第8話 十二月十四日の前夜——最後の記録
《十二月十三日——恵子失踪の前日 / 最後の日記》
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この日記の最後のページになる。
理由は後で分かった。翌日、恵子が消えたから。
だがこの夜に私は、まだ何も知らなかった。
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今日は早く帰ることができた。
夕食を、全員で食べた。
恵子がよく笑っていた。いつもの恵子だった。
夕奈が何か言おうとして、やめた。
夕莉が宗一の方を、一秒だけ見た。
晴斗は黙っていた。
私は途中で席を立った。
仕事のメールが来ていた。
「すぐ戻る」と言って、戻らなかった。
恵子が笑ったまま「いいよ」と言った。
「いいよ」の意味を、私は受け取らなかった。
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◇
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深夜、仕事を終えた後で、台所に行った。
恵子がいた。
何かを考えているような、選んでいるような、顔をしていた。
「眠れないのか」と聞いた。
恵子が首を振った。
「少し考えていたわ」と言った。
「何を」と聞こうとした。
恵子が先に「おやすみ」と言った。
恵子の後ろ姿が、廊下に消えた。
私は台所に一人で立っていた。
「何を考えていたのか」——
聞けばよかった。
聞けたはずだった。
その「はず」が、翌日には「だった」になった。
* * *
—— 記録
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◇
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翌日——十二月十四日——恵子は消えた。
朔也の実験による信号のズレが原因だと、後に知った。
恵子が「安全な通過プロトコル」を作ろうとしていたのは、
「この技術がいつか誰かを傷つける」と分かっていたからだと、後に知った。
私が知ったのは、全て「後に」だった。
愛していたから、鏡淵に連れてきた。
それが罪になった。
この日記は、ここで途切れる。
続きを書く力が、しばらくなかった。
——この記録を、いつか誰かが必要とするかもしれない。
恵子が「安全な通過プロトコル」を残したように、
私はこの日記を残す。
失った者が何を見ていたかの、記録として。
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——最終記録 / 瀬戸宗一
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守ることと、閉じ込めることは——
——
恵子はそう言いかけて、止まった。
続きを、私は聞けなかった。
——
続きは、晴斗が知ることになった。
* * *
本記録は瀬戸宗一の個人日記である。
恵子失踪後、記録は途絶えた。
宗一が再び言葉を取り戻すのは——夕奈が戻った日だった。




