幕間 身体を奪ったあの子 ⑪
1/30 二話目
「あれ、セイデは何処?」
「ベルラ様、セイデなら仕立て屋の元へ向かっていますよ」
「まぁ、そうなの? 最近のセイデは忙しそうね」
わたし、ベルラ・クイシュインは今、部屋でのんびりしている。ピーコを連れて魔物退治には相変わらず行っている。私自身では手を下さずに、ピーコにお願いしているから精神的にはまだ楽だ。
だけれども流血沙汰などを見るのは、全く以って慣れていない。こんな調子で学園で大丈夫だろうか。それだけは心配だ。
ただ、セイデに私のことを話したのだ。
私が前世の記憶があることや乙女ゲームのことを語った。だってセイデは私――ベルラ・クイシュインのことを心から大切に思ってくれていると分かったから。
まさか自分の秘密を誰かに話すことになるとは思っていなかった。こんな風に頭がおかしいと言われてもおかしくないことを口にしてもセイデは冷静だったのだ。取り乱したり、怯えたりなんてことなかった。おかしなものを見るような目で見られることなんてなかった。
そのことにほっとした。
私は一人で悩まなければならないことが……ずっと苦しかったのだと思う。でもこれからはセイデも一緒に悩んで、一緒に歩んでくれる。
ゲームの悪役令嬢であるベルラ・クイシュインの歩めなかった道。でも私だからこそ、そんな幸せな未来がきっと掴み取れるはずなのだ。そう思うと、頑張ろうって思えた。
ただセイデは少しだけ忙しそうにしている。どうやら私が来年になったら学園に通うからその準備に勤しんでいるみたい。
セイデは私の傍に控えていてくれたらいいのに。そんな考えに至って、駄目だとぶんぶんと首を振る。
これじゃあ、悪役令嬢によってしまうわ。私はその道は歩まないの。だから専属侍女の自由を束縛するわけにはいかない。
学園に入学したら、ヒロインがやってくるまでの間に出来る限りのことをしよう。まずは味方を沢山作って動きやすくする。ガトッシ殿下のことを奪われないように……そのことも考えないと。大丈夫だとは思うけれど、それだけは心配だ。
ネネちゃんやアルバーノとも今度こそ仲良くなれたら嬉しい。結局二人とは全然仲良くなれていないから。ネネちゃんの婚約者の方から私のことを伝えてもらったりはしているけれど、ネネちゃんは関わる際もいつも……他人行儀だ。なんで、ゲームのベルラは仲良く出来て私が出来ないのだろうかと本当によく分からない。
私はネネちゃんのことを振り回したりはしないのに。
ゲームと違って、ネネちゃんは思ったよりもアルバーノと仲が良いみたいだし……。
ご両親や長男ともそこまで仲良くしていないらしい。家族は仲が良い方が絶対にいいから、ネネちゃんと仲良くなれたらその仲介も出来たら嬉しいかもしれない。
あとはネネちゃんがアルバーノと仲良くしているのならば、私が魔物退治を頑張っていることを知ったらきっと見直してくれるはず……! アルバーノは魔法の腕が素晴らしいと聞くもの。
ガトッシ殿下やお兄様達だって私が心から仲よくしようとしているなら伝わるはずだとそう言ってくれた。なら、私を好いてくれている皆の言葉を信じて、学園に入学したら本気で二人と仲良く出来るように頑張ろう。
「ベルラ様、どうなさいましたか?」
考え込む私に侍女の一人が問いかける。
「学園に入学したら仲良くなりたい子達が居るの。だからその贈り物を準備したいの」
プレゼントをもらって嫌な気持ちになる人はきっと居ないはず。それに私の何が悪いのか、どうして距離を置くのかちゃんと話し合えば大丈夫だと思いたい。
あとはヒロインとも敵対しない道は選ぶので、やっぱり贈り物作戦は重要かしら?
心からの、彼らを思って準備したものを渡すことが出来れば好感度もきっと上がる。
乙女ゲームだと当然、好感度上げのアイテムなどもあったからそれらを事前に準備しておくのもありかしら。
あとは貴族たちの通う学園にいきなり迷い込むことになるから、私が助けてあげるのが一番よね。
妬みとか、そういうものに曝される可能性がある。なるべく、平等な学園生活を誰もが送れるようにするのが一番いい。
基本的に王族であるガトッシ殿下が乙女ゲームと同じならば、生徒会長は努めて、私も生徒会に入るから……制度を改革したりなどはしやすいはず。
ただどこまで乙女ゲームと変えていいのだろうか。
――なんて、そんなことを考えても仕方ないわ。ゲームのベルラ・クイシュインと、私は異なるから。
ネネちゃんやアルバーノのことも、攻略対象との関係性も、私が火魔法が得意じゃないことも、使い魔を持っていることも……。
何もかも異なる。だから乙女ゲームの情報ばかり考えすぎてもあれだし……。とはいっても乙女ゲームの知識が役に立っている部分も大きい。
本当にどうするべきか悩んでしまう。
乙女ゲームの時期が終わったら――……このようなことは何も考えずにただ幸せになることだけ考えればいいのだ。
だから、学園生活を乗り切れるようにしないと。
私はそんなことを考えるのだった。




