ただ酒が飲めるチャンス
東京都知事の部屋から、グンマ県知事が出てきた。
それを二人の男が、少し離れた場所から見ている。
「やはりグンマも撃沈か」
「あとは埼玉県だな」
神奈川県知事と千葉県知事である。
「どうする? 飲みに誘うか?」
「いや、さすがに今は声をかけづらいな」
本日すでに、栃木県、長野県、山梨県が撃沈していた。
これまでの三県と同じように、グンマ県知事もしょげ返っている。
あそこまでいくと、放っておいた方がいい。もう少し元気なようなら、飲みに誘って励ますつもりだったのだが・・・・・・。
「東京都も律儀だな。電話やメールで済ませばいいものを、各県との面会にすべて応じている」
「わざわざ俺たちまで呼んでいるしな」
二人が東京都庁にいるのは、都知事に呼ばれたからだ。
もしも、どこかの県とケンカに発展するようなら、その仲裁をして欲しい。
そして、面会が終わった県に対して、可能なようなら元気づけてあげて欲しい、と頼まれていた。それにかかる経費は全額、東京都が負担するという。
「ただ酒が飲めるチャンスだったのにな」
「それについては、本当に残念だ」
自分たちが極悪人なら、無理矢理にでも誘って、今から一時間後には銀座で豪遊しているだろう。
だが、グンマ県知事の落ち込みぶりを目にすると、そんな気にはなれない。心ここにあらず、という状態。こちらの存在には気づいていないようだ。
神奈川県知事と千葉県知事は同時につぶやく。
「『海を持っている者に、海を持っていない者の気持ちはわからない』か」
都知事の部屋のドアが少し開いていて、かつ、二人とも聞き耳を立てていたので、中でどんな会話をしていたのかは知っていた。
神奈川県と千葉県は、ともに海を持っていることもあって、東京都の主張はおおよそ正しいと思っている。県内に他県の飛び地があるのは面倒だし、海を持っていることでの苦労もあるのだ。
「ただ、昨日のオークションはな」
「ああ、あの勝ち方はひどかった」
最後の最後に、希望を根こそぎ奪い取る。あれでは、文句の一つも言いたくなるだろう。
「で、あとは埼玉県だけか」
「しかし、変だな。都知事の予定、このあとすぐに会議のようだが」
そんな二人の元に、それぞれの秘書が息を切らせて駆け寄ってくる。
彼らが同時に叫んだ。
「大変です! 埼玉県民の集団が、東京の『池袋』を占拠しました!」




