これは海を目指す戦い(その一)
二週間後、県知事は県庁で緊張していた。
パソコン画面では、数字が減り続けている。
これがゼロになった時、『フロンティア・オークション』が始まるのだ。
ここ十日ほど、オークションに勝つための情報収集をしてきた。
やはり、複数の県が狙っている。
その中でも、最大のライバルはおそらく・・・・・・。
県知事の予想だと最終的には、「あの県」との一騎打ちになる。
どのくらいの予算を、相手が用意しているのか。事前に知ることができれば、有利に戦うことができるはず。
それで、さまざまな手を尽くしてきた。しかし、「あの県」の予算の上限がわからない。
あきらめかけたその時、またしても謎の手紙が届いた。差出人は『グンマのポセイドン』。
手紙の中には、今回のオークションに参加するであろう県、そして、その調査記録が入っていた。たとえば、予算の上限など。県知事が集めた情報と、大部分が一致している。
だが、「あの県」については、正確な金額が不明らしい。「あくまで参考」という但し書き付きで、予算の上限を予想していた。これが本当ならば、かなり厳しい戦いになるだろう。
県知事は緊張したまま、パソコン画面を確認する。オークションが始まるまで、残り五分と少々。
自分が発足した【第八次『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】は今、非常に重要な局面を迎えている。
数日前、先代の県知事が激励に来た。『第七次』では達成できなかったが、今度こそ海を手に入れて欲しいと伝えに来た。
きっとグンマ県民の多くが、同じ思いでいることだろう。
グンマの歴史は古い。そして、それは海を持たない歴史でもある。ああ、鳴くぜウグイス、グンマ京・・・・・・。
過去の【『グンマ県に本気で海を』プロジェクト】でも、願いは叶わなかった。
(しかし、今回こそは)
富岡製糸工場での就任演説で、県知事は宣言した。「約束しよう。私の代で、グンマは海を獲得する!」と。
その正念場が早くも訪れたわけだ。
(ここで海を手に入れる!)
県庁の別室では現在、県民からの応援FAXが、大量に届いているそうだ。
グンマの歴史的瞬間を目にしようと、県民の多くが今回のオークションに注目している。『フロンティア・オークション』では、各都道府県が競り合っている様子を、インターネットで見ることができるのだ。
応援FAXの多くには、「おかめきけ」と書いてあるらしい。
県知事が就任演説で、感極まって叫んだ言葉。自然と口から出たもので、特に深い意味を込めたつもりはなかった。
けれども今や、「グンマ団結の合言葉」になっている。
「おかめきけ!」
県知事が気合いを入れると、
「おかめきけ!」
秘書も続く。
今回のオークション、絶対に負けるわけにはいかない。
「グンマは海を手に入れる!」
そして、こんなニュースが日本中に流れるのだ。
――グンマ県、海を買う。
県知事が見つめる先、パソコン画面の数字がゼロになった。
直後に画面が切り替わる。アニメーションで描かれた競馬場だ。
ファンファーレが流れる中、オークションの開始が告げられる。
県知事は即座に入札ボタンを押した。
これも『フロンティア・オークション』特有のルールで、最初だけは早押し勝負だ。
要するに、一番乗り争いである。運営が言うには、オークションを盛り上げるための演出なんだとか。
これで落札が決まるわけではないが、グンマとしては、ここでライバルたちに見せつけたい。今回はグンマが絶対に勝つ、そんな気迫を見せつけるのだ。
また、一番乗りになることで、県民のボルテージをさらに上げることにもつながる。
(いざ勝負!)
次の瞬間、画面上に一頭のサラブレッドが飛び出してくる。
「良しっ! 一番乗りだ!」
喜ぶ県知事だが、秘書は冷静だ。
「違います! これは」
海を目指す戦い、一番乗りは栃木県!




