7話 vs 白髪の剣士
「そうかよ」
「ではまずこちらから行くとするかね」
――瞬間、白髪の剣士の姿が消える。
細身の剣士とは思えないほどの速度で、レルゲンの背後に回り込んだ。
目の端で追っていたレルゲンは上体を反らし、突き技を躱す。
「……やるね」
レルゲンは攻撃を躱すと同時に、魔力糸で接続されたもう一本の剣が、さらに白髪の剣士の背後を取った。
死角からの一撃。
白髪の剣士が突きの動きから、滑らかな動きで左手に剣を持ち替えて迎撃する。
木剣同士では決して出ることのない、真剣がぶつかる衝撃音が響く。
会場がどよめくと同時に、歓声が上がる。
空中の剣と鍔迫り合いをする形だが、視線はレルゲンに向けられたまま。
一本の剣だけでは、レルゲンの追撃を防げない。
レルゲンがこの大きな隙を逃すはずがなかった。手持ちの剣を上段から繰り出す。
だが、攻撃は防がれた。
白髪の剣士が二本目の剣を素早く抜くと、レルゲンの一撃を受け流すように刀身を滑らせる。
お互いの攻撃は決定打にならず、一旦距離を取り合う。
「いやぁ、こんなに早く二本目を抜くことになるとはね。その浮いている剣の技術、名前はあるのかい?」
「――浮遊剣」
「なるほど。どうやって制御しているかはよくわからんが、その剣からも魔力を感じる。だからユニコーンのときと同じように、操れるってわけか」
ユニコーンを討伐したときに、レルゲンは白髪の剣士が口パクで煽ったことを思い出す。
――空中のあの技、見事だった。
隠したいんなら、もうちょいうまくやんな――
「今更だが、その力は周りに見せてよかったのかい?」
「……約束したからな」
「そうかい」
「次はこちらから行かせてもらう」
右足に魔力を集中して、ユニコーンへ突進して討伐した時と同じ構えを取る。
レルゲンの姿が消え、地面が抉れた。
ユニコーンを倒したときよりも、さらに速い速度で突進して中段から一閃する。
「それはもう見た」
白髪の剣士は躱すことなく、前進してレルゲンの一撃をやり過ごした。
下手に剣同士で打ち合うと、最悪武器が破壊される。白髪の剣士はそれを瞬時に理解し、行動に移した。その時間の短さから、レルゲンは一つの確信を得る。
この男、相当戦闘に慣れている。
「もらった」
白髪の剣士が振り向き様に剣を振るうが、浮遊剣で防ぐ。
お互いに攻守が入れ替わり、膠着状態が続く。
このままでは埒が明かないと、レルゲンは見切りをつける。
両手で握っていた剣も、念動魔術で浮遊剣にする。
「剣でだめなら、そらきた!」
無数のファイアボールが白髪の剣士へ向けて射出される。形状変化で槍や矢、果ては手裏剣のように回転しながら、白髪の剣士に様々な軌道から攻撃が迫る。
白髪の剣士は剣で弾きつつ躱し、防戦一方になるが、着実にレルゲンの癖を覚えていく。
まさに歴戦を思わせる防御だった。
白髪の剣士は全て受け切った後に、攻めに転じようとレルゲンを睨む。
レルゲンの浮遊剣は、強引に捻じ曲げられ、螺旋を描く槍のような形状へ変化していた。
「なんだ、そりゃあ……」
白髪の剣士が思わず零す。
念動魔術によって強引に捻じれた剣は、自壊を防ぐため、空間へ固定されている。
――螺旋剣。
螺旋剣が高速で回転を始め、周囲の大気を巻き込みながら風切り音が響き、砂埃が舞う。
白髪の剣士は脂汗がじわりと滲むのを感じていた。
久しぶりに死が頭をよぎる。
しかし同時に白髪の剣士は、受けきれば俺の勝ちだという確信があった。
レルゲンはこの時の白髪の剣士の表情を見て、背筋に冷たいものが走った。
この状況で笑うか……!
レルゲンも狂戦士と呼べるような相手に合わせて螺旋剣の回転を上げる。
これ以上は本当に殺しかねない。
だが、殺すつもりでこの技を放たなければ、きっと負けるだろう。
考えていることはお互いに同じ。
極限まで貫通力を高めた螺旋剣が放たれる。
それは躱せないほど速く、正確に相手の胸元を狙っていた――
白髪の剣士はこれを受け流そうと、二刀で構える。
螺旋剣と二刀が激突した。
およそ剣同士が衝突したとは思えない異音が響き渡る。白髪の剣士は、神業の如き反射神経で正確に受け流そうとしたが、刀身から螺旋剣を滑らせることは敵わなかった。
二刀に亀裂が走り、螺旋剣は白髪の剣士の愛刀を粉々に打ち砕いた。
砕けたことが幸か不幸か、螺旋剣の軌道がほんのわずかに変わり、白髪の剣士の頬を掠めていく。
頬から鮮血が流れ落ちたが、白髪の剣士の心は晴れやかだった。
――この程度で済んだのは奇跡だな。
今までありがとよ……お前たち。
勝負に負けたことへの悔しさや、愛刀を破壊されたことへの怒りではない。
白髪の剣士にあったのは、今まで苦楽を共にしたことへの、感謝の念だった。
降参の意味も込めて手が上げられる。
「勝負あり! 勝者八番! Bブロック優勝!」
残すはAブロックで優勝した奴との特別試合。
ここで大会の主催から、音魔法による放送が聞こえてくる。
「特別試合は魔法・魔術の使用を禁止致します。つきましては、特別試合は木剣のみとさせて頂きます」
繰り返し放送される。
明らかにレルゲンの行動を制限するためなのは間違いない。
そこで、レルゲンは一つの考えに辿り着く。
わざわざルールを変えてまで勝たせたいのがAブロックの相手だ。
つまり、ここまで駒を進めた相手こそ、中央王国の重鎮である可能性が高い。
レルゲンは小さく、口角を上げた。
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