14.レーヴェ④
「意見なんかじゃない!ジュリ様は教えてくれたんだよ?僕が間違った判断をしないように」
「ですが殿下!!」
レーヴェとエスコルピオの殺伐とした言い争いを、間に挟まれた私はヒヤヒヤしながら見守った。
「エスコルピオ!さっきも言ったけど、ジュリ様は僕のお母様だからね!お母様は子供が間違っていたらちゃんと教えてくれるものなんだよ?それに、今のはエスコルピオのことを思って言ってくれたことでしょ?」
「……は、はぁ……それは……」
鉄仮面はレーヴェに丸め込まれつつある。
どうもレーヴェは舌戦に長けているところがあり、それがレグルスを彷彿とさせ私は遠い目をした。
頭の良かった彼に、マデリンはいつも言いくるめられていたし、それがいちいち正論だったから余計に悔しかったのを覚えている。
今、彼は生きているのか……もう死んでしまったのか……。
獅子王ルリオンに聞けば、何かわかるかもしれない。
どちらにしろ、レーヴェとここで暮らすためには、獅子王に会うことは避けられないことだ。
「ジュリ様?」
「……う、うん、はい?」
考え事をしている間に、レーヴェとエスコルピオの戦い?も終わっていたみたいだ。
そして戦いの勝敗も、2人の顔を見るとすぐにわかった。
「そろそろ休憩してお茶にしましょうか?」
「そうね。うん。ありがとう」
私の了解をとると、レーヴェは背後の項垂れたエスコルピオに声をかけた。
「お茶を貰える?エスコルピオ。シュミザ公国の一番いい茶葉でミルクティがいいな」
「はっ、はい。少々お待ちを!」
エスコルピオはいそいそと部屋の隅にあるティーセットへと移動した。
そして……なんということでしょう、カチャカチャと忙しそうにお茶の準備を始めたのであるっ!
その絵面のおかしいことといったらない。
いかつい鉄仮面が、慣れた手付きで茶を淹れる……。
この異常事態に私は突っ込まずにはいられなかった!
「レーヴェ!!あれは何!?」
ほら、あれ!とエスコルピオを指差した。
「え?えーと、エスコルピオですか?」
「いやいやいや、そうじゃなくて。なぜ護衛騎士がお茶を淹れるの?おかしくない?え?侍女とかいないの?」
「侍女?あー、僕の身の回りには侍女はいたことありません。父上様がエスコルピオしか側に置かなかったので、お茶などは全部エスコルピオが準備してくれました」
「そうなの?それにしても……なんか怖いわね……」
私はエスコルピオの背中を見つめた。
うーん、なんというギャップ。
例えるなら、強面の極道が家に帰ると愛妻家で嫁の為に家事をする。
そんな感じかな。
程なくお茶の準備を済ませたエスコルピオは、ワゴンテーブルを押しながらこちらにゆっくりとやって来た。
「お待たせしました。ミルクティ、ミルク多めでございます」
そう言うと、音も立てずにレーヴェの前にカップを置いた。
……慣れているにも程がある。
ここまで流れるようにされると、もう職業だったんじゃないかと勘繰るわよ?
そして、目を丸くして見ていた私の前にも同じものを置き、一歩下がってゆっくりと頭を下げた。
「さぁ、ジュリ様どうぞ」
目の前のカップには、いい香りのミルクティが飲み頃で置かれている。
美味しそう……。
笑うレーヴェを視界に入れながら、カップを取り一口、口に含んだ。
「あ……美味しい……すごくバランスがいいのね?濃い茶葉をミルクでまろやかに仕上げていて………」
「でしょ!?僕も大好きなんです!エスコルピオのミルクティ!」
レーヴェの笑顔が弾けると、聞いていたエスコルピオも恥ずかしそうに俯いている。
「ええ、本当に!……あ、でも……私はミントをもらえる?」
「え…………」
私の言葉にエスコルピオがハッと顔を上げた。
「ミント……か?」
「うん。ミント、あ、無かったら別に要らないけど……」
「ある………」
ポツリと一言呟いて、白い陶器の小さなキャニスターからミントを一枚取り出した。
「ありがとう」
私はそれをミルクティに浮かべた。
ソーントン領で、ティータイムと言えばミントミルクティ。
それは私だけの定番で、よくデュマが淹れてくれていた。
自分で淹れることもあったけど、デュマのお茶が一番おいしくて、わざわざ淹れてもらったりしたっけ。
懐かしい日々のことを考えながら、私はミントミルクティを飲んだ。
不思議とそれは、昔飲んだあのミントミルクティと同じ味がした。




