海を欲しがる都道府県は、グンマだけではない
県知事は県庁に戻ると、緊急会議を開く。プロジェクトの主要メンバーや、有識者を急いで集めた。
海が売りに出されることなんて、そう多くはない。
過去の【『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】においても、チャンスがあったのは、わずか三回だ。
いずれも札束の乗せ合いで負けている。
だから、過去の県知事たちは「積立金」をしたり、県内の経済基盤を強化してきた。
しかし、今なら予算は十分なはず。
県知事は会議の参加者たちに向かって言う。
「グンマ県には悲願がある」
どうにかして、海が欲しい。
「まずは、『フロンティア・オークション』について、軽く確認しておきましょう」
秘書が説明を始める。
そもそも、普通のオークションに、海が出品されることはない。
そういったものを扱うのは、特別なオークションだ。その名も『フロンティア・オークション』。
「このオークションでは、個人での入札はできません」
会社も駄目だ。
「入札できるのは、日本の場合、各都道府県ごとです」
したがって、自分たちは「グンマ県」として、オークションを戦うことになる。ライバルになるのは、他の都道府県だ。
「で、今回売りに出されるのは、こちらの海です」
会議室の壁に映像が出現する。
「東京都にある無人島です。先日、島の持ち主が亡くなり、その遺言によって、『フロンティア・オークション』への出品が決まったそうです」
小さな島だが、その周囲は海だ。
つまり、この島をオークションで落札すれば、一緒に海もついてくる!
「いい島のようだな」
県知事は言う。
だが、それだけに、
「落札金額が読めませんね」
「かなりの高額になるかと」
会議の参加者たちが不安を口にする。
県知事も同意見だ。過去に『フロンティア・オークション』が売りに出した島の中でも、トップクラスの島だと思う。
となれば、激しい争奪戦になるのは確実だ。
海を欲しがる都道府県は、グンマだけではない。
県知事の脳裏に、いくつかの県名がよぎった。
彼らも参戦してくるはず。どこも手強い相手ばかりだ。
「なお、今回のオークションでは、『ポンディー』という単位を使用するそうです」
秘書が説明を続ける。
これも『フロンティア・オークション』の特色の一つだ。「円」や「ドル」ではなく、架空の貨幣単位を用いる。今回は『ポンディー』。
で、グンマが出せる予算は・・・・・・。