利なものの方が、驚きは大きかったりするから不思議なものだ。
「……ん? なにこれ?」
中を覗いていると、詰め込んだ覚えのないものが見えた。袋の中に手を伸ばして、取り出してみる。赤い布地をロール状に巻いてある、それを広げてみると……
「これ……第5の騎士服? 靴も?」
「着て。サイズは合ってる……多分」
最後の言葉は聞かなかったことにして、さっそく着替えることにした。
着ていた黒い服は、下着以外を脱いで、その上に、赤色のズボン、赤色のシャツを着る。
ミラとは違い、腕も足も露出の少ない、無難な長袖長ズボン。それの、他の騎士服と同じように、柄は洋風なのに形はチャイナな、動きやすくて、丈夫さを感じる服。そこに、服と同じく赤い靴を履いた。
「……似合ってる」
「ありがとう……けど、なんか物足りんな」
「物足りない?」
別段、ファッションだとか着こなしだとか、そんなものには特にこだわりはない。この騎士服も、城はエウロペのくせに服はチャイナかよ、という違和感を除けば、普通に格好いいデザインをしている。
なのに、ミラや四人の関長たち、リムら一般騎士たちも無難に着こなしているこの騎士服は、自分で着てみると、なぜか不足を感じてしまった。
「なんやろう……せや!」
しばらく眺めた後に思いついて、小屋の中へ。
そこには、実家からこの世界へ飛ばされた時、身に着けていた服の一つ。前開き、ボタン閉じの黒いパーカーが掛けてある。
それを手に取って、赤い騎士服の上から袖を通す。
騎士服の襟部分をしっかり出して、ボタンの上部と下部は開いて、中心部分のボタンだけ閉じる。そうして赤色を上下からチラ見できる状態で、最後にフードを目深に被れば……
「これでどうよ?」
「……すごく、格好よくなった」
騎士服の上に重ね着をして良いものか不安だったが、ミラは鼻息を鳴らして、喜んでくれている。
「でも……フードで顔隠す意味は、無くない?」
「顔見えない方が、できる部下って感じするやん」
「……?」
どうやらミラには、覆面の美学に関して理解はないらしい。
「まあ、もちろん、必要に応じて取るしやな」
「……まあ、いい。好きなふうに着て。騎士服を改造するのは、特に制限ない」
「メアとかミラも、かなり自由な着方しとるものな」
「ん……本当は、関長たちの特権。けど、どうせ第5は二人だけだから、わたしが許す。格好いいし」
「わーい」
両手を持ち上げて喜んで見せた。
少なくとも、着こなしに関しては寛容らしい。それが分かったところで、ミラはきびすを返し……しかしまた振り返った。
「……そうだった。これも、あげる」
「なに……手袋?」
「手、ケガしたくないって、言ってたから……これしか手に入らなかったけど」
「いや、十分。ありがとう。すごく嬉しい。大事に使う」
素直な感謝の言葉に、ミラが顔を伏せている前で、黒くて薄い革地の、指無し手袋を手にはめてみる。形、大きさ、感触、全て葉介の手にピッタリ合っていた。
「……じゃあ、着替えと支度ができたら、一緒に来て。魔法騎士、全員集合……」
「了解……て、ひょっとして今からメンバー発表?」
頷くミラに促されて、革袋はパーカーの内側に肩掛け、愛用のナイフは腰に差しつつ、その後を追いかけていった。
ミラと葉介が辿り着いた先には、すでに四人の関長らとリリアの五人が集まっていて、その前には、一般騎士たちが集合を終えようとしていた。
葉介も、一般騎士らの側へ並ぶべきかと移動しようとしたが、その手をミラにつかまれて、ミラの隣、関長らと並ばされた。
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
「…………」「…………」「…………」「…………」
前に立って、正面を眺めてみたら、並んだ騎士たちの何人かからは、鋭い視線を浴びせられた。
リリアを倒したことに騒いで、葉介の挑発に怒りだした娘たち。そんな視線に加えて、好奇の視線、疑問の視線、嫉妬の視線、なぜか尊敬の視線まで見える。
そしてそれを、葉介は無視して大人しく立っておいた。
「全員、集まったな」
関長らが、それぞれ受け持つ部隊の人数を把握、確認し、全員が揃ったところで、レイが声を上げた。
「すでに聞いた者もいるかもしれない……第1関隊である、ワタシとリリアが昨日、急遽帰ってきたのは、ある緊急事態が発生したためだ」
緊急事態……その言葉に、ただでさえ厳粛な空気が流れていた一般騎士らの間に、更に重い空気が流れる。
若い騎士らが一斉に息を呑んだのを見ながら、レイは、一連の話を語り始めた。
「二日前、ココから東の先にある村から、デスニマが大量発生し、近隣の村々が被害を受けているという一報を受けた。そこで昨日、第1関隊の騎士六人、第2関隊の騎士五人、第3関隊の騎士三人、ワタシを含めた計十五人で、その村まで向かった。大量発生と言っても、今までと同程度か、それより多少多い程度だと思っていたんだ。余裕を持って戦力を見繕ったつもりだったし、これでも多すぎるとさえ思っていた。だが……」
そこまで言って、言葉を切る。誰にも言い辛そうにしているのが分かる、そんな状態を振り切るように、レイは続けた。
「第1から三人、第2から一人、計四人の一般騎士が命を落とした」
四人の魔法騎士らの死……その事実に、並んでいる一般騎士ら全員に戦慄が走った。事前に聞かされていた葉介も、二回目とは言え、イヤな気分にさせられた。
「理由は、発生したというデスニマの数が、ワタシの想定をはるかに超えたものだったからだ。ワタシたちが現場に着いた時点で、デスニマの数は約60匹。種類は複数。デスベアやデスバードを含めた多種のデスニマが確認されている。今も数を増やし続けているらしい」
ずっと声を出さず黙っていた一般騎士たちだったが、とうとう、ざわつき始めた。
だが無理もない。葉介は知らないことだが、デスニマが一度に60匹も現れて、それがなお増え続けているという事態など、彼らの人生でも聞いたことがない。
何より、彼ら彼女らの魔法騎士人生で一人も出たことのない、死者までが出ていると。
まさに、緊急事態なのだから。
「すぐにでも対処しなければ、更に被害は増えるだろう。今は、現場である森の中に全てのデスニマが籠っている状態だが、数が増えすぎていつ森から逃げ出すか分からない。しかし、現場にいた人数だけでは対処しきれない。そこで、デスニマたちを倒すための作戦の立案と、新たに増員するメンバーの選抜のため、ワタシとリリアの二人だけが急いで戻ってきた」
全員が、互いに顔を見合わせ始めた。
増員の選抜。つまり、ここにいる騎士たちの中から、デスニマの大群と戦う者たちを選び出すということ。
中にはかつてのリムやメルダのような、デスニマと戦ったことがない者たちもいる。もちろん、部下たちのそういった事情の大抵を関長らは把握しているため、そこも踏まえての選抜となる。
それでも、もしかしたら自分が……
常日ごろ、魔法騎士になった以上、戦う覚悟をしている者たちは多い。だが、それをせず、日々適当に過ごしている者たちもまた多い。これを出世のチャンスとする者もいれば、自分はイヤだと拒否する者も多数いる。中には、日々の退屈な仕事や雑務に飽きて、こういった危険にスリルを見出す者たちもいる。
危険な仕事を前にしての感情は様々で、そんな騎士たちに向かって――
「増員メンバーの選抜は、すでにワタシと四人の関長たちで済ませてある。見ての通り、こちら側にいるリリアと、シマ・ヨースケの二人は、その増員メンバーだ。他の騎士たちは、それぞれの関長から選抜者を発表する」
その後、各関長らとそれぞれの色に分かれて、選抜したメンバーの名前を順に呼んでいき、呼ばれた一般騎士たちは関長の前に立つ、という作業が行われていった。
その選抜の様子を、すでに選抜のしようがないミラは、葉介と並んで眺めていた。
「しかし……作戦会議の時にも聞いたけど、俺までデスニマ退治に行っちゃってもいいの? 魔法も使えんというのに」
「お前の強さは、よく分かってる。最初に会った時にしてたのと同じこと、してくれたらいい」
「同じことってなぁ……」
「それに、今回の作戦、考えたのはヨースケ。現場にいてくれた方が、こっちとしても助かるから」
(考えただけで、細かい所詰めたのは関長の皆さんなんやけど……できるかどうかも、結局のところ分からんしやな)
最初、その話を聞いて、ミラとレイに作戦の立案を求められた時は驚かされた。
自分は特に、作戦を立てるのが上手いわけでもなければ、そもそも作戦や企画を立案したような経験もない。
学生時代の何かしらのイベントでの話し合いや、社会人になってからの会議でも、たまに発言する時はあるが、基本的に大人しくしていたし、それを仕切る立場に立つようなたことは人生で一度もなかった。
だからとりあえず、この事案を聞いて、作戦を考えてほしいと頼まれた時は混乱しつつ、どうにかミラの期待に応える努力をしようと、主にテレビゲームやアニメ、マンガ、ラノベ、アクション映画等で培った知識やら定石やらを思い出しつつ頭をフル回転させて……
どうにか一つだけ思いついた作戦を提案してみた。
とても現実的とは言えず、実際に関長全員が動揺し、シャルからは批判もされたものの、最終的には採用されてしまった。
そして、その作戦を成功させるための人員やら、現地の地理やら状況等、葉介が知りえない部分を関長たちが詰めて、この状況になったわけである。
「てかさ……今さらながら、素人のジジィに作戦考えさせて、それに決めるとか。魔法騎士団には参謀役というか、作戦立てる人材はいないわけ?」
「戦争も終わって、平和が続いてる。危険はデスニマくらいだけど、それだって、魔法騎士がいらないくらいには対処できてる。魔法騎士の必要性自体、疑問を持たれてて、年々人数も減ってきてる……そんな平和な世の中にあぐらを掻いて、組織を維持する以上の努力をしてこなかったツケ……」
「平和が続くことは良いことに決まってるけど……その平和を維持する努力と、いざ平和が壊れた時の備えが無いんじゃ、真に平和を護っとるとは言えんぜ。とても」
「納得いかないわ!」
二人が話しているところへ、そんな絶叫が聞こえてきた。
どうやら黄色らしく、二人を含めた何人かの目はそちらへ向いた。
「なんでアタシたちが城への居残りで、よりによってクソリムとバカのメルダの二人が選抜メンバーに選ばれてんのよ!?」
前に立っているメアと、その後ろに並ぶ選抜メンバーら。そのうちの、リムとメルダを指さしながら、選ばれなかった者たちのうち、二人ほどが声を上げている。
と、わざわざ説明が不要なほど、分かりやすいセリフを少女たちは叫んでいた。
「納得できないって言われても……この二人は、最近メキメキ力つけてきてるし、実際にデスベアやデスバードと戦った実績もあるし。君たちはデスニマと戦った実績ないでしょー?」
少女の反応からして、それは図星らしい。そのくせ、納得もできないらしい。
「何が実績よ!? 二人ともたまたまデスニマに出くわして、それを倒したってだけじゃない! ワタシだって討伐任務に選ばれれば、デスニマくらい倒せるわよ!!」
「それもさせないうちから、なんでアタシたちがその二人より下に扱われなきゃならないわけ? 冗談じゃないわ!!」
どうやらこの二人の場合、自分たちが選ばれなかったことよりも、自分たちではなく、リムとメルダの二人が選ばれたことがガマンならないらしい。
「アンタたちに言ってんのよ!!」
「黙ってないで何とか言いなさいよ!!?」
実際、選んだメアよりも、選ばれた二人に対して大声を上げている。
そんな二人に対して、メアも声を上げようとしたが……
「……? ちょっと?」
メアが何かを言う前に、件の二人が、二人の少女の前に立った。
「何か問題があるのかしら?」
「う~~~……」
相変わらず、自信満々なメルダと、口下手気味なリムと。
雰囲気は対象的ながら、堂々と背筋を伸ばし、相手を睨み据えている。
そんな二人の態度が余計に癇に障ったらしい二人は、とうとう、声と一緒に手を上げた。
「何よその目は――ッ!」
「バカとクソの分際で、見下してんじゃ――ッ!」
声と一緒に出された手を、メルダとリムは同時に掴んだ。
かと思えば、それぞれ別の動きをしながらも、鮮やかな動きと力の運びで相手のひざを着かせて、組み伏せた。
「わーお……!」
「……あれ、ヨースケが教えたの?」
四人の喧嘩と、二人の大立ち回りを無言で眺めていたミラが、隣に立つ葉介に尋ねた。
「確かに教えたけど、この短い間にアソコまで身に着けるかね……」
もちろん、魔法で事前にある程度身体を強くしてあったろうし、ロクに体を鍛えていない魔法騎士らの弱さもあったろうが……
ほんの数日の間、トレーニングを手伝ってもらう代わりに、力と体の使い方、技の掛け方を教えた。
それを、二週間としないうちにアソコまでできるようになるとは。彼女たちなりに自主トレももちろんしていたのだろうが……
(覚えが恐ろしく悪かった、俺よりはるかにセンスがあるな、二人とも……)
「いつまでつかんでんのよ、クソリム!!?」
メルダが相手をした少女は、それだけで戦意を喪失したらしく、早々に観念して逃げていった。
だが、リムの相手の少女は、余計に頭に血を昇らせたようで、ひねられている腕の痛みも無視して暴れ出そうとした。
それを感じ取ったリムは、再び体制を変えつつ……
「んぐ! んんんんむんんんぐむ……!」
口と鼻を押さえ込んで、その呼吸を止めることで大人しくさせてしまった。
自身の爆乳を、押さえた相手の顔に押し付け挟み込むことで……
「アレは教えてない」
「……教えてたら、わたしはお前を殺してる」
「まあ、確かに、自分の体格の効果的な使い方を考えなさい、とは言ったけどさ」
二人が呆れて、男騎士ら数名の声が上がる中で、どうやら落ちたらしい少女を、リムは優しく寝かせてあげた。
そこで、リムもメルダも葉介に気づいたらしく、笑いながら手を振ってくれた。
葉介は、無難に笑いかけつつ手を振っておいた。
(気に入らない……わたしだって、あれくらい大きければ……)
(俺にももう少し、おっぱいがあればな……)
「よし! では早速出発するぞ!」
時刻は正午を過ぎた午後。増員メンバー92名の選抜を終えて、各々の準備を済ませて再び集合したのを見て、レイが号令を掛けた。
「馬車で行くのか? だいぶ遠いようだし、結構な数いるけど」
「馬車じゃない……大人数でも、一瞬で遠くの目的地に移動できる方法がある」
号令を受けて、ミラから話を聞きながら移動していく。今まで葉介が入ることのなかった、城内の通路を進んでいった。
大きくて綺麗な、多分大理石が敷き詰められた石床を通った後は、壁に高そうな壺やら、よく分からない絵画が飾られた廊下の、レッドカーペットの上を歩いていく。
早々に一度で覚えることを諦めた道を進んでいくうち、やがて巨大で豪奢な扉にたどり着いた。
ギギギと、重々しい音を上げながら開かれた内部には、人が20人ほど、立っていた。
服というよりは日差し避けに使うような、茶色のローブを、着るというよりも被っている。そんなローブの下からチラチラ見える顔を覗いてみると、見た目十代後半から、三十代前半といった、魔法騎士団に負けず劣らず、若く見目麗しい紳士淑女の皆さんだ。
「あの人たちは?」
「この城の神官……」
と、扉が開いたのを見た神官の皆さんは、すぐさま部屋の隅へ、それぞれ等間隔の円状に並んでいった。
円状に広がる室内は、大よそ、ヨーロッパ式の城の中にある一室の、大き目な広間というイメージそのままな見た目をしている。
百人や二百人は余裕で入れる広さを持った、石造りの壁と床。暖炉もあって、明かり窓からは涼しい風も入ってきている。壁にはこれまた高そうな絵がいくつも飾られている。
一目で贅沢だと分かる広間の、床には円い赤色の絨毯が敷かれているが、選抜された魔法騎士たちは、その絨毯の上に並ばされた。
「これから、わたしたち全員、現地まで【瞬間移動】する」
「瞬間移動……そんなことできるの? しかも、こんな大勢?」
「ん、できる……自分自身が、目に見える距離を飛んで移動する、【転移】の魔法の応用。使う魔力がすごく多くて、普通に走った方が早いから、誰も使わないし、鍛えもしない。それを、神官たちは鍛えてる。大勢で一斉にフルバーストさせて、この部屋にいる、移動させたい人たちを、好きな場所まで移動させられる」
「フルバースト……つまり、一日に一回の片道切符ってことか」
「ん……本当は、城が攻撃されたりとかした時に、王様や偉い人たちを逃がすための部屋。けど、王様が緊急事態って認めた時には使われる。わたしは、初めて来た」
(いたんだ、王様……)
葉介が、今さらなことをマヌケに実感した、そのタイミングだった。
「――ッ!」「――ッ!」「――ッ!」
「――ッ!」「――ッ!」「――ッ!」
部屋の隅に並んだ神官たちが、杖をかざしながら呪文を叫んだ。
その瞬間、葉介の、ミラの、並んだ魔法騎士ら全員の足もとが光りだして、すぐさま全身を光が包んだ。
やがて、光に包まれた体全身が、溶けていく感覚を感じた時――




