7-8 二つ目の鐘が鳴る
モンフォワ籠城戦、七日目の昼。
(モンフォワ 約千八百 VS 魔王軍 約四千五百)
「なんだあれは!」
敵陣にいる不気味な物に警備隊隊長のジョナードが驚きの声を発する。
「嫌な記憶が蘇りやがる……、見覚えがあるよアレは巨鰐だ」
苦虫を噛み潰したような顔をするルーベルガ。
豚人の策略でターバンズを襲う予定だった巨鰐。亀の甲羅に鋭い棘が生えている鰐に似た魔獣、その巨体は山ほどの大きさに成長する化け物であった。
「あれは甲羅だけだな、下は車になってやがる」
「確か堅いんですよね」
戦闘を直接見ていなかったエダフが質問する。
「結局奴に傷を負わせたのはガットだけだ、それも腹側な……」
「と言うことは、敵は無傷で下まで来ますね」
「いよいよ万事休すだな」
「ここは危険ですね、降りましょう」
巨鰐の甲羅で覆われた攻城兵器がゆっくりとモンフォワの西門に近づいてくる。甲羅の中には三十名ほどの狼人が入っており中の台車を押していた。
ルーベルガたちが戦った奴とは二回りほど小さいが堅さは同じであった。弓も魔法も甲羅に傷一つ付けることができず門前まで進行を許してしまう。
ドンドンと門を丸太が叩く音が鳴り響く。
甲羅の中には破城槌が仕組まれていたようだ。
太い丸太が何度も門を叩く、数刻すると門が破壊され甲羅の中を通り敵が雪崩れ込んできた。
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町の中に入った敵は四方に散開しようとしたができなかった。
道には高い壁が作られており横道に入れない。
町の中心まで一直線に進むしか許されない作りに変えられている。
前日、エダフが考え出した作戦である。
その一本道には砦柵(先の尖った丸太で組まれた柵)が幾重にも設置されており敵の突進力を削いでいた。
鮨詰めとなり身動きの取れない魔王軍の前に、閃光の獅子が待ち構えていた。
「おめーら、蹴散らすぞ!」、笑顔のルーベルガが仲間を鼓舞する。
「ういーっす」
平地、それも勢いが殺された少数対少数の戦い、彼ら傭兵の最も得意とする戦場だった。
「アネモス・プレッサ・ホーヴィ……プロッディ・カフィコウ・シィフォス……」
トニエが加速強化と切れ味強化の魔法をガットにかける。
「【加速】っ!」
閃光の獅子が剣と盾を使い敵の行動を制限する。その相手をガットが急所を攻撃し留めを刺してゆく。
黒い煙となり敵が消え失せると、背後の敵が前に進んでくる。
再び団員と鍔迫り合いとなった敵をガットが倒す。そんな光景が繰り返されていた。
少し離れた所からハスエルがガットに回復魔法をかけ続けている。
「青ズボンさん、上から槍!」、ケインもハスエルの前に立ち【先読み】を発動させていた。
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門の外で観戦していた魔王軍の指揮官は愉快であった。
まるで満員電車に雪崩れ込む通勤客のように門の中へと飲み込まれていく兵士。
さぞ町中は惨劇が繰り広げられているだろうと、ほくそ笑んでいた。
しかし、実際に飲み込んでいるのはガットであり、惨劇は魔王軍だけであった。
かなりの兵が町へ入ったにも関わらず、吉報の届かない状況に指揮官は苛立ちを隠せなくなっていた。
そこへ伝令が走ってくる。
「占領は終わったのか?」
「いいえ! 南門にブールジュ国の正規兵が多数到着、南門を攻めていた我が軍は敗走しました」
「な?」、顔が強ばる指揮官。
南門の兵士が西門へ応援に来れば全滅の危険が待っている。
「た、退却だ!」
こうして到着後七日間、モンフォワを守るという契約は果たせたのだった。
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七日目の夜。
その日も晴れた夜空に月が輝いていた。
城壁の上を警邏中のガットがランプを下げ歩いている。
そこへ後ろに腕を組んだソフィーがゆっくりと前から近づいてきた。
「ソフィー……、森へ帰らなかったのか」
普段彼女に話しかけていたトーンで問いかける。
「ええ」
そして彼女もまたいつもと変わらない声で返事をする。
昨夜のような緊張感はない、二人とも無表情で見つめ合っていた。
「言ったはずだ、俺の正体を知ったからには生かしておけないと」
「そうね」
「死にたいのか?」
「あなたに殺されるならいいかもね」、少しだけ微笑む。
「……君の考えていることが俺にはわからない」
「フフッ――同じね、私も自分がわからないわ。けど一つだけハッキリしたことがあるの。死んでもいいほど、あなたを好きってこと」
「魔人でもか?」
「これも人の受け売りね……。魔人を好きになったんじゃないわ、好きな人がたまたま魔人だっただけ」
「ダークエルフが生まれるぞ」
両手を広げながら天を仰ぐソフィー。
「ハハッ、それが何よ、気にならないわ。あなたと一緒ならね」
「俺はまだ十三だ、好きだの嫌いだのまだ早すぎる、君のこともそこまでは考えられない」
「私には無限に近い時間があるのよ、例えあなたが老衰で死ぬことがあっても私はこの姿。あなたに好きな人ができても、その人より長く生きてあなたを独り占めにするわ」
不安、恐れ、寂しさ、彼女を襲っていた感情が全て消えている。
澄み切った満面の笑みをガットに贈る。
「エルフらしい考え方だな」、苦笑いするガット。
「あなたの答え、今すぐはいらないわ……でも、側にいさせて、お願い……」
不安に満ちた表情で彼にお願いをする。
息を吐き出しながら頭をかいた彼は、
「今までだって帰れと言って帰らなかっただろ、好きにすればいいさ」と、根負けを認めた。
ソフィーはパッと笑顔になると、ガットに飛びつき、いつものように彼の頭を胸元に抱え込みなで回す。
警邏を続けるガットが歩き出す、そんな彼の背後に立ち胸の前にゆったりと腕を回し絡みつくソフィー。
そんな二人を祝福するように、月はずっと照らし続けたのだった。




