直後に「しまった」
ほんの少しだけ、時間をさかのぼる。
東京都知事は都庁で、パソコン画面を眺めていた。
例の秘密兵器はまだ使っていない。使えば必ず勝てるのだ。
なので、今回のオークションでは終盤近くになるまで、何もせずにのんびり見ているつもりだった。
けれども、ここにきて心境の変化がある。
都知事の視線の先、パソコン画面に並んでいるのは、次のような文字だ。
――見たか東京、鳥取大勝利!
――見たか東京、鳥取大勝利!
――見たか東京、鳥取大勝利!
――見たか東京、鳥取大勝利!
――見たか東京、鳥取大勝利!
その数はどんどん増えている。
こういうものを見せられて、都知事の胸中は穏やかではなかった。
(これって、挑発している? いや、ここは大人の対応をですね)
冷静になろうと努めるが、さらなる書き込みが目に留まる。
――首都を代わってやってもいいぞ! by鳥取県民
その瞬間、脳裏に浮かぶ。鳥取砂丘に立つ国会議事堂。
都知事はつい叫んでしまった。
「今すぐ秘密兵器を起動させてください!」
直後に「しまった」と思った。
前回の『フロンティア・オークション』で学んだはずだ。あまりに圧倒的すぎる勝ち方は良くないと。
しかし、止める間もなく、白衣姿の男たちが言う。
「都知事、正常に起動しました」
「あ・・・・・・」
パソコン画面上では一頭の馬が、ものすごい勢いで疾走している。『1ドルドル』ずつなのに、恐ろしい速さだ。
当然、ネット上も気づく。
――やばい! 東京が動いたぞ!
――このスピード、異常すぎるだろ!
――今回も容赦なさすぎ!
――それでこそ、俺たちのラスボス!
(やめてー!)
さらには、こんな書き込みまで。
――海は渡さん! 絶対にな! by東京都民
(そういうのも、やめてーーーーーー!)
機械を一旦止めるように指示するが、
「できません。そういう仕様です。勝つまで止まりません。もっとスピードを上げることなら可能ですが」
「・・・・・・」
都知事は心の中で謝る。もはや打てる手はない。
たぶん、ネット上で活動中の絵師さんたちにまたもや、たくさん描かれてしまうのだろう。『東京ラスボスくん』や『東京ラスボスちゃん』のイラストを。
(少しは手加減、ヘルプミー!)
しかし、他県のみなさんから見れば、手加減していないのは東京の方だと思う。この事実に、都知事は頭を抱えた。
こうして『フロンティア・オークション』では、東京都の馬が暴走する。
これに対してネット上では、
――東京の動き、何かおかしくないか?
――いいや、これが東京の平常運転だろ。
――すごい連打速度だけど、『1ドルドル』ずつしか入札していないような。
――っぽいな。これってつまり、遊んでいるってことか。
――それでこそ、俺たちのラスボス!
(やめてーーーーーーーーーーーーーーー!)
画面上には早くも、『第四段階解禁』の文字だ。ここから先は、『10000ドルドル』ずつの積み上げが可能になる。
だが、すでに絶望が支配していた。二〇近い県が「棄権」を表明している。
このまま東京都の暴走を、誰も止めることができないのか?
しかし、まだ希望は残っていた。
同時刻、別の場所。
「急いだ方が良さそうだな」
「ああ。早く東京を止めるぞ」
あの男たちが秘密裏に特殊作戦を実行していた。




