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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【16万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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8話 加護を持つ彼女との戦い

 控え室から出ると、宿屋の親子が待っていた。


「お兄さん! かっこよかったよ! すごーく強いんだね!」


「ありがとう」


 レルゲンの強さに、少し呆れた表情でローラが笑っている。そして、思い出したように言葉をかけた。


「アンタ、これから昼飯だろ? うちで食ってくかい?」


「ああ」


「じゃあ試合のこと、もっと聞かせてね!」


「まだ試合が残っているんだから、聞くならその後にしな!」


「……じゃあ夜まで我慢する」


 自分に妹がいたらこんな感じなのだろうか……

 レルゲンにはもう親兄弟はいない。だが、どこか懐かしい気持ちになる。




 最後の特別試合は、木剣のみの使用が許されている。相手は中央王国の重鎮かもしれない。

 いざ、闘技場に足を踏み入れる。


「なるほど、相手は君か」


 相手は同じ宿屋に寝泊まりし、ユニコーン討伐でも何度か遭遇した金髪の彼女だった。


「ええ。まずは試合が始まる前に謝罪をさせてもらうわ。私が有利になるルールに何度も変えさせて悪かったわね」


「気にしなくていい。結果は変わらないからな」


「ふふっ。あなた、そんな冗談も言えるのね」


 これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか? それか減らず口を言えるのかと思っているのかは分からない。


 だが、お互いに決勝まで勝ち上がってきた者同士。

 レルゲンは、相手が見知った間柄だとしても、たとえ木剣だけの戦いだったとしても、滅多に訪れない復讐ができると気分が高揚していた。


「特別試合、始めてください!」


 最初に動いたのは彼女だ。

 彼女が持つ木剣は、とても背丈には不釣り合いな大きさで、両手で扱うロングソードに近い形状だ。


 それを片手で軽々と肩に担ぎ、飛び上がる。

 木剣の重量と、彼女の並外れた腕力。

 振り下ろされるまでの間に、落下する重力を掛け合わせた、必殺の一撃。

 一連の動作速度も無駄がない。


 まともに受ければレルゲンでも木剣を破壊され、戦闘不能となり判定負けとなるだろう。


 だが、絶大な威力を持った一撃を受け流す方法は、白髪の剣士との対決でよく見た。


 彼女の一撃を受けた瞬間、レルゲンは上体を捻り、剣同士を滑らせて受け流す。


「なっ……! その技は先生の……!」


 レルゲンはこのまま剣を滑らせながら距離を詰め、彼女の腹に一撃を加えようとする。

 だが、片手で振り下ろされたロングソードを両手で持ち直し、彼女は強引に空中でガードの体勢を作る。


 木剣同士が打ち合い、彼女が開始位置まで飛ばされるが、自慢の力で姿勢を崩さない。


 着地の際によろけるなら、レルゲンはそのまま追撃を入れようと準備していたが、不発に終わる。


「ずいぶんと真似がお上手なのね」


「そちらこそ。見た目によらず、なんて力だよ」


「失礼な! レディに向かって力が強いなんて!」


 怒りに身を任せながら、再び彼女がレルゲンに迫る。しかし、今度は飛び上がらずに、地上で細かく攻撃を重ねていく。


 レルゲンは、ロングソードの長い間合いでありながら、取り回しのいいショートソードのように扱う彼女に、まだ慣れていない。

 まともに打ち合わず、躱し、いなし、カウンターの機会を伺っていた。


 まともな持久戦なら、攻め手の方が徐々に動きのキレが落ち、彼女が不利になっていくはずだ。それでも涼しい顔をして、彼女は連続攻撃の手を緩めない。


 レルゲンはその違和感にすぐに気づいた。

 全く遅くならないどころか、徐々に速くなっている!


 彼女はまさに、天から与えられた身体能力。

 何かしらの“加護”を有しているといっていい。


 加護の正体は分からないが、レルゲンは加護持ちとの戦闘経験はない。


 ポテンシャルだけなら白髪の剣士より上か……!


 と彼女の評価を改める。

 復讐を果たすどころか、仮に真剣を持ち出したとしても、不意打ちすら叶わないだろう。


 彼女から立ち上る魔力はまだ大したことはない。魔剣士なら誰もが扱う身体強化すら、まともな効果を発揮していない。


 それでも人間離れした力が、彼女の戦闘能力を底上げしている。

 レルゲンが攻めあぐねている時間が、更に彼女の穴を埋めていく。


 愛刀を両方とも折られ、棄権した白髪の剣士がカカッと笑いながら試合を見つめる。


「俺は絡め手で凌いでいたが、ボウズはどうやって加護に対抗する?」


 彼女は今、レルゲンを押し始めている実感を掴み始めていた。


 私に足りないものは全部、この彼が持っている。でも、ここでの勝ち負けは別!

 身体は軽いし、このまま一気に決める!


 レルゲンが押され、闘技場の壁面付近まで後退させられる。

 そこで、彼女は嫌でも気づいた。


 後一撃が決めきれない!


 加護により剣速はなお加速し続け、攻撃の間隔も確実に短くなっている。

 観客にはもう剣先を目で追えない速度まで高められている。


 攻撃しているはずの彼女が、押し返され始める。

 ここで試合を見ていた白髪の剣士が髭を触りながら呟く。


「そうか。ボウズの魔術は物体を操るもの。たとえ魔法、魔術は禁止されても魔力による強化だけは禁止されてねぇ。これは単純に、剣を体の一部にして魔力を流し込んでいるだけだ。不味いぜ嬢ちゃん。あのボウズも逆境で燃えるみたいだ」


 先生を倒した彼は、私より格上。

 ルール変更があって、ようやく互角の勝負ができる。

 彼女が一度は掴んだ光明が遠ざかっていく。


 攻めきれずに雑念が入ったことで、彼女の剣速から加護の勢いが失われていく。

 レルゲンは表情が暗くなっていく彼女を見て、疑問に感じていた。


 スタミナ切れか?

 いや、あの表情はそうじゃない。


 試合が決まりかけた次の瞬間――

 闘技場の上空に、ユニコーン騒ぎと似た魔術の感覚がレルゲンを襲う。

 大規模な魔法陣が、空一面を包み込んだ。

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