表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡淵の調律 外伝 宗一の日記  作者: ちとせ鶫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/8

第8話 十二月十四日の前夜——最後の記録

《十二月十三日——恵子失踪の前日 / 最後の日記》


     * * *


 この日記の最後のページになる。

 理由は後で分かった。翌日、恵子が消えたから。

 だがこの夜に私は、まだ何も知らなかった。


     * * *


 今日は早く帰ることができた。

 夕食を、全員で食べた。

 恵子がよく笑っていた。いつもの恵子だった。

 夕奈が何か言おうとして、やめた。

 夕莉が宗一の方を、一秒だけ見た。

 晴斗は黙っていた。


 私は途中で席を立った。

 仕事のメールが来ていた。

「すぐ戻る」と言って、戻らなかった。


 恵子が笑ったまま「いいよ」と言った。

「いいよ」の意味を、私は受け取らなかった。


     * * *


       ◇


     * * *


 深夜、仕事を終えた後で、台所に行った。

 恵子がいた。

 何かを考えているような、選んでいるような、顔をしていた。


「眠れないのか」と聞いた。

 恵子が首を振った。

「少し考えていたわ」と言った。


「何を」と聞こうとした。

 恵子が先に「おやすみ」と言った。


 恵子の後ろ姿が、廊下に消えた。

 私は台所に一人で立っていた。


「何を考えていたのか」——

 聞けばよかった。

 聞けたはずだった。

 その「はず」が、翌日には「だった」になった。


     * * *


—— 記録


     * * *


       ◇


     * * *


 翌日——十二月十四日——恵子は消えた。


 朔也の実験による信号のズレが原因だと、後に知った。

 恵子が「安全な通過プロトコル」を作ろうとしていたのは、

「この技術がいつか誰かを傷つける」と分かっていたからだと、後に知った。


 私が知ったのは、全て「後に」だった。


 愛していたから、鏡淵に連れてきた。

 それが罪になった。


 この日記は、ここで途切れる。

 続きを書く力が、しばらくなかった。


 ——この記録を、いつか誰かが必要とするかもしれない。

 恵子が「安全な通過プロトコル」を残したように、

 私はこの日記を残す。

 失った者が何を見ていたかの、記録として。


     * * *


——最終記録 / 瀬戸宗一


     * * *


 守ることと、閉じ込めることは——


——


 恵子はそう言いかけて、止まった。

 続きを、私は聞けなかった。


——


 続きは、晴斗が知ることになった。


     * * *


 本記録は瀬戸宗一の個人日記である。

 恵子失踪後、記録は途絶えた。

 宗一が再び言葉を取り戻すのは——夕奈が戻った日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ