夢乃の高校時代
「そういや松崎さんの高校時代ってどんなだったの?」
「どうしたの、急に」
「や、コレ見てたら気になって」
高瀬くんが指差すのは『闘魂』のキャラクターブックだ。
「チームメイトなのに知らないこともあるもんだなあ。血液型とか、好みのタイプとかさ」
「あー、確かに」
それで夢乃に矢が向いたわけだ。
「どうって……普通だよ」
「嘘だ。アルバムとかねえの?」
「やめて黒歴史だから!」
「ほら、普通じゃねぇんじゃん」
高瀬くんがおかしそうに笑って手を差し出す。逆らえるわけがない夢乃は渋々と本棚の奥から一冊のアルバムを取り出した。
「わっ、変わってねえ。でも今より笑ってるかも」
今よりも長い黒髪ストレートの夢乃を見て、高瀬くんが楽しそうに目を光らせる。
「何部だったの?」
「ゲーム研究部……」
「ゲーム研究部!? そんなのあんだ」
「自分で作りました……」 ・
「えっ部活って自分で作れんの!?」
「まあね」
「作った理由は?」
「それは……一緒にワイワイゲームを語れる友だちと場所が欲しくて……」
創部の過程はそれは大変だった。顧問も部室も部員も探さなければいけなかったし、活動内容や報告書も毎月書く必要があった。どれもこれも私的な活動だったので、改ざんするのに友人と頭を悩ませた記憶がある。
(私がシナリオ案を出して、友だちが絵を書いてたっけ。懐かしいな……)
夢乃がゲーム会社に勤めようと思ったきっかけでもある。思い出に耽っていたら、高瀬くんが純粋な目で問うた。
「へえー、どんなゲームやってたの? やっぱRPGとか?」
(ときめきマモリアルだなんて言えない……!
戦国武将との恋愛ゲームだなんて言えない! 幕末志士との恋物語なんて言えない!)
夢乃は頭に浮かぶ歴戦のゲームたちに謝罪しながら誤魔化した。
「その……女性向け? 的な? だから高瀬くんは知らないと思う……」
「え、それってエロゲ的な……」
高瀬くんに最後まで言わせず夢乃は首を大きく横に振る。
「違うよ! 健全な恋愛シミュレーションゲーム!」
そしてついうっかり、口を滑らしてしまった。
「なんだ。じゃあ俺以外にも推しとかいたわけ?」
沖田総司が死ぬのが嫌で、生存ルートのためにお小遣いで課金していたことを推しと呼ぶのなら、間違いではない。けれど、高瀬くんとイコールかというと夢乃は頭を捻る。
「うーん、一番好きなキャラとかはもちろんいたけど、友だちの勧めで始めたのがほとんどだし、グッズを集めたりイベントに通ったりしたのは高瀬くんが初めてかな。少年漫画自体に疎かったしね」
「ふうん」
「でも彼氏とかはいなかったよ、ゲームに夢中で」
それでもちょっと面白くなさそうな高瀬くんが可愛くて、夢乃はつい頭を撫でてしまう。
「……無罪」
夢乃の言葉に、高瀬くんがくすぐったそうにしながらも、どこか嬉しそうに頬に優しく笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
ははーっと両腕と頭をついて平伏姿勢をわざと取ってみせると、高瀬くんがはは、と声に出して笑う。
「やっぱり松崎さんって変なとこあるよな。俺に対してもだし、好きな物に対して一直線というか。普通、部活まで作らねえよ」
「そうかな?」
夢乃自身は自分はいたって無個性の人間だと思っているので首を傾げる。
「そうだよ。そんで、大学時代は?」
「芸術系の大学で、テニスサークルに入ってた」
「へえ! 松崎さんって運動したことあったんだ」
「言われると思った……」
確かに夢乃は十段階で体育の評価が二という経歴を持つ。
が、大学のサークルというのはお遊びな部分もあって、真剣にテニスをやっているところもあれば、飲み会三昧なところもある。夢乃が所属していたのはそのちょうど狭間くらいのサークルだった。新歓の勢いがすごくて決めてしまった、というのが現実である。
「祐介って人とはどこで知り合ったの」
「ああ、そのサークルだよ。新入生のときに助けてもらってそこからずっと一緒。再就職するときも祐介が声掛けてくれて、今同じ会社にいる」
「へえー、一度も付き合わなかったわけ?」
高瀬くんの問いに夢乃は両手を顔の前で大きく振る。
「ないない、祐介めっちゃモテてたし、広い大学なのにファンクラブまであったから、その子たちに目をつけられないよう細々と過ごしてたよ。祐介以外にもモテなかったなあ」
「ふうん。じゃ、彼氏いたことないんだ」
その顔には少し安堵が見られた。夢乃は逆に聞き返す。
「そういう高瀬くんは?」
「俺はこれの通り」
高瀬くんはファンブックをひらひらさせて苦笑を浮かべる。学校でも大人気だが、野球が一番だからと告白をお断りしてきた、と記載があったはずだ。確か五十四ページ。
夢乃はなんだか嬉しくなって、鼻歌を歌いながら高瀬くんの好きなハーゲンダッツを一つ冷凍庫から取り出したのだった。
三連休なので2日連続更新です!
ブクマ、評価、本当にありがとうございます。




