8話 加護を持つ彼女との戦い
控え室から出ると、宿屋の親子が待っていた。
「お兄さん! かっこよかったよ! すごーく強いんだね!」
「ありがとう」
レルゲンの強さに、少し呆れた表情でローラが笑っている。そして、思い出したように言葉をかけた。
「アンタ、これから昼飯だろ? うちで食ってくかい?」
「ああ」
「じゃあ試合のこと、もっと聞かせてね!」
「まだ試合が残っているんだから、聞くならその後にしな!」
「……じゃあ夜まで我慢する」
自分に妹がいたらこんな感じなのだろうか……
レルゲンにはもう親兄弟はいない。だが、どこか懐かしい気持ちになる。
最後の特別試合は、木剣のみの使用が許されている。相手は中央王国の重鎮かもしれない。
いざ、闘技場に足を踏み入れる。
「なるほど、相手は君か」
相手は同じ宿屋に寝泊まりし、ユニコーン討伐でも何度か遭遇した金髪の彼女だった。
「ええ。まずは試合が始まる前に謝罪をさせてもらうわ。私が有利になるルールに何度も変えさせて悪かったわね」
「気にしなくていい。結果は変わらないからな」
「ふふっ。あなた、そんな冗談も言えるのね」
これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか? それか減らず口を言えるのかと思っているのかは分からない。
だが、お互いに決勝まで勝ち上がってきた者同士。
レルゲンは、相手が見知った間柄だとしても、たとえ木剣だけの戦いだったとしても、滅多に訪れない復讐ができると気分が高揚していた。
「特別試合、始めてください!」
最初に動いたのは彼女だ。
彼女が持つ木剣は、とても背丈には不釣り合いな大きさで、両手で扱うロングソードに近い形状だ。
それを片手で軽々と肩に担ぎ、飛び上がる。
木剣の重量と、彼女の並外れた腕力。
振り下ろされるまでの間に、落下する重力を掛け合わせた、必殺の一撃。
一連の動作速度も無駄がない。
まともに受ければレルゲンでも木剣を破壊され、戦闘不能となり判定負けとなるだろう。
だが、絶大な威力を持った一撃を受け流す方法は、白髪の剣士との対決でよく見た。
彼女の一撃を受けた瞬間、レルゲンは上体を捻り、剣同士を滑らせて受け流す。
「なっ……! その技は先生の……!」
レルゲンはこのまま剣を滑らせながら距離を詰め、彼女の腹に一撃を加えようとする。
だが、片手で振り下ろされたロングソードを両手で持ち直し、彼女は強引に空中でガードの体勢を作る。
木剣同士が打ち合い、彼女が開始位置まで飛ばされるが、自慢の力で姿勢を崩さない。
着地の際によろけるなら、レルゲンはそのまま追撃を入れようと準備していたが、不発に終わる。
「ずいぶんと真似がお上手なのね」
「そちらこそ。見た目によらず、なんて力だよ」
「失礼な! レディに向かって力が強いなんて!」
怒りに身を任せながら、再び彼女がレルゲンに迫る。しかし、今度は飛び上がらずに、地上で細かく攻撃を重ねていく。
レルゲンは、ロングソードの長い間合いでありながら、取り回しのいいショートソードのように扱う彼女に、まだ慣れていない。
まともに打ち合わず、躱し、いなし、カウンターの機会を伺っていた。
まともな持久戦なら、攻め手の方が徐々に動きのキレが落ち、彼女が不利になっていくはずだ。それでも涼しい顔をして、彼女は連続攻撃の手を緩めない。
レルゲンはその違和感にすぐに気づいた。
全く遅くならないどころか、徐々に速くなっている!
彼女はまさに、天から与えられた身体能力。
何かしらの“加護”を有しているといっていい。
加護の正体は分からないが、レルゲンは加護持ちとの戦闘経験はない。
ポテンシャルだけなら白髪の剣士より上か……!
と彼女の評価を改める。
復讐を果たすどころか、仮に真剣を持ち出したとしても、不意打ちすら叶わないだろう。
彼女から立ち上る魔力はまだ大したことはない。魔剣士なら誰もが扱う身体強化すら、まともな効果を発揮していない。
それでも人間離れした力が、彼女の戦闘能力を底上げしている。
レルゲンが攻めあぐねている時間が、更に彼女の穴を埋めていく。
愛刀を両方とも折られ、棄権した白髪の剣士がカカッと笑いながら試合を見つめる。
「俺は絡め手で凌いでいたが、ボウズはどうやって加護に対抗する?」
彼女は今、レルゲンを押し始めている実感を掴み始めていた。
私に足りないものは全部、この彼が持っている。でも、ここでの勝ち負けは別!
身体は軽いし、このまま一気に決める!
レルゲンが押され、闘技場の壁面付近まで後退させられる。
そこで、彼女は嫌でも気づいた。
後一撃が決めきれない!
加護により剣速はなお加速し続け、攻撃の間隔も確実に短くなっている。
観客にはもう剣先を目で追えない速度まで高められている。
攻撃しているはずの彼女が、押し返され始める。
ここで試合を見ていた白髪の剣士が髭を触りながら呟く。
「そうか。ボウズの魔術は物体を操るもの。たとえ魔法、魔術は禁止されても魔力による強化だけは禁止されてねぇ。これは単純に、剣を体の一部にして魔力を流し込んでいるだけだ。不味いぜ嬢ちゃん。あのボウズも逆境で燃えるみたいだ」
先生を倒した彼は、私より格上。
ルール変更があって、ようやく互角の勝負ができる。
彼女が一度は掴んだ光明が遠ざかっていく。
攻めきれずに雑念が入ったことで、彼女の剣速から加護の勢いが失われていく。
レルゲンは表情が暗くなっていく彼女を見て、疑問に感じていた。
スタミナ切れか?
いや、あの表情はそうじゃない。
試合が決まりかけた次の瞬間――
闘技場の上空に、ユニコーン騒ぎと似た魔術の感覚がレルゲンを襲う。
大規模な魔法陣が、空一面を包み込んだ。
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