77話 No.D
急いで下の階へ戻るべく、レルゲンが全員を念動魔術で浮かせ、一直線に攻略本部へと戻る。
もう全ての階がボス部屋と化した。
ボス部屋からボスの魔物を解放すること自体、可能なのかすらレルゲンたちは知らなかった。
だが、ボスが辺りを彷徨っているのは、今起きている現実だ。
超高速で攻略本部へと戻っている中、何人かスケリトル・ファラルに食い殺されている冒険者が横たわり、血溜まりがそこかしこにあった。
レルゲンは、その光景を見て理解する。
殺した後も、死体を荒らしている。
――早く戻らないと大変なことになる。
攻略本部へと通じる転移魔法陣が見つかり、速度を落とした瞬間、まだ息のある冒険者が必死に声を絞り出して忠告した。
「魔法陣に近づくな! 乗ろうとすると襲いかかってくる……!!」
声を聞いた瞬間、天井に何か張り付いているスケリトル・ファラルを視界の端で捉える。
即座に全員の飛行軌道を急角度で変えると、レルゲンたちが乗ろうとした転移魔法陣に、スケリトル・ファラルが体重を活かしたのしかかり攻撃を仕掛けていた。
勢いよく落ちて地響きが発生し、レルゲンに教えてくれた冒険者が――潰される音を響かせながら噛み砕かれている。
「何やってんだ、お前」
魔力が乗っている術式詠唱のような影響力のあるレルゲンの声に、スケリトル・ファラルは反応して初めて言葉を返した。
「お前、さっきの――余計なことを、俺、こいつら、殺す、邪魔、するな」
スケリトル・ファラルが短く笑ったような気がしたレルゲンは、重苦しい何かの圧を纏う。
大気が震え、ダンジョンの悲鳴のような音が鳴る。
初めてレルゲンが激昂する姿を見たミリィは、恐怖の余りセレスティアの裾を掴んだ。
レルゲンの纏っている"何か"にスケリトル・ファラルが反応を見せ、噛み砕くのを中断してレルゲンを睨む。
「お前、何だ、空気、変わった」
レルゲンはそれに答えず右手をスケリトル・ファラルに向けてかざし、一言だけ呟く。
「捻れろ」
すると、スケリトル・ファラルの右翼が一瞬で捻られ、あっという間に引きちぎられた。
「グルルァァァアアアア!!!」
片翼をもがれたスケリトル・ファラルは痛みによる声を上げたが、徐々に魔力を右翼に集中し、翼が再び生えてくる。
再生の速さに瞳孔が広がるレルゲンだが、未だに怒りが収まらないのか、続けて書き換えた。
「潰れろ」
今度はスケリトル・ファラルの背中と腹から万力で押し潰すような力が加えられ、骨が折れ、肉が潰れるような鈍い音が響く。
あまりの容赦のなさに三人は固唾を飲んでいたが、レルゲンからの声で身体が自然に動いた。
「マリーとセレスは予定通りに! ミリィは奴が動きそうなら足止めを!」
「「了解!」」
いつも通りの声色で伝えるレルゲンに応えようと、三人の魔力が高まりを見せる。
マリーは神剣に全力で魔力を注ぎ込みながら、スケリトル・ファラルに突っ込んでいく。
すると、再び剣が白い輝きを見せ始める。
――これならいける……!
マリーの口角が上がり確信する。これは聖属性だと。一方で、セレスティアは考えていた。
この杖は威力が上がるだけでなく、マリーの神剣と同じ聖属性の攻撃を放てるはず。もっと魔力を精密に――集中しなければ!
念じるようにセレスティアが神杖に魔力を流し込んでゆくと、神杖が神剣と同様に白く輝き始める。
白く輝く光が二人の武器を包み込み、マリーは魔石へ直接神剣を突き刺した。
セレスティアが生成した氷も、神杖と同じ聖なる光で包まれていた。
巨大な氷の棘が、スケリトル・ファラルの魔石を貫く。
古い御伽噺と同じ結末を辿ったスケリトル・ファラルは、完全な魔石だけを残して崩れ落ちた。
この薄暗い部屋から見ていた者が一人、呟く。
「ほう、スケリトル・ファラルに聖属性の武器で対抗か、実に素晴らしい」
呟いた男に声をかける人物がまた一人。
「今度こそ私を楽しませてくれるんだろうね?」
「あぁ、安心したまえよ。今度君が戦うのは四人で六段階目の魔物を打ち倒した勇者御一行だ」
「勇者ねぇ、早くここまで登って来てほしいもんだ。まぁ尤も、ダンジョンの魔物たちに喰い殺されないといいけど」
「そこは賭けになるが、このダンジョンは"D"だ。もし登って来られるなら、間違いなく君の暇つぶしにはなるだろう」
言葉は返さず、もう一人の影の人物は、白い歯を覗かせ、不敵に笑っていた。




