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拝んでいたら推しが壁から出てきたので共に暮らします  作者: 花倉きいろ
第3章 ただの男の子
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大田翔平vs高瀬くん

 グラブなどひと通りの道具を借りた大田選手がマウンドに立つ。

 最初の一球は大田選手渾身のストレート。多分、150キロ後半は出ているだろう。さすがの高瀬くんも手が出ず固まってしまう。


「こんなもんじゃないぞ」


 大田選手がすぐさま二球目を振りかぶる。高瀬くんもバットを握りしめて真っ直ぐ前を見据えた。二球目は変化球でボール。高瀬くんもつられていない。


「ほう。初見であれを振らないとはな」


 三球目。先ほどのストレートとさほど変わらないスピードでのスプリット。さすがの高瀬くんもこれには手が出る。

 残すは一球。高瀬くんはまだ、一球もバットに当てていない。


「くっそ……」


 絶対打ってやる、という気概が目から発されていた。


(頑張って、高瀬くん!)


 夢乃は両手を胸の前で合わせて祈りながらも、目は一切閉じなかった。

 最後の一球が放られた。瞬間、夢乃の肌が震える。


(解説の人がよく叫んでるやつだ。大田、160キロのストレートって……!)


 夢乃がそう認識する頃にはボールはバットの元にいき、カァン! と音がする。


(当たった! ボールはどこ?)


 ファールラインギリギリの外野にボールが抜けていく。そして外野の守備を抜けて、地に落ちた。


「くそ、さすがにホームランは無理だったか。強えー! 強すぎる!」


 高瀬くんがバットを地面につけて悔しがる。


「すごい、すごいよ高瀬くん!」


 夢乃は思わず項垂れる彼の元に駆け寄る。


「あれ多分160キロくらい出てたよ!」


「あれを外野まで運ぶ高校生だと……? そんなヤツがいればとっくに名が知れているはずだ」


 大田選手は相当な衝撃だったようで、高瀬くんをまじまじと見つめている。


「おい、今高瀬って言わなかったか?」


 大田選手がはっとしたように夢乃を見た。夢乃が反射的にしまった、という顔をしたのだろう。何かを察したのか、大田選手はふっと笑って高瀬くんに手を差し出した。


「楽しい勝負だったよ」

「……ありがとうございますっ! とてもためになりました!」

「もう会えないのが残念だ、高瀬くん」

「え……」

「なんでもないよ。夏大会頑張れよ、楽しみにしてる」

「はい! あざっした!」


 腰を深く折り高校球児らしく挨拶を告げる高瀬くん。夢乃は思わず両手を叩いた。周りからも拍手が起こる。そうして、奇跡のような一日は終わった。


 ◇


「マジビビったけど、マジで楽しかった! すっげえ燃えた」

「熱い勝負だったね。私も思わず祈っちゃったもん」

「俺が今、どのくらいにいるのか実感できた」

「どのへんにいた?」

「んー、プロの壁は高くて、その上はもっと高いって痛感した。けど通じる。俺のバッティングも、そこで通じるんだ。大田選手に通じるなら、じっちゃんのホラ吹きだって、本当にしてやれる」


高瀬くんが右手の拳をにぎりしめる。その声は興奮から震えていた。


「日本一速いショートになるんだもんね」

「もち。甲子園優勝が第一の目標だけどな」


俺の野球人生、長いんだなぁとしみじみ呟く高瀬くんに、夢乃は心底よかったと思いながら微笑む。


「よかった、こっちでも野球できて」

「そうだよな、これも全部松崎さんのおかげ。マジでありがとう」

「いや、声掛けてくれたのは祐介だし、大田選手と知り合いだったのはエースの人だから。私は何もしてないよ」

「その祐介って人、松崎さんと付き合い長いんだっけ」

「んーまあね」

「ふーん。イケメンだったしな」

「高瀬くんほどじゃないでしょ」

「そうだけど。ザ・大人って感じ」

「祐介がどうかしたの?」

「別にー、なにも」

「ふふっ」


 なんとなく高瀬くんの思っていることが伝わった夢乃は嬉しくなって、彼のシャツの裾を掴んだ。高瀬くんが振り向く。その手は高瀬くんによって握りしめられた――。

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