彼らは素敵な人たちです
東京都知事は考えごとをしていた。
先ほど秘書から聞いた。埼玉県民の集団が、池袋を占拠しているらしい。
「そっちに関しては、放っておいて構いませんよ」
埼玉県民が大挙して池袋にやって来るのは、いつものことだ。
どうせ形だけの「占拠」だろう。たぶん、遊びに来ているだけだと思う。
「住民税を納めに来ているようなもの、そう割り切ることにしましょう。そんな風に考えると、彼らは素敵な人たちです。私は好きです。ああいう埼玉の方々」
大きなトラブルでも起きない限り、こちらから動く必要はないだろう。
もしもの場合には、埼玉県知事に連絡するまで。たまに熱血すぎることがあるものの、基本的には冷静な判断のできる人物だ。きっと事態を収拾してくれるはず。
(それよりも・・・・・・)
東京都知事は資料の続きに目を通す。このあとの会議に関する資料だ。
先日、都議会から要請があった。
ある最新機械の性能実験について。「ぜひとも『フロンティア・オークション』で試したい」と。
それで昨日、実験を行った。
その結果が、あの有様である。
(先に聞いていた話と全然違うし)
都知事は内心で怒っていた。もっと穏便に勝つ、そんな話だったはずなのに。
(あれでは、まるで極悪非道のラスボス)
で、今読んでいる資料には、その言いわけが書き連ねてあった。
要約すると、「機械の設定が甘かったかもしれない」。
そして、「設定を少し変えて、次の『フロンティア・オークション』で、もう一回実験したい」と言ってきている。
(どうも悪い予感しかしないんですが・・・・・・)
都知事は深いため息をついた。文句を言いにきた各県知事たち、彼らの無念そうな顔が忘れられない。
このあとの会議で、再実験を許可するか否か、判断を下すことになっている。
もともとが都議会からの要請なので、断るのは難しそうだ。次の『フロンティア・オークション』が、「海に関する出品」でないことを祈るばかりである。
そこで突然、机の上の電話が鳴った。
出てみると、都庁の職員からで、
「都知事、大変です! 一大事です!」
「どうしました?」
都知事の頭に、さっと浮かんだのは、
(池袋占拠の件で、何か動きがあったのかな?)
しかし、そうではなく、
「神奈川県知事と千葉県知事が、都知事のお部屋のそばで戦っています! すぐ近くの廊下です!」
予想外の内容に、都知事は小さくため息をつく。まさか、あの二人が戦い出すとは・・・・・・。原因は何?
とにかく、困ったことになった。これから会議室に行くつもりだったのに、そこの廊下をふさがれてしまうとは・・・・・・。
あの二人は格闘技の経験者だ。いわゆる体育会系。しかも、「ものすごく強い」という評判を聞いている。
それに対して、こっちは草食系だ。筋肉防御力には自信がないので、巻き込まれたくない。最低、骨折。最悪、死ぬ。
(痛いのは嫌だし、しばらくの間、この部屋から出るのはやめておこう)
そんな本音を隠して、電話の向こうにいる職員に都知事は尋ねた。
「で、どっちが勝ちそう?」




