53話 天才魔術師の成り上がり
「本当に皆さん、王国のために尽力して下さり、ありがとうございました」
最後の戦いから数日後、傷が癒えた頃に女王陛下から感謝の言葉が述べられた。
王国の水問題はカノンの尽力により復旧工事が進んでおり、深刻な食糧不足に陥る寸前で解決へ向かっているようだ。
「ベンジー騎士団長亡き後、現在は空席のままですが、ハクロウ副団長を騎士団長に昇格。そして騎士レルゲン――あなたを副団長に任命致します。よろしいですね?」
二人が同時に答える。
「「謹んで拝命致します」」
ナイトの討伐と、王国を狙った数々の暗躍が終了したことを祝して、宴が開かれた。
「しっかし、俺がボウズ直々の上官とはねぇ……功績を考えたら普通逆じゃねぇか?」
「私専属の騎士ってだけで、今まで普通の騎士と同じ階級なんだから妥当でしょ」
「いやぁ……俺、片腕無くなってるしよ……」
「それなんだがハクロウ、無くなった左腕について話があるからまたあとで」
「ん? ここじゃダメなのか?」
「まあな」
「まぁいいか。んじゃ、嬢ちゃんたちをあまり待たせるなよ」
「ああ」
短い挨拶だったが、一時は死にかけていたハクロウの表情も晴れやかだ。貴族に挨拶をして回っているマリーを見つけ、半ば強引に話しかける。
「マリー、ちょっといいか?」
周りの貴族たちに別れを告げて、マリーがレルゲンの前に来る。
「どうしたの?」
「俺と一曲、踊ってくれるか?」
その直球な物言いに、マリーは少し驚いた表情をしたが、すぐにレルゲンを見つめ返し、返答する。
「喜んで」
簡単な踊りではあったが、マリーの笑顔は眩しく、また幸せそうな顔をしている。
その瞬間だけは、レルゲンとマリーだけの空間だった。もちろん他の貴族たちも一緒に踊ってはいたが、周りも気を遣って少し距離を空けてくれている。
魔力糸を繋いで、二人だけの会話が進んでいく。
『マリーと踊れて良かった』
『私も、公の場であなたと踊れたのは本当に嬉しいわ。セレス姉様のこともあるし…』
『今は周りの目は気にせずに一緒に楽しもう』
『そうね』
二人だけにしか聞こえない、踊りながら交わす魔力糸での思念会話は、心の距離の近さを象徴していた。
マリーとの踊りが終わってから、セレスティアの姿が見えない。
気になったレルゲンは、少し辺りを見回して彼女を探すが、どこにも姿は見当たらなかった。
女王に尋ねてみたが、居場所はわからないらしい。
思い当たる所はあと一つ。
――セレスティアと初めて会った中庭。
初めて念動魔術の物質分離が成功し、セレスティアに声をかけられた場所だ。
そこには、やはり見知った後ろ姿があった。
初めて会った時にも見た、月光を艶やかに反射する青く長い髪。
一人で椅子に腰掛ける姿は、一つの絵画を見ているような気分になる。
「やっぱりここにいた」
セレスティアが少し寂しそうな表情で振り向き、レルゲンに返答する。
「探しましたか?」
「セレスが見当たらなかったから、いるとしたらここかなって」
「あなたはマリーと踊りました。やはり私のこの想いは、空回りだったのでしょうね」
セレスが薬指に付けられた、魔石龍から貰った指輪を見つめる。
「セレス。この指輪、見てくれるか?」
ゆっくりとレルゲンの小指から指輪が外される。セレスティアは、もう見ていられないと顔を逸らす。
「セレス――頼む。もう一度だけ見てくれ」
レルゲンがセレスティアに頼むと、嫌々ながらも目を開いてレルゲンの手を見る。
それを見たセレスティアの頬に、一筋の涙が流れ、二人の影が重なった。
夜闇の星々に照らされた二つの指輪は、共に同じ指で輝いていた。
後日、セレスティアがナイトとの戦いで新しく覚えたディスペルで、隠蔽魔術であるハイド・スペリアで隠れていた魔族たちを炙り出し、残党は全て討伐された。
また、ナイトの魔術工房の調査から、王国の転移方法が記載されている設計図と、魔力揮発剤の簡易的な生産方法が発見された。
そして、カノンの研究が進み、王国全体を包む転移魔法陣の再構築に成功する。
転移に必要な魔力はレルゲンが担当し、王国を元の位置に戻した。
この短期的な王国転移事件に便乗して、王国の転移前の位置へ動きを見せる国も中にはあったようだが、いざ移転するタイミングで王国が戻った。
その動きによって両国の関係が悪化したのは、また機会があれば語るとしよう。
国が元に戻り、商人や観光に来る人々が戻り、全てが元に戻ろうとしていたが、決定的に変わったのが一つ。
マリーがレルゲンとの挙式を行った。
そして、その後まもなくセレスティアも式を行い、相手は同じ副団長であるということから、国民は一時騒然となった。
だが、この一連の事件を解決した英雄であることが広まってから、事態はすぐに鎮静へと向かった。
レルゲンたちの中央王国はまだまだ発展途上。まだまだ問題は山程出てくる。
それでも、二人の王女が望んだ未来を叶えるために――レルゲンはまた喜んで走り続ける。
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