57話 最短で昇級するのは当たり前だった
準備となると、まずは中央ギルドに登録が必要になる。
ギルドへ向かう前に、王国から副団長が出向く旨を書簡で出してもらっていた。大きなギルドの正門ではなく、裏口から見知った女性がレルゲンに声をかける。
「シュットさん、こっちです」
「君は……あのときの」
「覚えていて下さいましたか! 光栄です。今では副団長まで昇進されたとか! まずはお祝いをさせて下さい」
「ありがとう。王宮から便りが届いていると思うが、早速ギルドの登録をお願いしてもいいか?」
「そうですね。ですが、まずはギルド長へのご挨拶だけお願いしてもよろしいでしょうか? 長が会いたがっておりまして……」
「わかった」
「お気遣いありがとうございます。さっ、こちらです」
中へ通され、ギルド長室に案内される。
落ち着いた濃い茶色の机に、羽根ペンがインク壺に差し込まれている。
中央のギルドらしく、机の上には書類が山積みだ。
どんな強面が出てくるかと思いきや、書類を掻き分けるように顔を覗かせたのは、レルゲンより少し歳上くらいの男性だった。
見慣れない薄い緑色の髪に、長い耳が特徴的で、その他には特に目立った特徴はなく、エルフ族のように見える。
爽やかな笑顔で迎えられ、少しの肩透かしを食らうが、間違いなくギルドの長だとわかる落ち着いた雰囲気を放っていた。
笑顔の裏には、年季を感じさせる落ち着きがあった。まずはレルゲンから挨拶をするために騎士礼を取る。
「お初にお目にかかる。私は王国騎士団、副団長のレルゲン・シュトーゲンだ。よろしく頼む」
「ご丁寧にどうもありがとう。私はこの街のギルド長、クーゲル・シュヴァインといいます。そして彼女は以前、お会いしていると思いますが……」
一歩前に出て、彼女が深々と頭を下げて名乗った。
「従業員の統括を勤めております、ハピアと申します。レルゲン様――どうぞよろしくお願いします」
「それにしても……」とクーゲルがレルゲンをまじまじと見つめる。
「その歳で身体から漏れ出る魔力の濃さ。あの元宮廷魔術師のナイト・ブルームスタットを打ち破るだけのことはあるね」
レルゲンの肩が小さく動く。ナイトに関する情報は、王宮以外には漏らさない極秘事項なのだが、レルゲンはあっさり自白するクーゲルの真意が掴めないでいた。
――何を狙っているんだ……?
レルゲンが警戒を強めるが、疑念の眼差しを感じ取ったクーゲルが慌てて両手を振って弁明する。
「いやぁすまない。これは極秘事項だったね。今、この部屋には僕とハピア君しかいないから、情報の秘匿性については安心してくれていい」
「本当にうっかり漏らさないで下さいね」
「ははは……つい歳下の実力者を見ると、からかいたくなるのは性分でね。君は見たところ、一人で生きてきたのかな? 僕が話し始めてから疑いの感情がずっと伝わってくるよ」
「ならなおのこと、そう思われる言動は慎んでほしいな」
「全くです。クーゲルさんは反省して下さい」
「参ったな……僕の味方はいないのかい?」
ゴホンと一つ咳払いし、椅子に腰掛けるように促される。ようやく本題に入るようだ。
「さて、今日レルゲン君がここに来た理由は書簡にも書いてある通り、ダンジョン攻略が目的だったね。しかしすまない。高難易度ダンジョンともあれば、周りの目もある――すぐに高難易度クエストを斡旋したとあれば、君たちの素性に気づく者が出てくるだろう。もちろん気づかれても構わないなら話は別だが、そういうわけにもいかないのだろう?」
「そうだな。秘密裏に進める必要がある。だからこうして今日来たわけだ」
うんうんと何度も頷き、ニコっと笑いながらクーゲルが続ける。
「では、レルゲン君にはギルドでコツコツと簡単なクエストからこなして欲しいのだが、草刈りや下水処理、果ては探し物まであるが、どんなのがお望みかな?」
「最短で階級が上がれるなら種類は問わない」
「となると、納品系のクエストが良さそうかな? 竜種の卵や、段階別の魔物の素材納品。もし持っているならその場でクエストをクリアして昇級試験を受けられる」
「深域で狩った魔物の素材でもいいか?」
「へぇ……やはり深域でも活躍しているのか。構わないよ。素材ランクに応じた差額は、別途ギルドから支払わせてもらう。一度に大量に持ってきても構わないが、その度に昇級試験は受けてもらう。こればっかりは規則だからね。申し訳ないが、手順はしっかり踏んでいって欲しい」
「あぁ、それでいい」
「始めはGランクからスタートだ。高難易度ダンジョンへ挑むには、最低でもBランクが必要になる。Gランクからは飛び級昇格が可能だから、E、C、Bと進めることになるね」
「CからAには上がらないのか?」
「ギルド内での功績が一定水準必要になるから、最短で進むレルゲン君にはあまり関係ない話だと考えてもらっていいよ」
「なるほどな。マリーとセレスティアも同じ方法で昇級試験を受ける必要があるんだよな? 俺たちは一つのパーティだ。昇級試験も同時にやりたいが、可能か?」
「ああ、できるとも! ただクエストの種類が中難易度のダンジョンに限られるから注意が必要だ。まぁ君たちなら魔物討伐の方が手っ取り早いだろうけどね。ともあれ、ざっくり仕組みについて説明したが、何か質問はあるかい?」
「いや、大丈夫だ。ギルドとのやり取りはハピアさんが担当してもらえるとありがたいが、どうだろうか?」
「はい。私がレルゲン様たちの専用窓口として承ります」
「助かる。早速ですまないが、こちらも少し急いでいる。納品クエストをいくつか見繕って欲しい」
「かしこまりました。お持ちいたしますので、少々お待ち下さい。クーゲルさん。あまりレルゲン様を困らせないで下さいね!」
「はいはい、わかったよ」
ハピアが小言で何か文句を言いながら席を外す。
「いやぁ、出来のいい部下を持つと肩身が狭くなってしまうね。ハピア君が帰ってくるまでしばらくお菓子でも食べながら談笑しようじゃないか」
待つこと少し、ハピアが納品依頼書を持って帰ってきた。鍛治屋や個人的なコレクター、研究者に至るまで、素材を欲しがっている者は山ほどいた。
数ある依頼の中から適当に依頼を受け、すぐにそれよりも上位互換となる品を納品する手続きを行う。
深域で得た素材は市場に流通していない、どれも希少なものばかりだ。だが、事情がある時はみんなのために使うという取り決めを、仲間内で決めていた。
素材納品に文句を言うのはいない。最速で階級が上がれるなら、ある程度の放出は飲み込んで進めていく。
翌日、ハピアに素材を納品してクエストをクリアし、昇級試験がすぐに用意された。
最初の昇級試験は訓練場で行われるようだ。
レルゲンは鉄剣。マリーは神剣ではなく今まで使っていた愛用の両手剣を持っている。
セレスティアも神杖ではなく、今まで使っていた杖を持ち、威力を抑えている。
ハピアが遠慮がちに、試験の声掛けを入れた。
「ではこれからみなさんには、昇級試験を受けて頂きます。レルゲン様とセレスティア様は遠距離、マリー様は近接ですね。試験内容は簡単です。遠距離は、ここから見える的への命中精度を見させていただきます。近接は、武器をお持ちになって試験官の方と寸止めによる一本先取を行っていただきますが、お互いに怪我をしないよう、ご配慮願います」
三人とも頷く。
レルゲンの的当ては、念動魔術で全て中心に当てて満点評価をあっさり獲得する。
セレスティアも自身の正確性の高さを発揮し、こちらも満点評価を獲得。
一本先取のマリーは、連続剣の加護を使わなくても、持ち前の身体能力の高さで試験官の剣を上空へ打ち上げることで一本勝ちとなり、同じく満点で試験を終えた。
それからと言うもの、納品クエストをこなし、昇級試験を受け、飛び級でCランクまで順調に駆け上がっていった。
外部に情報が漏れない依頼だけをこなし、冒険者ランクを上げていった三人。ついに高難易度ダンジョンが受けられる、Bランクの昇級試験を受けることになる。
Bランクの昇級試験は、中難易度ダンジョンの最深部にある印を持ち帰る――それが試験内容だ。
攻略するダンジョンは中央ギルドが管理しており、最深部の印はギルドが用意したものだ。
主にBランクの昇級試験で、多くの冒険者がここを通過している。いわば初心者からの卒業用ダンジョンだ。
出てくる魔物は最大で三段階目までとされ、深域での討伐経験のある三人には、朝飯前といったところだろう。
「わずか数日でBランク昇級試験ですか。さすがはこの王国の英雄ですね! では、初めてのダンジョン攻略、頑張ってきてください!」
「ありがとう、ハピアさん。行ってきます」
手を振るハピアに三人は軽く手を振って返し、のどかな森を抜けて攻略先のダンジョンへと到着したのだった。
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